杏の花が咲く
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意を決して私はその部屋のドアをノックした。数秒待ったあとにドアが開いて、メイスさんが顔を覗かせた。首にかけているヘッドフォンからは小さくギターとドラムの音が聞こえる。不思議そうに此方をみるメイスさんに対し、私は後ろに隠していた化学のワークを前にだした。
「メイスさん、化学得意ですか?わからないところがあって…よかったら教えてくれませんか?」
よし、言えた。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というけれど、聞くときの緊張を何度も体験するなら聞かないのも身のためなのではないか、と思ってしまう。メイスさんは片手でヘッドフォンと繋がっている音楽プレイヤーを操作し、流れていた音楽を止めた。
「得意ってほどじゃないが、1年の範囲なら去年やったところだから教えられるぜ」
そう言って少しだけ開いていた部屋のドアを開けて、私を招き入れる。メイスさんの部屋はベッドと机にカラーボックスが一つしかない、物の少ない部屋だった。少し迷って、メイスさんの横に座る。
「どこがわからないんだ」
「えっと、ここです。基礎はできるんですけど応用がよくわからなくて」
ワークを開き、先程印をつけた問題を指す。メイスさんは一通り問題を読んだあと、すぐに解答へたどり着いた。私が何度読んでも問題文すら理解できなかったのに。
メイスさんの解説は学校の先生よりも分かりやすかった。なぜその式を使うのかどうしてそうなるのか、私が基礎でうやむやにしていた部分でさえ聞くとすぐに答えが返ってくる。得意じゃない、といっていたのは嘘なのではないかと疑いたくなる。
メイスさんの角ばった細い字が解説にあわせてワークへ書かれていく。私の書く字とは違う綺麗な字だった。
「解けた…。やった、ありがとうございます!」
あれだけ悩んだ問題はメイスさんのおかげですぐに解答までたどり着いた。諦めかけていた問題だった。もし断られていたらテストにでてこないことを祈る問題だった。
「メイスさん教えるのうまいですね!先生より分かりやすかったです」
「テスト前になると泣きついてくるやつがいるからな…。名前はちゃんと勉強しろよ」
「え、は、はい」
そう言って、メイスさんはどこか遠くをみる。心なしか疲れている表情にみえた。
メイスさんに何度もお礼をいって部屋を出る。少したってから、メイスさんの部屋に入らせてもらったことに気づいてベッドの上でバタバタと暴れそうになった。
化学のテストはメイスさんに教えてもらった場所がピッタリでて、おかげさまで89点という高得点をとることができた。理系は苦手な私にとっては十分高得点だし、中学校の理科でもこんな高い点数をとることはなかった。嬉しくてテスト用紙を写真に撮って、メイスさんへと送る。すぐに既読がついて、メイスさんから良かったな。おめでとう。という文が返ってきた。
家に帰るとちょうどメイスさんも帰ってきていたようだった。向かい合ったお互いの手にはコンビニの袋が握られている。メイスさんに教えてもらったお礼として少しだけではあるけれど、甘さ控えめのお菓子を買って渡そうと思っていた。メイスさんもまた、私がテストで良い点をとったからとお菓子を買ってきていたらしい。
二人で見つめあってコンビニの袋を見比べる。私とメイスさんのどちらかが先に笑ったのかはわからない。二人で笑いながら、お互い持っていたコンビニの袋を交換する。
「折角なので、一緒に食べませんか?」
メイスさんが頷いて、私たちはリビングへと降りた。いつも部屋にいるメイスさんがリビングにいるのは珍しい。夢のようだ。甘いものだけではない幸福感が私を満たしていった。
「メイスさん、化学得意ですか?わからないところがあって…よかったら教えてくれませんか?」
よし、言えた。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というけれど、聞くときの緊張を何度も体験するなら聞かないのも身のためなのではないか、と思ってしまう。メイスさんは片手でヘッドフォンと繋がっている音楽プレイヤーを操作し、流れていた音楽を止めた。
「得意ってほどじゃないが、1年の範囲なら去年やったところだから教えられるぜ」
そう言って少しだけ開いていた部屋のドアを開けて、私を招き入れる。メイスさんの部屋はベッドと机にカラーボックスが一つしかない、物の少ない部屋だった。少し迷って、メイスさんの横に座る。
「どこがわからないんだ」
「えっと、ここです。基礎はできるんですけど応用がよくわからなくて」
ワークを開き、先程印をつけた問題を指す。メイスさんは一通り問題を読んだあと、すぐに解答へたどり着いた。私が何度読んでも問題文すら理解できなかったのに。
メイスさんの解説は学校の先生よりも分かりやすかった。なぜその式を使うのかどうしてそうなるのか、私が基礎でうやむやにしていた部分でさえ聞くとすぐに答えが返ってくる。得意じゃない、といっていたのは嘘なのではないかと疑いたくなる。
メイスさんの角ばった細い字が解説にあわせてワークへ書かれていく。私の書く字とは違う綺麗な字だった。
「解けた…。やった、ありがとうございます!」
あれだけ悩んだ問題はメイスさんのおかげですぐに解答までたどり着いた。諦めかけていた問題だった。もし断られていたらテストにでてこないことを祈る問題だった。
「メイスさん教えるのうまいですね!先生より分かりやすかったです」
「テスト前になると泣きついてくるやつがいるからな…。名前はちゃんと勉強しろよ」
「え、は、はい」
そう言って、メイスさんはどこか遠くをみる。心なしか疲れている表情にみえた。
メイスさんに何度もお礼をいって部屋を出る。少したってから、メイスさんの部屋に入らせてもらったことに気づいてベッドの上でバタバタと暴れそうになった。
化学のテストはメイスさんに教えてもらった場所がピッタリでて、おかげさまで89点という高得点をとることができた。理系は苦手な私にとっては十分高得点だし、中学校の理科でもこんな高い点数をとることはなかった。嬉しくてテスト用紙を写真に撮って、メイスさんへと送る。すぐに既読がついて、メイスさんから良かったな。おめでとう。という文が返ってきた。
家に帰るとちょうどメイスさんも帰ってきていたようだった。向かい合ったお互いの手にはコンビニの袋が握られている。メイスさんに教えてもらったお礼として少しだけではあるけれど、甘さ控えめのお菓子を買って渡そうと思っていた。メイスさんもまた、私がテストで良い点をとったからとお菓子を買ってきていたらしい。
二人で見つめあってコンビニの袋を見比べる。私とメイスさんのどちらかが先に笑ったのかはわからない。二人で笑いながら、お互い持っていたコンビニの袋を交換する。
「折角なので、一緒に食べませんか?」
メイスさんが頷いて、私たちはリビングへと降りた。いつも部屋にいるメイスさんがリビングにいるのは珍しい。夢のようだ。甘いものだけではない幸福感が私を満たしていった。