euthanasie
03
城ヶ崎はいつもそれを見ていた。それを見ると元気が出てきた。慣れない委員の職務にも何とか耐えているのもこれのお蔭だった。
それはコインだ。映画を見たという彼がグッズとして販売されていたものを購入したらしい。ストーカーといった話ではなく、純粋に聞いてきただけだ。
「もらったの?」
「ああ。俺より持ってるべきだろと言ってくれた。」
ぱちん、と音をつけてコインをキャッチする。なんの真似?と河村が聞いて来るので「映画のマネだ」とすげなく返した。
「ふーん。」
河村は映画には興味がないそうだ。と、言っても城ヶ崎もそれほど興味があるわけではない。ただ、彼がくれたものだからと見に行った。めちゃくちゃ感動したし、彼にコインを返さなきゃいけない、と思った。調べてみるとチャレンジコインなるものらしく、兵隊たちが士気を高めるために持っていたものということだった。同じ映画のグッズでいいのか心配だったが、元々彼が持っていたものをもらったのだから、と同じものを買った。
返したい、と声をかけると彼はこそこそと歩いてきて「もしかして、観に行ったのか」と質問してきた。買いに行ったのか、ではない辺りが面白いなあと思いながら頷いた。その時の彼の顔といったらない。慌てたような嬉しいようなそんな表情で、ぐっとこらえた後「潜水艦、どうだった?」と聞いてきた。
「よかった。」
「だよなぁ!!」
「……二人の、艦長の生きざまが。すごくて。」
「うんうん!! わかる、めっちゃわかる! 最初の皆を従わせるあのシーンやばいよな、もう男の中の男って感じで!」
「うん、分かる。」
自分はその時素直に笑っていた。厳つい顔をして生徒会と戦うのも忘れて、一般生徒に高圧的で自分を大きく見せる言葉も忘れていた。彼、馬場くんは渡したコインをつまんで正面に持ってきた。
「こういうの、持ってるんだって一枚。」
「うん、調べたよ。チャレンジコインって言うんだってね。」
「あの艦長はきっと自分が過ごしてきた艦隊を忘れない為に持ってるんだなって思った。」
「……そうか。」
そういうものなのか。自分にはそんな記憶していたいと思うようなこともない。自分がなんだかとっても情けなく思えた。
「ていうか、これを俺が受け取ったら友情の交換つってやつだな。」
「え?」
「え、あ、すみません……? なんか、俺まずいこと言いました?」
おどけたように、でも少し怖がっていた。ううん、嬉しいと伝えたけれど彼にはちゃんとその言葉が伝わってくれていただろうか。その後、馬場は二人で交換したことが分かるように、とそのコインに穴をあけてくれた。技術室での卓上ボール盤で穴を開けてチェーンを通してくれた。
「はい、じゃあこれ。」
「……ありがとう。」
「いえいえ。それじゃ、俺のはこっちのコインで。」
「ああ。」
「って、勝手にアクセにしたけど良かった? 嫌なら変えるんだけど。」
「嫌じゃない。カバンにつける。」
「ふふ、肌身離さず持たなきゃいけないからな。」
そう言って彼はあの映画の時のキャラクターのように敬礼して笑った。
「ねえ、トリップしてる?」
「うん、してた。」
「馬鹿正直に答えないでよ、私が反応に困る。ね、馬場くん。あと5分くらいで着くと思うって。私、もう行っていいわよね?」
「……。だめ。」
「なんでよ!? 城ケ崎、あんたが会いたいって言いだしたんだからね!? これ以上付き合いたくないわよ!?」
「いや、向こうが俺を覚えてるのか不安で仕方ない。なんか、もう、え、吐きそう。」
「吐くな。私は行く。」
河村は俺を見捨てるとそのまま行ってしまった。お金は元から俺が支払うことになっていたのでそれは別にいいのだが、フラれてしまった感が強い。ヒソヒソ話が「フリーなのかな」「可哀想」という言葉に変わっていた。
「あの、すいません。待ち合わせで。」
彼の声が聞こえた。見ると彼はそこら辺に居るようなシンプルなシャツとジーパンという姿だった。制服姿じゃないっていうそれだけのことに何だか嬉しさを感じてしまう。
「こっち、だよ!」
声が裏替えってしまった。店員は「え、」と驚いた顔をしている。馬場はと言うと久々に会えたねとでもいうかのように笑顔だった。
「久しぶり!」
「うん、久しぶり。」
城ヶ崎はいつもそれを見ていた。それを見ると元気が出てきた。慣れない委員の職務にも何とか耐えているのもこれのお蔭だった。
それはコインだ。映画を見たという彼がグッズとして販売されていたものを購入したらしい。ストーカーといった話ではなく、純粋に聞いてきただけだ。
「もらったの?」
「ああ。俺より持ってるべきだろと言ってくれた。」
ぱちん、と音をつけてコインをキャッチする。なんの真似?と河村が聞いて来るので「映画のマネだ」とすげなく返した。
「ふーん。」
河村は映画には興味がないそうだ。と、言っても城ヶ崎もそれほど興味があるわけではない。ただ、彼がくれたものだからと見に行った。めちゃくちゃ感動したし、彼にコインを返さなきゃいけない、と思った。調べてみるとチャレンジコインなるものらしく、兵隊たちが士気を高めるために持っていたものということだった。同じ映画のグッズでいいのか心配だったが、元々彼が持っていたものをもらったのだから、と同じものを買った。
返したい、と声をかけると彼はこそこそと歩いてきて「もしかして、観に行ったのか」と質問してきた。買いに行ったのか、ではない辺りが面白いなあと思いながら頷いた。その時の彼の顔といったらない。慌てたような嬉しいようなそんな表情で、ぐっとこらえた後「潜水艦、どうだった?」と聞いてきた。
「よかった。」
「だよなぁ!!」
「……二人の、艦長の生きざまが。すごくて。」
「うんうん!! わかる、めっちゃわかる! 最初の皆を従わせるあのシーンやばいよな、もう男の中の男って感じで!」
「うん、分かる。」
自分はその時素直に笑っていた。厳つい顔をして生徒会と戦うのも忘れて、一般生徒に高圧的で自分を大きく見せる言葉も忘れていた。彼、馬場くんは渡したコインをつまんで正面に持ってきた。
「こういうの、持ってるんだって一枚。」
「うん、調べたよ。チャレンジコインって言うんだってね。」
「あの艦長はきっと自分が過ごしてきた艦隊を忘れない為に持ってるんだなって思った。」
「……そうか。」
そういうものなのか。自分にはそんな記憶していたいと思うようなこともない。自分がなんだかとっても情けなく思えた。
「ていうか、これを俺が受け取ったら友情の交換つってやつだな。」
「え?」
「え、あ、すみません……? なんか、俺まずいこと言いました?」
おどけたように、でも少し怖がっていた。ううん、嬉しいと伝えたけれど彼にはちゃんとその言葉が伝わってくれていただろうか。その後、馬場は二人で交換したことが分かるように、とそのコインに穴をあけてくれた。技術室での卓上ボール盤で穴を開けてチェーンを通してくれた。
「はい、じゃあこれ。」
「……ありがとう。」
「いえいえ。それじゃ、俺のはこっちのコインで。」
「ああ。」
「って、勝手にアクセにしたけど良かった? 嫌なら変えるんだけど。」
「嫌じゃない。カバンにつける。」
「ふふ、肌身離さず持たなきゃいけないからな。」
そう言って彼はあの映画の時のキャラクターのように敬礼して笑った。
「ねえ、トリップしてる?」
「うん、してた。」
「馬鹿正直に答えないでよ、私が反応に困る。ね、馬場くん。あと5分くらいで着くと思うって。私、もう行っていいわよね?」
「……。だめ。」
「なんでよ!? 城ケ崎、あんたが会いたいって言いだしたんだからね!? これ以上付き合いたくないわよ!?」
「いや、向こうが俺を覚えてるのか不安で仕方ない。なんか、もう、え、吐きそう。」
「吐くな。私は行く。」
河村は俺を見捨てるとそのまま行ってしまった。お金は元から俺が支払うことになっていたのでそれは別にいいのだが、フラれてしまった感が強い。ヒソヒソ話が「フリーなのかな」「可哀想」という言葉に変わっていた。
「あの、すいません。待ち合わせで。」
彼の声が聞こえた。見ると彼はそこら辺に居るようなシンプルなシャツとジーパンという姿だった。制服姿じゃないっていうそれだけのことに何だか嬉しさを感じてしまう。
「こっち、だよ!」
声が裏替えってしまった。店員は「え、」と驚いた顔をしている。馬場はと言うと久々に会えたねとでもいうかのように笑顔だった。
「久しぶり!」
「うん、久しぶり。」
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