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euthanasie


 馬場のいた学校ではなぜかよく分からないのだが変な生徒会の決め方がされていて、変な生徒会が学校を牛耳っていた。それについては馬場は一般生徒であるため声を上げて「おかしい」と言うこともなかったのだが、大学に来てから「え、あれ、おかしかったんだ」と実感した。ドラマのようなことが実際にあったのに、馬場にとっては「あの学校、歴史を作るんだなあ」ぐらいにしか思っていなかった。
「菅野のところは? 真面目だったのか?」
「いや、俺のところもギャグだったけど……うん。お前ほどじゃないかな。」
「そっか。」
 俺の学校はギャグ扱いされるのか、と少しだけ悲しむ気持ちを持って馬場は前を向いた。授業が始まってしまう。大学一年生、必修の授業はきちんと出席もとるので前を向いて聞かないと欠席扱いにされてしまう。
 お金にならない遊ぶんがくぶ、と呼ばれている文学部に来たのは単純に彼のレベルではここにしか来れなかったからである。遊ぶというワードよりも想像以上に辛い演習が待っていたがそれもそのはず、学部でも有名な先生のゼミに馬場は配属されていた。菅野はそのゼミで知り合った友人である。向こうはオリエンテーションで馬場のことを覚えていたようだが生憎と馬場は何も覚えていなかった。菅野は笑って許してくれたが馬場はその真面目さからどうも菅野のお願いごとに弱くなった。申し訳ないなあという気持ちが先にあった。

「ねえ、馬場くんさ。今度合コンに来ない?」
 同じゼミ生である河村にそんなことを聞かれた。大学生って感じがひしひしと心にきた。あの高校では合コンなどと言っても寮生たちしかいないのでどこかに出会いがあるわけでもなかった。行くいくと頷いた時、のしりと菅野が上に乗ってきた。
「あ、菅野。」
「何~合コン~~? いいね~。」
「菅野も来たいのー? 人集めるよー?」
「いやぁ、俺と馬場ちゃんその日は予定入ってるんだよね。」
 え?と馬場が手帳を確認するとその日は菅野と遊びに行く予定だった。しかし、美術館に行くくらいならその日の夜は空いている。どうせ午前中に集まるのだから、と思ったが菅野の顔は馬場を見つめていた。
「ねぇー馬場ちゃん。」
 その一言が重い。馬場は「あー、そうだった。忘れてた。」と頷くしかなかった。
 河村は「あ、そ」と釣れないふたりを置いて自分の席へと戻っていった。スマホをぽちぽちと打ち込み、ゼミの男は来なかったと誰かに報告しているのだろう。菅野はいつものような1つ空けた席ではなく、わざわざ馬場のすぐ隣に座った。
「馬場ちゃん、怒ってる?」
「何が?」
「……断っちゃったこと。」
 菅野はしょんぼりした顔で言う。そんな顔をするくらいなら俺を合コンに行かせてくれよ、とここで言ってはいけない。菅野の心は見えないだけでデリケートである。
「いや? 次の土曜はどうしようかなって。」
「! ならさ、俺と一緒に映画見ようよ。」
「お前のうちはパソコンで見ることになるだろー。」
「馬場ちゃんのうちに泊まらせてよ~。」
 菅野はいいやつだがすぐに家に泊まりたがる。お泊まり用の荷物が段々と増えていることに気づいてはいるが、女を連れ込むためのものでもなし、菅野には弱い立場にいる馬場は仕方ないと諦めてしまうのだった。

 河村がスマホに打ち込んでいたのは確かに馬場が来れないことの報告だったが、その相手は馬場の想像していた女友達ではなく、馬場の同級生である城ヶ崎だった。生徒会ではなくその対立する側、風紀委員に所属していたので菅野はその存在も知らされていない。馬場も覚えているか怪しい立場にいる。
 河村は馬場くん来れないってよー、菅野が来ちゃったとチャットに打ち込むと「まじか、俺も行かなくていい?」と返事が来た。
「いや、あんたは来なさいよっ!!」
 携帯の画面にそう話しかけてしまう。
「かぁーむら、うるせー。なになに、どうしたの?」
「馬場くんが合コン捕まらなかった。」
「んー、まあ菅野いるしねー。」
「誘った時いなかったもん!」
「あいつら、基本セットじゃん。あきらめろってー。」
 緩い喋り方で友人からそんなことを言われる。河村とて別に無理して馬場に来て欲しい訳では無い。だが、今回の目玉である城ヶ崎の条件は馬場文和を連れてくること、もしくは自分を馬場に会わせることであった。げえ、こいつも結局は馬場狙いかよと悲しくなったのは言うまでもない。河村はもっと普通の顔をした人、馬場ぐらいの顔の方が好きなのだが城ヶ崎や菅野のような顔のいい男たちが周りを囲むせいでこちらも困っているのである。
「くっそぉ……。」
 それでも主催者であるため我慢である。馬場のチャットはゼミの方から手に入る。城ヶ崎と会わせるセッティングを菅野に邪魔されないうちに今からしなければならなかった。
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