杏の花が咲く
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雲一つない快晴、とまではいかなくとも気持ちのよい青空が広がっている。それに反して私の気持ちはどんよりと曇っていた。今日は全校陸上競技大会の日だ。私は何よりこの日が嫌いだ。運動が苦手で一番になれた記憶がさっぱりない。よくて3番、大抵が5番だった。
鬱々した気持ちのまま学校へ行く。高校にはいって初めての行事にクラスメイトたちは皆浮かれているようにみえた。教室の中心にいるリオ君は学ランに白いハチマキをつけている。クラスメイトの女子たちがリオ君の姿をみて、格好いいとか似合ってるよねとかひそひそと話していた。リオ君の他にも何人か同じような格好をしている人はみんな応援団なのだろう。夏が近づいてきている中、学ランでいなければいけないのは大変そうだ。
開会式、選手宣誓をしたのは意外にもティモス君だった。彼もまた、学ランを着ていたから応援団なのだろう。マイクが要らないのではないかと思うくらいの声量はグラウンド中に響き渡る。アイナの困った顔と呆れた声が脳裏によぎった。
陸上競技大会はクラスごとに組分けされている。1年から3年までのクラス対抗で一番に得点の高いクラスが優勝する。その他、競技内で一番優秀な成績を修めた生徒がMVP賞として表彰される。私には縁の遠い話だ。私が出る競技は100m走と学年別クラス対抗全員リレーで、その他に出る競技はない。アイナ陸上部ということもあって私よりも2、3種目多かったはずだ。確か、選抜リレーにもでるといっていた。
100m走るのはいいけれど、人前で走るのは嫌だ。運動会のように親が見に来ていないだけ、ましだけれど。
100m走に出場する選手は集まるよう、アナウンスが入る。重たい腰を上げて生徒用のテントからその場所に向かう途中リオ君にあった。リオ君は別テントの応援団用のスペースにいて、クラスのテントにはいなかった。
「名前、今から走るのか?」
「うん、そうだよ」
リオ君はそうか、といって眩しいくらいの笑顔で応援してるといった。すごくプレッシャーを感じる。ビリにならないくらいでいいかと思っていたけれどちゃんと走ろう。せいぜいかかっても約20秒。そのくらい短い時間走ればいいわけだし、100m走は人数が多いから次々スタートしていくだろうし。幸いにも最初でも最後でもない中盤くらいの順番だった。胃がキリキリしている。
自分の番がきて、ピストルの音で走り出す。時間にすればたった20秒弱でも走っている身としては何十分にも感じる。応援の声も風の音で上手く聞こえなかった。少しだけ視線を動かすと生徒用のテントとは反対側、校舎の壁沿いにメイスさんのような長い髪の人が目に入る。ゴールしたあともう一度そちらへ向くともういなくなっていた。100m走の順位は3位、自分の中ではいい方だ。きっとリオ君のプレッシャーが良かったのだということにしておく。
自分の競技はあとは全員リレーだけになった。全員リレーは午後からだし、午前中はもうなにもない。アイナが200m走で1位をさらっていくのをみながら、メイスさんは何の競技をするんだろうという疑問が首をもたげる。100m走にはいなかったし、アイナの出ていた200m走にも見当たらない。運動できなさそうなイメージはないけれど、もしかすると苦手なのかもしれない。どこかでサボっているのが容易に想像できた。100m走のときにみたのが本当にメイスさんであるならば、校舎内にでも隠れているのだろうか。
「名前、メイスをみていないか」
そんなことを考えているとリオ君がこちらへと走ってくる。私の考えていたことは本当に当たっていたらしい。メイスさんが生徒用のテントにいないのだという。メイスさんの競技は長距離走らしく、もう少しで出番なのに戻ってくる気配がないと気づいたクラスメイトに探されている、と。何度か電話やトークアプリで呼び掛けをしてみたが全く出ないとリオ君が淡々といった。
「違うかもしれないけど、メイスさんっぽい人が校舎のほうにいったのをみたよ」
「校舎か、ありがとう」
そういってスマホでメッセージをうったあと、リオ君は走っていなくなる。その直前に振り返って3位おめでとう。と言って走っていく。リオ君の言葉は嫌味とかそういうものは含まれていなかった。リオ君って人たらしというかカリスマみたいな所ある。なんだか照れてしまって頬が熱くなった。
2年生男子の長距離走にはいつも以上に顔の怖いメイスさんがスタートラインにやる気なさそうに立っていた。いつも結っていない長い髪の毛をひとつにして、着ているイメージがほとんどないTシャツの袖からは白く長い腕がすらりとのびていた。メイスさん以外の走者は運動部のような出で立ちで体力のありそうな面々だ。
スタート合図のピストルがなった。それと同時に全員が一斉に走り出す。メイスさんのしているハチマキの色と私のハチマキの色は違っていて、大袈裟に応援はできないのが少しだけ歯がゆい。
メイスさんは集団の真ん中あたりとずっとキープしていた。トップ争いにはいることも、かといってビリに落ちることもなく、一定のスピードを保って走っている。
そのペースを保ったまま、メイスさんは10人いるなかで3番目にゴールした。ゴールしたあとも、倒れこんだり腹部を押さえたりしているようには見えなかった。
おそらくだけど、自分でセーブしながら走っているのだと思う。本気をだせば1位もとれるのではないだろうか。運動はできるがやりたくないのか、目立つのが嫌なのか、私にはわからないことだ。
ただ座っているのも飽きてくる。アイナのいるテントに何度か行ってみたものの、クラス委員ということもあって忙しそうにしていた。そういえば、同じクラス委員のティモス君は応援団でいないんだったっけ。
そんなことを考えていたからだろうか、トイレから自分のテントまで戻るときにティモス君とばったり会った。ティモス君は私の顔をまじまじ見て、あ!と声をあげ、アイナと一緒にいた…!とこちらに向かって指を指す。その声に少しだけびっくりしつつも、名前を名乗ると、ティモス君も同じように名乗った。
「そうだ、なあリオみてねえ?」
「リオ君?見てないけど」
「もし見かけたらよ、早く戻ってこいっていっといてくんねえか?あいつさっきからテントにいねえんだよ」
なんだかどこかで聞いたような話だった。競技でいないというわけでもないらしい。リオ君は私と距離は違えども短距離走だったような気がする。短距離走はもう終わっていた。
「わかった。ティモス君応援団頑張ってね」
「ガロでいいぜ。そっちでは呼ばれなれてねえからよ」
ガロ君はそういって応援団のテントへ戻っていった。リオ君はどこへいったんだろう。クラスのテントにはいないと思うし、他に行くところとすれば…校舎?校舎には今誰もいないはずだ。いないかもしれないが、一応みてみるだけみてこよう。
校舎の玄関は施錠されていたが、グラウンドに近い普段は開いていない入り口が開いている。そこから校舎に入ろうとしたとき、体育館のほうで声が聞こえた。目を向けるとリオ君の髪が木の間からちらっと見える。そっと近寄ってリオ君とメイスさん、それもう一人上級生の男子生徒が何か話していた。口論しているわけではなさそうだった。男子生徒が何かメイスさんに頼んで、メイスさんがそれを拒否しているようにみえた。さすがにその状況でリオ君に声はかけれない。戻ろうと足を踏み出したら、ちょうど小枝があったようでパキ、と音を立てて折れる。遠くで聞こえていた声がピタリと止む。
「名前?何してるんだ、こんなところで」
「あ、えっと…ガロ君がリオ君のこと探してて…暇だったから私も探そうと思って…」
しどろもどろになりながら状況を説明する。メイスさんともう一人の男子生徒もリオ君のもとへときた。メイスさんは一瞬虚をつかれた顔をみせたがすぐにいつも通りの顔へと戻った。
「そうか、それはすまなかった」
「いや私もごめんなさい。邪魔しちゃったみたいで」
「いやこれは…」
「なあ、あんたもメイスが走るとこみたいだろ?」
「えっ?」
「おいゲーラ」
後ろにいた男子生徒がメイスさんの制止を気にせず、私に話しかける。メイスさんは選抜リレーの補欠選手だったが、もともと選抜リレーを走るクラスメイトが先程の競技で足を捻挫し走れなくなったらしい。そこでメイスさんが補欠として走ることになったのだという。選抜リレーなんて、私とは縁の遠い話だ。その補欠に選ばれるということはやっぱり運動はできるのだろう。
「まだ走るとはいってねえ」
「お前がクラスのなかでもブッチギリで早いじゃねえか」
「僕もメイスが走るなら全力で応援するぞ」
だけどもメイスさんはどうやら走りたくないようだった。2人がかりで説得をしているみたいだった。確かに選抜リレーは皆が注目しているし、午後の一番はじめの競技だから盛り上がることは予想できる。私だったら絶対無理だ。プレッシャーに耐えきれる自信がない。
すごいなあ、という私の呟きが聞こえていたらしい。3人の顔がこちらへと向けられる。
「あ、いや、選抜リレー走るなんてすごいなって!私運動苦手だから縁のない話だったので、選ばれること自体すごいって思いますし…足が速かったことないのでちょっと羨ましくて…嫌だと思うんですけど、メイスさん走るところみてみたいなってちょっと思い…ました…」
私の慌て具合を表すかのように両手が話にあわせて大袈裟に動く。何を言っているんだろうか私は。しぼんでいく言葉のあとに小さく変なこと言ってすみません、と謝る。やっぱり忘れてくれと頼んだら忘れてくれるだろうか。
メイスさんが少しだけため息をついた。
「…わかった。走ればいいんだろう」
「お、おお!」
「期待するなよ」
「普段通り走ってくれりゃあそれでいい」
「二人とも頑張ってくれ。全力で応援する」
なんだか話がトントン拍子で進んでいっている。メイスさんは結局選抜リレーを走るらしい。リオ君が私に向かってこっそりありがとう、といった。メイスさんたち2人が話していたが、リオ君に面倒なことになる前に帰った方がいいと促され、自分のテントへ戻る。
競技は午前の最終競技で、お昼が近づいていた。
鬱々した気持ちのまま学校へ行く。高校にはいって初めての行事にクラスメイトたちは皆浮かれているようにみえた。教室の中心にいるリオ君は学ランに白いハチマキをつけている。クラスメイトの女子たちがリオ君の姿をみて、格好いいとか似合ってるよねとかひそひそと話していた。リオ君の他にも何人か同じような格好をしている人はみんな応援団なのだろう。夏が近づいてきている中、学ランでいなければいけないのは大変そうだ。
開会式、選手宣誓をしたのは意外にもティモス君だった。彼もまた、学ランを着ていたから応援団なのだろう。マイクが要らないのではないかと思うくらいの声量はグラウンド中に響き渡る。アイナの困った顔と呆れた声が脳裏によぎった。
陸上競技大会はクラスごとに組分けされている。1年から3年までのクラス対抗で一番に得点の高いクラスが優勝する。その他、競技内で一番優秀な成績を修めた生徒がMVP賞として表彰される。私には縁の遠い話だ。私が出る競技は100m走と学年別クラス対抗全員リレーで、その他に出る競技はない。アイナ陸上部ということもあって私よりも2、3種目多かったはずだ。確か、選抜リレーにもでるといっていた。
100m走るのはいいけれど、人前で走るのは嫌だ。運動会のように親が見に来ていないだけ、ましだけれど。
100m走に出場する選手は集まるよう、アナウンスが入る。重たい腰を上げて生徒用のテントからその場所に向かう途中リオ君にあった。リオ君は別テントの応援団用のスペースにいて、クラスのテントにはいなかった。
「名前、今から走るのか?」
「うん、そうだよ」
リオ君はそうか、といって眩しいくらいの笑顔で応援してるといった。すごくプレッシャーを感じる。ビリにならないくらいでいいかと思っていたけれどちゃんと走ろう。せいぜいかかっても約20秒。そのくらい短い時間走ればいいわけだし、100m走は人数が多いから次々スタートしていくだろうし。幸いにも最初でも最後でもない中盤くらいの順番だった。胃がキリキリしている。
自分の番がきて、ピストルの音で走り出す。時間にすればたった20秒弱でも走っている身としては何十分にも感じる。応援の声も風の音で上手く聞こえなかった。少しだけ視線を動かすと生徒用のテントとは反対側、校舎の壁沿いにメイスさんのような長い髪の人が目に入る。ゴールしたあともう一度そちらへ向くともういなくなっていた。100m走の順位は3位、自分の中ではいい方だ。きっとリオ君のプレッシャーが良かったのだということにしておく。
自分の競技はあとは全員リレーだけになった。全員リレーは午後からだし、午前中はもうなにもない。アイナが200m走で1位をさらっていくのをみながら、メイスさんは何の競技をするんだろうという疑問が首をもたげる。100m走にはいなかったし、アイナの出ていた200m走にも見当たらない。運動できなさそうなイメージはないけれど、もしかすると苦手なのかもしれない。どこかでサボっているのが容易に想像できた。100m走のときにみたのが本当にメイスさんであるならば、校舎内にでも隠れているのだろうか。
「名前、メイスをみていないか」
そんなことを考えているとリオ君がこちらへと走ってくる。私の考えていたことは本当に当たっていたらしい。メイスさんが生徒用のテントにいないのだという。メイスさんの競技は長距離走らしく、もう少しで出番なのに戻ってくる気配がないと気づいたクラスメイトに探されている、と。何度か電話やトークアプリで呼び掛けをしてみたが全く出ないとリオ君が淡々といった。
「違うかもしれないけど、メイスさんっぽい人が校舎のほうにいったのをみたよ」
「校舎か、ありがとう」
そういってスマホでメッセージをうったあと、リオ君は走っていなくなる。その直前に振り返って3位おめでとう。と言って走っていく。リオ君の言葉は嫌味とかそういうものは含まれていなかった。リオ君って人たらしというかカリスマみたいな所ある。なんだか照れてしまって頬が熱くなった。
2年生男子の長距離走にはいつも以上に顔の怖いメイスさんがスタートラインにやる気なさそうに立っていた。いつも結っていない長い髪の毛をひとつにして、着ているイメージがほとんどないTシャツの袖からは白く長い腕がすらりとのびていた。メイスさん以外の走者は運動部のような出で立ちで体力のありそうな面々だ。
スタート合図のピストルがなった。それと同時に全員が一斉に走り出す。メイスさんのしているハチマキの色と私のハチマキの色は違っていて、大袈裟に応援はできないのが少しだけ歯がゆい。
メイスさんは集団の真ん中あたりとずっとキープしていた。トップ争いにはいることも、かといってビリに落ちることもなく、一定のスピードを保って走っている。
そのペースを保ったまま、メイスさんは10人いるなかで3番目にゴールした。ゴールしたあとも、倒れこんだり腹部を押さえたりしているようには見えなかった。
おそらくだけど、自分でセーブしながら走っているのだと思う。本気をだせば1位もとれるのではないだろうか。運動はできるがやりたくないのか、目立つのが嫌なのか、私にはわからないことだ。
ただ座っているのも飽きてくる。アイナのいるテントに何度か行ってみたものの、クラス委員ということもあって忙しそうにしていた。そういえば、同じクラス委員のティモス君は応援団でいないんだったっけ。
そんなことを考えていたからだろうか、トイレから自分のテントまで戻るときにティモス君とばったり会った。ティモス君は私の顔をまじまじ見て、あ!と声をあげ、アイナと一緒にいた…!とこちらに向かって指を指す。その声に少しだけびっくりしつつも、名前を名乗ると、ティモス君も同じように名乗った。
「そうだ、なあリオみてねえ?」
「リオ君?見てないけど」
「もし見かけたらよ、早く戻ってこいっていっといてくんねえか?あいつさっきからテントにいねえんだよ」
なんだかどこかで聞いたような話だった。競技でいないというわけでもないらしい。リオ君は私と距離は違えども短距離走だったような気がする。短距離走はもう終わっていた。
「わかった。ティモス君応援団頑張ってね」
「ガロでいいぜ。そっちでは呼ばれなれてねえからよ」
ガロ君はそういって応援団のテントへ戻っていった。リオ君はどこへいったんだろう。クラスのテントにはいないと思うし、他に行くところとすれば…校舎?校舎には今誰もいないはずだ。いないかもしれないが、一応みてみるだけみてこよう。
校舎の玄関は施錠されていたが、グラウンドに近い普段は開いていない入り口が開いている。そこから校舎に入ろうとしたとき、体育館のほうで声が聞こえた。目を向けるとリオ君の髪が木の間からちらっと見える。そっと近寄ってリオ君とメイスさん、それもう一人上級生の男子生徒が何か話していた。口論しているわけではなさそうだった。男子生徒が何かメイスさんに頼んで、メイスさんがそれを拒否しているようにみえた。さすがにその状況でリオ君に声はかけれない。戻ろうと足を踏み出したら、ちょうど小枝があったようでパキ、と音を立てて折れる。遠くで聞こえていた声がピタリと止む。
「名前?何してるんだ、こんなところで」
「あ、えっと…ガロ君がリオ君のこと探してて…暇だったから私も探そうと思って…」
しどろもどろになりながら状況を説明する。メイスさんともう一人の男子生徒もリオ君のもとへときた。メイスさんは一瞬虚をつかれた顔をみせたがすぐにいつも通りの顔へと戻った。
「そうか、それはすまなかった」
「いや私もごめんなさい。邪魔しちゃったみたいで」
「いやこれは…」
「なあ、あんたもメイスが走るとこみたいだろ?」
「えっ?」
「おいゲーラ」
後ろにいた男子生徒がメイスさんの制止を気にせず、私に話しかける。メイスさんは選抜リレーの補欠選手だったが、もともと選抜リレーを走るクラスメイトが先程の競技で足を捻挫し走れなくなったらしい。そこでメイスさんが補欠として走ることになったのだという。選抜リレーなんて、私とは縁の遠い話だ。その補欠に選ばれるということはやっぱり運動はできるのだろう。
「まだ走るとはいってねえ」
「お前がクラスのなかでもブッチギリで早いじゃねえか」
「僕もメイスが走るなら全力で応援するぞ」
だけどもメイスさんはどうやら走りたくないようだった。2人がかりで説得をしているみたいだった。確かに選抜リレーは皆が注目しているし、午後の一番はじめの競技だから盛り上がることは予想できる。私だったら絶対無理だ。プレッシャーに耐えきれる自信がない。
すごいなあ、という私の呟きが聞こえていたらしい。3人の顔がこちらへと向けられる。
「あ、いや、選抜リレー走るなんてすごいなって!私運動苦手だから縁のない話だったので、選ばれること自体すごいって思いますし…足が速かったことないのでちょっと羨ましくて…嫌だと思うんですけど、メイスさん走るところみてみたいなってちょっと思い…ました…」
私の慌て具合を表すかのように両手が話にあわせて大袈裟に動く。何を言っているんだろうか私は。しぼんでいく言葉のあとに小さく変なこと言ってすみません、と謝る。やっぱり忘れてくれと頼んだら忘れてくれるだろうか。
メイスさんが少しだけため息をついた。
「…わかった。走ればいいんだろう」
「お、おお!」
「期待するなよ」
「普段通り走ってくれりゃあそれでいい」
「二人とも頑張ってくれ。全力で応援する」
なんだか話がトントン拍子で進んでいっている。メイスさんは結局選抜リレーを走るらしい。リオ君が私に向かってこっそりありがとう、といった。メイスさんたち2人が話していたが、リオ君に面倒なことになる前に帰った方がいいと促され、自分のテントへ戻る。
競技は午前の最終競技で、お昼が近づいていた。