杏の花が咲く
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アイナとお昼を食べる。アイナはつかれたー!といいながらも楽しそうにしていた。出場した全ての競技で1位を取っているアイナには尊敬の念しか抱けない。午前が終わった時点ではどこか一つ飛び抜けているクラスもなく、得点はどこも変わらなかった。
選抜リレーにでるアイナはご飯を食べたあとバトンパスの最終的な練習をするらしく、早々にご飯を食べ終わっていなくなった。本当に忙しそうだ。
お昼が終わり、選抜リレーが始まる。1年生から順に行われるリレーの盛り上がりはやっぱり今日一番な気がする。応援団の応援も気合いが入っていた。
アイナは最後から3番目の順番だった。もちろん自分のクラスを応援するけれども、アイナの応援だってしたい。2位でバトンを渡されたアイナは1位との距離を詰めて次の走者にバトンを渡す。さすが陸上部で短距離メインなだけある。圧巻の走りだ。アイナのクラスのアンカーはガロ君で、バトンを受け取り猛然と走り、その前に距離を詰めた1位をとらえ、抜かし、そして1位でゴールした。ガロ君ほど1位が似合う人はいないのではないかと思ってしまう。拍手しそうになって慌てて両手を握りしめた。
1年生の選抜リレーが終わり、2年生の番になる。私が走るわけでもないのに、心臓がドクドクと早い音をたてていた。メイスさんは最後から2番目、メイスさんと一緒にいた男子生徒はアンカーだった。
ピストルの音がなった。選抜リレーともなれば全員足が速いのは当たり前で、どんどんと順番が回っていく。メイスさんのクラスはバトンパスでもたついたところがあってこともあり後方を走っていた。それでも、まだ取り返しのきく距離だと思う。握っている両手に力が入った。
メイスさんにバトンが渡った。メイスさんの長い足が素早く交互に動き、相手を捉える。速、という呟きが洩れた。長距離走とは全然違う。開いていた距離がどんどん詰まったところでメイスさんのバトンはその男子生徒に渡った。息ピッタリなバトンパスにアンカーを務めるその生徒も負けず劣らず速い。距離の詰まった他の走者を一気に抜かしてゴールする。1位だった。やった、と声をあげそうになって口をつぐむ。クラスメイトは私ほど熱中してみていなかった。そのなかで声をあげてしまえば目立ってしまうし、1位のクラスは私たちとは違うクラスだ。気まずくなってしまう。危機一髪、危なかった。
選抜リレーが終わると次に始まるのは先生たちによる紅白リレーだった。選抜リレー出場者の体力回復にあわせた余興のような種目だった。手芸部の先輩から教えてもらったことだけれど、イグニス先生とヴァルカン先生の体育教師対決が一番の目玉らしい。二人の先生はアンカーだった。ぶつかるんじゃないか、というくらい白熱した先生同士の対決は、イグニス先生が寸での差で勝ち、通算すれば35回目の対戦らしい。ことあるごとに張り合っていると先輩は笑っていた。
いよいよ全員リレーの番がきた。胃がキリキリしてくる。気を付けるべきはバトンパスと、とにかく転んだりせず走ること。私の足で誰かを抜かそうとかそういう考えはない。開く距離を最小限に留めるのが私にできる精一杯だ。これが終われば長かった一日も終わるのだから。
ピストルの音で第一走者が走り出す。待機場所で応援をしながら自分の番を待つ。男女混合のせいもあってか私と一緒に走る人は男子の方が多い。男女の差って距離があればあるほど分かりやすいのに、憂鬱だ。
私の番がどんどん近づいてくる。私のクラスは今のところ2位で、1位や3位とは少し距離があった。私の前に走る人が3位と距離を離してくれれば多少詰められても順位の変動はないだろう。私の次に走るのはたしか、バスケ部の男子だったから足には自信があると思う。
ついに走る順番が来てしまった。心臓がバクバクと音を立てているせいかいつもより緊張している。1位の走者が第一レーンに入り、その隣に並んだ。男子生徒二人に挟まれた瞬間、終わったな、と思考がストップする。心臓の音が響いてうるさかった。最悪の順番だ。すぐに1位の走者にバトンが渡って隣の生徒がいなくなる。続けて私のクラスのバトンが回ってきた。
「名前、頑張れ!」
バトンが私の手に渡ったとき、リオ君の声が聞こえた。リオ君はすでに走り終わっていて、私の待機場所とは反対側の場所にいるはずだった。その声に後押しされるように足を動かす。1位との距離はどうしようもなく開いてしまっていたし、後ろから聞こえてくる足音はホラーかと思うくらいの恐怖だったけれど、私は抜かされることなく走り抜きバトンを渡すことができた。
息が上がって上手く呼吸できない。足が震えて立っているのもやっとだった。すごく疲れた。
開いた距離はつまったりまた離されたりしながらバトンが繋がれていく。私のクラスは2位争いに勝った。1位でゴールしたのはアイナのクラスで、最後のアイナとガロ君の走りで余計に差がついての1位だった。
「お疲れ様、良い走りだったよ」
「リオ君が応援してくれたからだよ、ありがとう」
「そんなことないよ、名前が頑張ったからだ」
リオ君と一緒にテントへ戻る。応援団もこのときばかりは自分のクラスに戻っていいらしい。
水分補給をしていると一度わかれたはずのリオ君が私のもとへやってくる。メイスたちの応援をしないか、と小声で言われて反射的に頷いた。
次のリレーは2年生だからメイスさんが走る。でもクラスが違うからなかなか応援するにもできない。リオ君も同じのようで、私とリオ君は生徒用のテントから離れた木陰に移動した。他にも生徒用テントから溢れた生徒がポツポツといる。ここならば、走っているところも見えるし応援しても特に支障はなさそうだった。
メイスさんは選抜リレーと同じく、最後から2番目でアンカーも同じ男子生徒……ゲーラ、とリオ君やメイスさんがいっていた人が走るようだった。
リレーが始まった。今度は声を抑えることもなかった。テレビのスポーツ観戦をしているみたいに感嘆の声ばかりあがる。
選抜リレーのときのようなバトンのもたつきもなかったこともあり、順位に差がなかった。手に汗を握るような展開に持っていたタオルを握りしめる。
終盤に至るまでそれは変わらなかった。メイスさんと同じ順番の人の中にはアイナが所属している陸上部の先輩がいる。
メイスさんにバトンが渡ったのは4番目だった。リオ君も私もできる限りの声をあげる。リオ君の声は応援団に入っているだけあって、よくとおっていた。
メイスさんがそれまで3番目、2番目の人にぐんぐん近づいていく。2番目の人と肩を並べたところで、ゲーラさんにバトンが渡った。ゲーラさんは先頭を走っている人にゴール直前で追いついて、ほとんど僅差でゴールする。アナウンスで聞こえた1位のクラスはメイスさんたちのクラスだった。
「やったぁ!」
今度は堪えることはなかった。リオ君とその上がったテンションのままハイタッチをしたあと両手をとって喜ぶ。選抜リレーも全員リレーもどっちも1位をとるなんてすごすぎる。
全員リレーも終わり、閉会式になった。私たちのクラスは3位でアイナたちのクラスが2位、メイスさんたちのクラスが1位だった。アイナはMVP賞に選ばれ、ゲーラさんもリレーのMVP賞に選ばれていた。当たり前だと思う。まだ若いであろう校長の話は簡潔にまとめられ、あっけないくらいあっさりと閉会式は終わりを告げる。メイスさんの新しい一面が見れただけでも良かったけれど使っていない筋肉をつかったから明日は筋肉痛で動けなくなりそうだった。
家に帰ると見慣れたバイクが止まっていて、メイスさんが帰ってきていることを知る。自分の帰りたいときに帰れるのは羨ましい。
階段を上がって自分の部屋へ行く。部屋のドアノブにコンビニの袋がかかっていた。行くときはなかったはずの袋のなかには、期間限定のコンビニプリンと付属のスプーンが一つずつ、そして小さなメモ書きが入っていた。流れるような字でお疲れ。とだけかいてある。音がするんじゃないかというくらい勢いよく振り返ってメイスさんの部屋をみたが、いつもと変わらずしんとしている。
メイスさんの部屋に向かって聞こえるくらいの声で、ありがとうございます、と言う。部屋に入って食べたプリンは期間限定というのを差し引いても、いつもよりおいしく感じた。
選抜リレーにでるアイナはご飯を食べたあとバトンパスの最終的な練習をするらしく、早々にご飯を食べ終わっていなくなった。本当に忙しそうだ。
お昼が終わり、選抜リレーが始まる。1年生から順に行われるリレーの盛り上がりはやっぱり今日一番な気がする。応援団の応援も気合いが入っていた。
アイナは最後から3番目の順番だった。もちろん自分のクラスを応援するけれども、アイナの応援だってしたい。2位でバトンを渡されたアイナは1位との距離を詰めて次の走者にバトンを渡す。さすが陸上部で短距離メインなだけある。圧巻の走りだ。アイナのクラスのアンカーはガロ君で、バトンを受け取り猛然と走り、その前に距離を詰めた1位をとらえ、抜かし、そして1位でゴールした。ガロ君ほど1位が似合う人はいないのではないかと思ってしまう。拍手しそうになって慌てて両手を握りしめた。
1年生の選抜リレーが終わり、2年生の番になる。私が走るわけでもないのに、心臓がドクドクと早い音をたてていた。メイスさんは最後から2番目、メイスさんと一緒にいた男子生徒はアンカーだった。
ピストルの音がなった。選抜リレーともなれば全員足が速いのは当たり前で、どんどんと順番が回っていく。メイスさんのクラスはバトンパスでもたついたところがあってこともあり後方を走っていた。それでも、まだ取り返しのきく距離だと思う。握っている両手に力が入った。
メイスさんにバトンが渡った。メイスさんの長い足が素早く交互に動き、相手を捉える。速、という呟きが洩れた。長距離走とは全然違う。開いていた距離がどんどん詰まったところでメイスさんのバトンはその男子生徒に渡った。息ピッタリなバトンパスにアンカーを務めるその生徒も負けず劣らず速い。距離の詰まった他の走者を一気に抜かしてゴールする。1位だった。やった、と声をあげそうになって口をつぐむ。クラスメイトは私ほど熱中してみていなかった。そのなかで声をあげてしまえば目立ってしまうし、1位のクラスは私たちとは違うクラスだ。気まずくなってしまう。危機一髪、危なかった。
選抜リレーが終わると次に始まるのは先生たちによる紅白リレーだった。選抜リレー出場者の体力回復にあわせた余興のような種目だった。手芸部の先輩から教えてもらったことだけれど、イグニス先生とヴァルカン先生の体育教師対決が一番の目玉らしい。二人の先生はアンカーだった。ぶつかるんじゃないか、というくらい白熱した先生同士の対決は、イグニス先生が寸での差で勝ち、通算すれば35回目の対戦らしい。ことあるごとに張り合っていると先輩は笑っていた。
いよいよ全員リレーの番がきた。胃がキリキリしてくる。気を付けるべきはバトンパスと、とにかく転んだりせず走ること。私の足で誰かを抜かそうとかそういう考えはない。開く距離を最小限に留めるのが私にできる精一杯だ。これが終われば長かった一日も終わるのだから。
ピストルの音で第一走者が走り出す。待機場所で応援をしながら自分の番を待つ。男女混合のせいもあってか私と一緒に走る人は男子の方が多い。男女の差って距離があればあるほど分かりやすいのに、憂鬱だ。
私の番がどんどん近づいてくる。私のクラスは今のところ2位で、1位や3位とは少し距離があった。私の前に走る人が3位と距離を離してくれれば多少詰められても順位の変動はないだろう。私の次に走るのはたしか、バスケ部の男子だったから足には自信があると思う。
ついに走る順番が来てしまった。心臓がバクバクと音を立てているせいかいつもより緊張している。1位の走者が第一レーンに入り、その隣に並んだ。男子生徒二人に挟まれた瞬間、終わったな、と思考がストップする。心臓の音が響いてうるさかった。最悪の順番だ。すぐに1位の走者にバトンが渡って隣の生徒がいなくなる。続けて私のクラスのバトンが回ってきた。
「名前、頑張れ!」
バトンが私の手に渡ったとき、リオ君の声が聞こえた。リオ君はすでに走り終わっていて、私の待機場所とは反対側の場所にいるはずだった。その声に後押しされるように足を動かす。1位との距離はどうしようもなく開いてしまっていたし、後ろから聞こえてくる足音はホラーかと思うくらいの恐怖だったけれど、私は抜かされることなく走り抜きバトンを渡すことができた。
息が上がって上手く呼吸できない。足が震えて立っているのもやっとだった。すごく疲れた。
開いた距離はつまったりまた離されたりしながらバトンが繋がれていく。私のクラスは2位争いに勝った。1位でゴールしたのはアイナのクラスで、最後のアイナとガロ君の走りで余計に差がついての1位だった。
「お疲れ様、良い走りだったよ」
「リオ君が応援してくれたからだよ、ありがとう」
「そんなことないよ、名前が頑張ったからだ」
リオ君と一緒にテントへ戻る。応援団もこのときばかりは自分のクラスに戻っていいらしい。
水分補給をしていると一度わかれたはずのリオ君が私のもとへやってくる。メイスたちの応援をしないか、と小声で言われて反射的に頷いた。
次のリレーは2年生だからメイスさんが走る。でもクラスが違うからなかなか応援するにもできない。リオ君も同じのようで、私とリオ君は生徒用のテントから離れた木陰に移動した。他にも生徒用テントから溢れた生徒がポツポツといる。ここならば、走っているところも見えるし応援しても特に支障はなさそうだった。
メイスさんは選抜リレーと同じく、最後から2番目でアンカーも同じ男子生徒……ゲーラ、とリオ君やメイスさんがいっていた人が走るようだった。
リレーが始まった。今度は声を抑えることもなかった。テレビのスポーツ観戦をしているみたいに感嘆の声ばかりあがる。
選抜リレーのときのようなバトンのもたつきもなかったこともあり、順位に差がなかった。手に汗を握るような展開に持っていたタオルを握りしめる。
終盤に至るまでそれは変わらなかった。メイスさんと同じ順番の人の中にはアイナが所属している陸上部の先輩がいる。
メイスさんにバトンが渡ったのは4番目だった。リオ君も私もできる限りの声をあげる。リオ君の声は応援団に入っているだけあって、よくとおっていた。
メイスさんがそれまで3番目、2番目の人にぐんぐん近づいていく。2番目の人と肩を並べたところで、ゲーラさんにバトンが渡った。ゲーラさんは先頭を走っている人にゴール直前で追いついて、ほとんど僅差でゴールする。アナウンスで聞こえた1位のクラスはメイスさんたちのクラスだった。
「やったぁ!」
今度は堪えることはなかった。リオ君とその上がったテンションのままハイタッチをしたあと両手をとって喜ぶ。選抜リレーも全員リレーもどっちも1位をとるなんてすごすぎる。
全員リレーも終わり、閉会式になった。私たちのクラスは3位でアイナたちのクラスが2位、メイスさんたちのクラスが1位だった。アイナはMVP賞に選ばれ、ゲーラさんもリレーのMVP賞に選ばれていた。当たり前だと思う。まだ若いであろう校長の話は簡潔にまとめられ、あっけないくらいあっさりと閉会式は終わりを告げる。メイスさんの新しい一面が見れただけでも良かったけれど使っていない筋肉をつかったから明日は筋肉痛で動けなくなりそうだった。
家に帰ると見慣れたバイクが止まっていて、メイスさんが帰ってきていることを知る。自分の帰りたいときに帰れるのは羨ましい。
階段を上がって自分の部屋へ行く。部屋のドアノブにコンビニの袋がかかっていた。行くときはなかったはずの袋のなかには、期間限定のコンビニプリンと付属のスプーンが一つずつ、そして小さなメモ書きが入っていた。流れるような字でお疲れ。とだけかいてある。音がするんじゃないかというくらい勢いよく振り返ってメイスさんの部屋をみたが、いつもと変わらずしんとしている。
メイスさんの部屋に向かって聞こえるくらいの声で、ありがとうございます、と言う。部屋に入って食べたプリンは期間限定というのを差し引いても、いつもよりおいしく感じた。