杏の花が咲く
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衣替えも終わって、本格的に夏が近づくとともに私たち学生の前には期末テストというものも近づいてきている。テストと聞けばほとんどの学生は憂鬱になる。例外なく私もそうだった。1年生のはじめのテストでまだ難しくないとはいえ、気分があがるものではない。部活動もやってはいけないから、折角取りかかりはじめたぬいぐるみ作りもはじめのほうで製作がとまっている。ようやく縫い物にも慣れてきていた頃合いだったというのに。
早く帰れるのは嬉しいけれど、勉強をする気にはなれずに部屋でゴロゴロとスマホを弄ったり、読みかけの本を読んだり、掃除をしたり別のことばっかりしてしまう。やろうという気持ちになる頃には眠気が襲ってきて結局ちゃんとできずに一日が終わっていく。
一年生のはじめから躓くのは非常にまずい。平均点以下のテストを持って帰ってきたときの母の顔は恐ろしいものだった。家でできなければ外でやればいいじゃない、そんなことを思ったが吉日、私はアイナと近くファミレスで勉強会をすることになった。想定外の出来事はそこにガロ君も参加していることだ。
一緒に勉強しようとアイナを誘ったとき、ちょうど近くにいたガロ君が参加を希望し、特に断る理由もなかったから承諾した。それはいいんだけれど、あんまりガロ君と話したことないんだよな、私。思い出せば初めて話したのは陸上競技大会のときで、それからは話していない。不安を抱えたまま、アイナのとなりでワークを開いた。
3人集まれば文殊の知恵というのは、本当にその通りだった。わからないところは大抵誰かが知っているし全員わからなければ、全員で考えて答えを出していく。もしかすると話して終わってしまうかもしれないという思いとは全く反対だった。当初の思惑通り、家にいるときよりも捗っている。
ガロ君と話したことがないという不安はガロ君のコミュニケーション能力の高さで吹っ飛んでいった。たぶんガロ君には気まずいとかそういうのはないんだと思う。友達の友達は友達、ということなのだろう。
「休憩!休憩だ!」
ちょうど応用問題を解き終わったところでガロ君が、そう声をあげた。アイナがうるさい!とガロ君に注意する。ガロ君はその注意も気にせずドリンクバーのコーナーへと席をたち向かっていった。時計をみれば、もう1時間以上は時間がたっていた。
「休憩にしよっか」
「ずっと文字書いてるから手が真っ黒だ」
そういうアイナの手の横が黒くなっている。努力した証拠がそこに表れていた。
アイナもドリンクバーへ向かい、私は荷物番として席を立たなかった。すぐにガロ君が戻ってきたが、ガロ君が手にもっているドリンクは不思議な色合いをしている。なにそれ。私がそれを見ていることに気が付いたガロ君が飲むか?と言う。全力で首を横に振った。
「それ何を混ぜたの?」
「あー…コーラと、メロンソーダだったか?うまいぜ」
美味しいんだ。コーラとメロンソーダ、味の想像が全くつかない。ガロ君が特に何事もなく飲んでいるから味は大丈夫なのだろう。
アイナが戻ってくる。私の分までとってきてくれたらしく、両手にドリンクをもっていた。
一休憩したあと、また勉強会を再開する。先程よりも集中力はきれてきたこともあってか雑談をついしてしまう。よく話題に上がったのは校長先生や教頭先生は一体幾つなのか、イグニス先生とヴァルカン先生の決着はつくのかだった。最近、理科室で謎の機械音が聞こえるという怪奇現象も起こっているのだとガロ君がいっていた。
「部活の先輩がいってたんだけど、学校でずっと流れてる噂の一つに校長先生の目が開くと終末が訪れる…なんていうのもあるらしいよ」
「誰が言い始めたんだろうそれ…」
「校長がそんなことするわけねぇって」
「だから噂だって」
校長先生の目が開くときか。あの穏和そうな校長先生からは想像できない噂だ。もしかすると、目を開くときは怒っているときで、終末だと思うくらい怖い…とか。さすがに想像力を働かせすぎだろう。その考えを頭を振ってとばした。
「にしてもガロが真面目に勉強するとは思わなかったな」
「ごめん、それは私もちょっと思ってた」
「お前らなあ!俺だって真面目に勉強するときくらいあんだよ」
「授業中けっこう寝てるのに?」
そう言われたガロ君はうっと言葉を詰まらせる。図星なんだ。授業中に机に顔を突っ伏して寝ているガロ君はすぐに想像することができた。
「俺を育ててくれてる人にテストで良い点とってよ、自慢してえからな」
ガロ君は少し照れたように笑った。私もアイナもなんとなく込み入った事情があるのを察してそれ以上深く突っ込むことはしなかった。そっか、頑張ってねという励ましの言葉をいうとガロ君はまたよく通る声でおう、と返事をした。
ファミレスをでたのは日が落ちかけて暗くなってきたくらいの時間帯だった。日が長くなっているから時間が当初の予定よりすぎていることに気がつかず、大慌てでファミレスからでる。アイナのお姉さんから連絡がなければ気づくのはもっと遅れたことだろう。
外で勉強してよかったと思えるくらいには捗った。毎日は無理だけれど何回かこういう日をつくっても良いのかもしれない。
家に帰ると、先に帰ってきていたメイスさんがリビングにいた。テレビもつけず、ソファでスマホを触っていた。珍しいな、と思い声をかける前にメイスさんは階段を上がり自分の部屋へと戻っていく。なんだったんだろう。何かいいたそうな顔をしていたような気がするのは気のせいだろうか。だけど夜ご飯のときもメイスさんは何も言わなかった。
もしかして私何かやってしまったのだろうか。自分では気づいていないかもしれないけれど、知らず知らずのうちに不興を買ってしまったのかもしれない。そう思うと自分の行動の節々にそんなことがあったように思えてくる。折角最近仲良くなってきてるんじゃないかと思い始めてきたところだったのに。
モヤモヤとした気持ちのまま学校へと向かう。今までのことを思い返してみるがどこがいけなかったのかわからなかった。
「名前、なんだか元気がないけれど…体調でも悪いのか?」
リオ君が心配そうに話しかけてくる。はたから見ても、分かりやすいくらい落ち込んでいたらしい。リオ君に話してみようかちょっとだけ悩んで、私よりもメイスさんに詳しいだろうリオ君に相談する。
「メイスさんって何か私のこといってた?嫌だったとか…そういうの…」
リオ君はびっくりした顔をしたあと、どうしてそう思ったのかを聞いた。私が昨日のことを短く伝えると顎に手を当てて考えこんでしまう。
「メイスが名前に対して不満をいったことは一度もないから不安がる必要はないよ。むしろ…」
とそこで言葉をきった。むしろ、の続きが気になる。リオ君の言葉の続きを待ったけれど、リオ君は「僕がいうべきことじゃないな」とその続きをいうことはなかった。結局新しくモヤモヤした気持ちを抱えることになってしまった。
放課後、授業が終わっても私は学校にいた。家では勉強に集中できないし、メイスさんがもし私に対して嫌な感情があったらと思うと帰るのを躊躇ってしまった。
図書室でノートとワークを開き、シャープペンをもつけれど昨日のメイスさんの態度と今日のリオ君の言葉が気になって集中できない。早い段階でノートとワークを閉じる。こうなったらメイスさんに直接聞きにいけばいいんだ。さっさと鞄に道具を詰め込んで帰路へつく。メイスさんのバイクはなかった。家にまだ帰っていないらしい。リビングで帰ってくるのを待ったけれど、一向に帰ってこない。テスト期間は2年生も変わらないから、部活もないはずなのに。学校にいたときに膨らんでいた気持ちはすっかりしぼんでいて、事故にでもあったんじゃないかと心配になってきた。そわそわと部屋のなかをうろついたり冷蔵庫を意味もなく開けて待つ。
メイスさんが帰ってきたのは夜ご飯の時間が近づいていたときだった。玄関のドアがあく音を聞いた私は勢いよくその音のほうへ向かう。
「お帰りなさい!」
鬼気迫る表情だったのか、勢いに驚いたのかわからないけれどメイスさんはワンテンポ遅れて、ただいま、とだけ返した。
「あの、何処行ってたんですか?遅いから事故にでもあったんじゃないかって心配したんですよ」
少しきつい言い方になってしまったし、プライベートに突っ込んでしまったんじゃないか、と言い終わったあとに後悔した。メイスさんの靴を脱ぐ動作が一瞬止まった。メイスさんが私の前に立つと身長差で見上げなければいけない。こちらを見下ろすメイスさんがスマホを取り出して、メッセージアプリのQRコードを私に見せてくる。一瞬反応が遅れて私もわたわたとスマホを取り出して読み込む。メイスさんの名前とシンプルなプロフィール画像とともに友達追加の画面がでてきた。いいんですか?と目線を送ると頷かれる。
「…ダチの勉強につきあって遅くなった。今度から遅くなるときは連絡する。名前も遅くなるときは連絡してくれ」
そういってメイスさんは2階へ上がっていく。私は昨日のメイスさんの態度をそこではじめて理解して、思わずその場に座り込んでしまった。もしかして昨日帰りが遅かったから心配されていた……?熱が集まる顔を隠すように顔を手で覆ってしばらくその場から動かなかった。
早く帰れるのは嬉しいけれど、勉強をする気にはなれずに部屋でゴロゴロとスマホを弄ったり、読みかけの本を読んだり、掃除をしたり別のことばっかりしてしまう。やろうという気持ちになる頃には眠気が襲ってきて結局ちゃんとできずに一日が終わっていく。
一年生のはじめから躓くのは非常にまずい。平均点以下のテストを持って帰ってきたときの母の顔は恐ろしいものだった。家でできなければ外でやればいいじゃない、そんなことを思ったが吉日、私はアイナと近くファミレスで勉強会をすることになった。想定外の出来事はそこにガロ君も参加していることだ。
一緒に勉強しようとアイナを誘ったとき、ちょうど近くにいたガロ君が参加を希望し、特に断る理由もなかったから承諾した。それはいいんだけれど、あんまりガロ君と話したことないんだよな、私。思い出せば初めて話したのは陸上競技大会のときで、それからは話していない。不安を抱えたまま、アイナのとなりでワークを開いた。
3人集まれば文殊の知恵というのは、本当にその通りだった。わからないところは大抵誰かが知っているし全員わからなければ、全員で考えて答えを出していく。もしかすると話して終わってしまうかもしれないという思いとは全く反対だった。当初の思惑通り、家にいるときよりも捗っている。
ガロ君と話したことがないという不安はガロ君のコミュニケーション能力の高さで吹っ飛んでいった。たぶんガロ君には気まずいとかそういうのはないんだと思う。友達の友達は友達、ということなのだろう。
「休憩!休憩だ!」
ちょうど応用問題を解き終わったところでガロ君が、そう声をあげた。アイナがうるさい!とガロ君に注意する。ガロ君はその注意も気にせずドリンクバーのコーナーへと席をたち向かっていった。時計をみれば、もう1時間以上は時間がたっていた。
「休憩にしよっか」
「ずっと文字書いてるから手が真っ黒だ」
そういうアイナの手の横が黒くなっている。努力した証拠がそこに表れていた。
アイナもドリンクバーへ向かい、私は荷物番として席を立たなかった。すぐにガロ君が戻ってきたが、ガロ君が手にもっているドリンクは不思議な色合いをしている。なにそれ。私がそれを見ていることに気が付いたガロ君が飲むか?と言う。全力で首を横に振った。
「それ何を混ぜたの?」
「あー…コーラと、メロンソーダだったか?うまいぜ」
美味しいんだ。コーラとメロンソーダ、味の想像が全くつかない。ガロ君が特に何事もなく飲んでいるから味は大丈夫なのだろう。
アイナが戻ってくる。私の分までとってきてくれたらしく、両手にドリンクをもっていた。
一休憩したあと、また勉強会を再開する。先程よりも集中力はきれてきたこともあってか雑談をついしてしまう。よく話題に上がったのは校長先生や教頭先生は一体幾つなのか、イグニス先生とヴァルカン先生の決着はつくのかだった。最近、理科室で謎の機械音が聞こえるという怪奇現象も起こっているのだとガロ君がいっていた。
「部活の先輩がいってたんだけど、学校でずっと流れてる噂の一つに校長先生の目が開くと終末が訪れる…なんていうのもあるらしいよ」
「誰が言い始めたんだろうそれ…」
「校長がそんなことするわけねぇって」
「だから噂だって」
校長先生の目が開くときか。あの穏和そうな校長先生からは想像できない噂だ。もしかすると、目を開くときは怒っているときで、終末だと思うくらい怖い…とか。さすがに想像力を働かせすぎだろう。その考えを頭を振ってとばした。
「にしてもガロが真面目に勉強するとは思わなかったな」
「ごめん、それは私もちょっと思ってた」
「お前らなあ!俺だって真面目に勉強するときくらいあんだよ」
「授業中けっこう寝てるのに?」
そう言われたガロ君はうっと言葉を詰まらせる。図星なんだ。授業中に机に顔を突っ伏して寝ているガロ君はすぐに想像することができた。
「俺を育ててくれてる人にテストで良い点とってよ、自慢してえからな」
ガロ君は少し照れたように笑った。私もアイナもなんとなく込み入った事情があるのを察してそれ以上深く突っ込むことはしなかった。そっか、頑張ってねという励ましの言葉をいうとガロ君はまたよく通る声でおう、と返事をした。
ファミレスをでたのは日が落ちかけて暗くなってきたくらいの時間帯だった。日が長くなっているから時間が当初の予定よりすぎていることに気がつかず、大慌てでファミレスからでる。アイナのお姉さんから連絡がなければ気づくのはもっと遅れたことだろう。
外で勉強してよかったと思えるくらいには捗った。毎日は無理だけれど何回かこういう日をつくっても良いのかもしれない。
家に帰ると、先に帰ってきていたメイスさんがリビングにいた。テレビもつけず、ソファでスマホを触っていた。珍しいな、と思い声をかける前にメイスさんは階段を上がり自分の部屋へと戻っていく。なんだったんだろう。何かいいたそうな顔をしていたような気がするのは気のせいだろうか。だけど夜ご飯のときもメイスさんは何も言わなかった。
もしかして私何かやってしまったのだろうか。自分では気づいていないかもしれないけれど、知らず知らずのうちに不興を買ってしまったのかもしれない。そう思うと自分の行動の節々にそんなことがあったように思えてくる。折角最近仲良くなってきてるんじゃないかと思い始めてきたところだったのに。
モヤモヤとした気持ちのまま学校へと向かう。今までのことを思い返してみるがどこがいけなかったのかわからなかった。
「名前、なんだか元気がないけれど…体調でも悪いのか?」
リオ君が心配そうに話しかけてくる。はたから見ても、分かりやすいくらい落ち込んでいたらしい。リオ君に話してみようかちょっとだけ悩んで、私よりもメイスさんに詳しいだろうリオ君に相談する。
「メイスさんって何か私のこといってた?嫌だったとか…そういうの…」
リオ君はびっくりした顔をしたあと、どうしてそう思ったのかを聞いた。私が昨日のことを短く伝えると顎に手を当てて考えこんでしまう。
「メイスが名前に対して不満をいったことは一度もないから不安がる必要はないよ。むしろ…」
とそこで言葉をきった。むしろ、の続きが気になる。リオ君の言葉の続きを待ったけれど、リオ君は「僕がいうべきことじゃないな」とその続きをいうことはなかった。結局新しくモヤモヤした気持ちを抱えることになってしまった。
放課後、授業が終わっても私は学校にいた。家では勉強に集中できないし、メイスさんがもし私に対して嫌な感情があったらと思うと帰るのを躊躇ってしまった。
図書室でノートとワークを開き、シャープペンをもつけれど昨日のメイスさんの態度と今日のリオ君の言葉が気になって集中できない。早い段階でノートとワークを閉じる。こうなったらメイスさんに直接聞きにいけばいいんだ。さっさと鞄に道具を詰め込んで帰路へつく。メイスさんのバイクはなかった。家にまだ帰っていないらしい。リビングで帰ってくるのを待ったけれど、一向に帰ってこない。テスト期間は2年生も変わらないから、部活もないはずなのに。学校にいたときに膨らんでいた気持ちはすっかりしぼんでいて、事故にでもあったんじゃないかと心配になってきた。そわそわと部屋のなかをうろついたり冷蔵庫を意味もなく開けて待つ。
メイスさんが帰ってきたのは夜ご飯の時間が近づいていたときだった。玄関のドアがあく音を聞いた私は勢いよくその音のほうへ向かう。
「お帰りなさい!」
鬼気迫る表情だったのか、勢いに驚いたのかわからないけれどメイスさんはワンテンポ遅れて、ただいま、とだけ返した。
「あの、何処行ってたんですか?遅いから事故にでもあったんじゃないかって心配したんですよ」
少しきつい言い方になってしまったし、プライベートに突っ込んでしまったんじゃないか、と言い終わったあとに後悔した。メイスさんの靴を脱ぐ動作が一瞬止まった。メイスさんが私の前に立つと身長差で見上げなければいけない。こちらを見下ろすメイスさんがスマホを取り出して、メッセージアプリのQRコードを私に見せてくる。一瞬反応が遅れて私もわたわたとスマホを取り出して読み込む。メイスさんの名前とシンプルなプロフィール画像とともに友達追加の画面がでてきた。いいんですか?と目線を送ると頷かれる。
「…ダチの勉強につきあって遅くなった。今度から遅くなるときは連絡する。名前も遅くなるときは連絡してくれ」
そういってメイスさんは2階へ上がっていく。私は昨日のメイスさんの態度をそこではじめて理解して、思わずその場に座り込んでしまった。もしかして昨日帰りが遅かったから心配されていた……?熱が集まる顔を隠すように顔を手で覆ってしばらくその場から動かなかった。