杏の花が咲く
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夏休みも半分を過ぎて、だんだんすることがなくなってきた。贅沢すぎる悩みではあるけれど暇潰しになるような趣味は持ち合わせていないし、手芸も順調に進んでいる。宿題だってもう残すところ4分の1くらいだ。することが、ない。外は陽射しがジリジリ照りつけて出たくない。メイスさんは毎日忙しそうに外へ出掛けているのをみると私の自堕落っぷりがよりいっそう際立っているような気がする。
そんな私に見かねた母が家の掃除くらいしろといったのが昨日の夜。文句がでそうになったけれど母に逆らっていいことはないに等しいことを知っている。渋々誰もいなくなった家を一人でせっせと掃除していた。
自分の部屋を掃除していると中学時代にアイナと一緒に撮ったプリクラがでてきた。このときは仲良くなったばっかりでアイナに対してぎこちないところがあった。プリクラもそうそう撮らなかったからポーズや落書きは全部アイナに任せていたっけ。卒業式が終わったあとに撮ったプリクラと比べれてみれば心なしか距離が開いているような気がしなくもない。
修学旅行の写真や運動会の集合写真を見返していると思ったよりも時間が経っていた。今よりもぱっとしていない自分の写真のはいったアルバムをしまいこんで掃除を再開する。自分の部屋が終われば廊下やリビングの掃除だ。溜まったチラシや新聞紙、雑誌をまとめ普段掃除機が届かないような隙間にハンディモップをかける。隙間からごっそり埃が出てくるとちょっと楽しくなってしまう。ひとつの偉業を成し遂げたような気分だけど普段の掃除をサボっているといわれてしまえばそれまでではある。
2階の廊下の掃除にとりかかったときだった。先程と同じく隙間にハンディモップをいれて埃をとっていると、何か紙が引きずられる音がした。覗いてみれば1枚の紙が本棚の下に落ちている。おそらく落としたときに下に入り込んでしまったのだろう。手が入るような隙間でもないため、部屋から定規をもって紙を手繰り寄せる。白い小さめの紙が端々に少しばかり埃をつけて本棚のしたからでてきた。何気なしに拾って裏をめくり、固まる。
私のでも母のでも父のでもない、メイスさんの写真だった。それがなぜここに、という疑問よりも写っているメイスさんがこちらに向かって中指を立てていることに目を奪われてしまっていた。今よりも、明らかにガラが悪い、ヤンキーのような。よく見れば隣に写っていたのはゲーラさんで、メイスさんの肩に肘をおきながらも親指は下を向いている。
メイスさんが落としたのは間違いないのだけれどこれは一体いつの写真なのだろう。顔つきは今とさほど変わっていないように見える。むしろ今のほうがまだまだマイルドな顔つきだ。日付が書いていないから年代を特定できない。
ど、どうしようこれ。おもわぬところでメイスさんのレアな写真を手にいれてしまった。いや、返すけど、返すけども!スマホで写真におさめるのは…さすがに…見つかったときドン引きされてしまうよね…。
写真はとりあえず、自分の部屋に置いておくことにした。掃除が終わって、メイスさんが帰ってきたら必ず返しますので、今はすみません。と心のなかで言い訳と謝罪を繰り返しながら掃除機をかけたりいらない紙を捨てていったのだけど写真のメイスさんが脳裏にチラチラと浮かんでそれどころではなかった。
今日という日に限って、メイスさんの帰宅が遅い。落ち着かずそわそわとしている私を母が不思議そうに見ていたのを覚えている。そうはいっても説明できるわけがなかった。写真は私の部屋の机に裏返して置いてある。なんとなく表にして置いておけなかった。
お風呂から上がってもメイスさんは帰ってきていなかった。部屋にもどってその写真を見る。今と比べて少し髪の毛が短いし今着ている高校の制服ではないような。じゃあ、中学生のとき?そうだとしたら全然そんな風にみえない。私の知っている中学生男子はもう少し幼かった。
階段を上がってくる音でひっくり返りそうになる。恐る恐る部屋の扉を開けるとちょうどメイスさんが部屋に入るところだった。扉の音で私に気づいたメイスさんにお帰りなさい、と声をかければ、口の端を少しあげてただいま、と返してくれる。うう、眩しい。
写真を返そうと部屋をでる。私がメイスさんを呼び止めるとメイスさんの体がこちらへ向いた。
「どうした?」
「あ、あのこれ、今日掃除をしてたら本棚の下から出てきて…」
そういって写真を差し出すとメイスさんが目にも止まらぬ速さでそれを引ったくるように受け取った。受け取ったというよりは奪い取ったというほうが正しいのかもしれない。呆気にとられている私に気づいたメイスさんが、片手で頭を押さえながら悪い、と呟いた。
「こっちこそすみません勝手に見てしまって」
「いや名前は悪くない。俺のほうこそ、いきなり奪い取って悪かった」
「…その、いつの写真なのか聞いてもいいですか?」
そういうとメイスさんは言葉につまった。聞かれたくないことを聞いてしまったのだと気づいて撤回する前に、メイスさんが「…中学んときだ」と眉間にしわを刻みながら答えた。私の予想は正しかったらしい。
「ゲーラに、懐かしい写真を見つけたって渡されて…ちょうどゲーラと会ったときくらいの写真だな…失くしたとは思ってたが…名前に見られるとはな…」
「へえ、ゲーラさんと中学からなんですね」
そう相づちをうったが少し前にゲーラさんからメイスさんと中学時代からの仲であることを教えてもらっていた。その当時の素行は聞いていなかったけれども。
「……引いたか?」
「え?」
「丁度一番荒れてた時期で、ガキみてえにしょっちゅう暴れてた。…名前にとっちゃ近寄りたくねえ奴だろ」
そう言ってメイスさんは自嘲気味に笑った。たしかに、メイスさんのことを知らなかったらきっと避けていただろう。話すことさえ怖いと思っていただろう。
最初だってそうだった。メイスさんのことを知らなかった私は怖い人だとずっと思っていた。だけど、メイスさんと数ヶ月しか関わっていなくてもメイスさんが優しいことは知っている。
それに、スマホのメモリに残そうとしていた私のほうがよっぽど引く。それはメイスさんに言うつもりはないけど。
「全っ然引いてないです!見つけたときはびっくりしましたけど…メイスさんにも中学生だった時期があったんだなって思いましたし!それに私の中学時代よりもずっと大人びた顔だなーなんて思いましたよ」
私の検討違いだったであろう返答にメイスさんは目をぱちくりさせた。その後、脱力したのかその場にしゃがみこんで喉を鳴らして笑っている。
「名前は俺を何だと思ってんだ…」
そう一人言を呟いてメイスさんが笑っている。とんちんかんな返答をしたと思っていたけれどメイスさんが笑っているから結果オーライだ。なんにせよ、メイスさんが笑っているのは私が嬉しい。
「名前はずっと変わらなそうだな」
「そ、そんなこと…ない…と思いますよ?たぶん…」
「写真はねえのか?」
「見ても面白くないですし」
「俺だけ見られたのは不公平だろ?」
そう言われてしまえばぐうの音もでない。メイスさんのもとへ、しまいこんだアルバムを引っ張りだして見せる。数回写真と私の顔を見比べた後、「かわんねえな」と吹き出した。よくそのまま大きくなったと言われることが多いけど、そこまでではないと思っていた。
「そうですか?」
「全然変わらなくていいな、名前は」
メイスさんの笑いはいまだにおさまっていなかった。とてもじゃないけれど誉められていないような気がする。
「メイスさんってもっと古い写真ないんですか?」
「探せばどっかにあるな…見たいのか?」
そう聞かれて勢いよく頷く。見たい。小さい頃のメイスさんなんてまったく想像できない、未知の世界だ。
メイスさんは私が勢いよく頷いたのをみてまた笑ってまた今度な、といった。そういえばけっこう遅い時間だったことを思い出す。疲れているメイスさんを長いこと引き留めてしまった。罪悪感を抱きながら、自分の部屋へ戻りアルバムをもとの場所へと戻す。
しばらくあの中学時代のメイスさんは頭から離れないだろう。メイスさんがどんな中学生だったのか聞けるといいけどあまり自分のこと喋らないだろうからきっと難しいはずだ。…いつか聞けたらいいのになあ。
その日の夜見た夢は中学のときで、中学生のメイスさんが同級生にいる夢だった。分かりやすすぎる思考回路で起きてすぐに笑ってしまった。
そんな私に見かねた母が家の掃除くらいしろといったのが昨日の夜。文句がでそうになったけれど母に逆らっていいことはないに等しいことを知っている。渋々誰もいなくなった家を一人でせっせと掃除していた。
自分の部屋を掃除していると中学時代にアイナと一緒に撮ったプリクラがでてきた。このときは仲良くなったばっかりでアイナに対してぎこちないところがあった。プリクラもそうそう撮らなかったからポーズや落書きは全部アイナに任せていたっけ。卒業式が終わったあとに撮ったプリクラと比べれてみれば心なしか距離が開いているような気がしなくもない。
修学旅行の写真や運動会の集合写真を見返していると思ったよりも時間が経っていた。今よりもぱっとしていない自分の写真のはいったアルバムをしまいこんで掃除を再開する。自分の部屋が終われば廊下やリビングの掃除だ。溜まったチラシや新聞紙、雑誌をまとめ普段掃除機が届かないような隙間にハンディモップをかける。隙間からごっそり埃が出てくるとちょっと楽しくなってしまう。ひとつの偉業を成し遂げたような気分だけど普段の掃除をサボっているといわれてしまえばそれまでではある。
2階の廊下の掃除にとりかかったときだった。先程と同じく隙間にハンディモップをいれて埃をとっていると、何か紙が引きずられる音がした。覗いてみれば1枚の紙が本棚の下に落ちている。おそらく落としたときに下に入り込んでしまったのだろう。手が入るような隙間でもないため、部屋から定規をもって紙を手繰り寄せる。白い小さめの紙が端々に少しばかり埃をつけて本棚のしたからでてきた。何気なしに拾って裏をめくり、固まる。
私のでも母のでも父のでもない、メイスさんの写真だった。それがなぜここに、という疑問よりも写っているメイスさんがこちらに向かって中指を立てていることに目を奪われてしまっていた。今よりも、明らかにガラが悪い、ヤンキーのような。よく見れば隣に写っていたのはゲーラさんで、メイスさんの肩に肘をおきながらも親指は下を向いている。
メイスさんが落としたのは間違いないのだけれどこれは一体いつの写真なのだろう。顔つきは今とさほど変わっていないように見える。むしろ今のほうがまだまだマイルドな顔つきだ。日付が書いていないから年代を特定できない。
ど、どうしようこれ。おもわぬところでメイスさんのレアな写真を手にいれてしまった。いや、返すけど、返すけども!スマホで写真におさめるのは…さすがに…見つかったときドン引きされてしまうよね…。
写真はとりあえず、自分の部屋に置いておくことにした。掃除が終わって、メイスさんが帰ってきたら必ず返しますので、今はすみません。と心のなかで言い訳と謝罪を繰り返しながら掃除機をかけたりいらない紙を捨てていったのだけど写真のメイスさんが脳裏にチラチラと浮かんでそれどころではなかった。
今日という日に限って、メイスさんの帰宅が遅い。落ち着かずそわそわとしている私を母が不思議そうに見ていたのを覚えている。そうはいっても説明できるわけがなかった。写真は私の部屋の机に裏返して置いてある。なんとなく表にして置いておけなかった。
お風呂から上がってもメイスさんは帰ってきていなかった。部屋にもどってその写真を見る。今と比べて少し髪の毛が短いし今着ている高校の制服ではないような。じゃあ、中学生のとき?そうだとしたら全然そんな風にみえない。私の知っている中学生男子はもう少し幼かった。
階段を上がってくる音でひっくり返りそうになる。恐る恐る部屋の扉を開けるとちょうどメイスさんが部屋に入るところだった。扉の音で私に気づいたメイスさんにお帰りなさい、と声をかければ、口の端を少しあげてただいま、と返してくれる。うう、眩しい。
写真を返そうと部屋をでる。私がメイスさんを呼び止めるとメイスさんの体がこちらへ向いた。
「どうした?」
「あ、あのこれ、今日掃除をしてたら本棚の下から出てきて…」
そういって写真を差し出すとメイスさんが目にも止まらぬ速さでそれを引ったくるように受け取った。受け取ったというよりは奪い取ったというほうが正しいのかもしれない。呆気にとられている私に気づいたメイスさんが、片手で頭を押さえながら悪い、と呟いた。
「こっちこそすみません勝手に見てしまって」
「いや名前は悪くない。俺のほうこそ、いきなり奪い取って悪かった」
「…その、いつの写真なのか聞いてもいいですか?」
そういうとメイスさんは言葉につまった。聞かれたくないことを聞いてしまったのだと気づいて撤回する前に、メイスさんが「…中学んときだ」と眉間にしわを刻みながら答えた。私の予想は正しかったらしい。
「ゲーラに、懐かしい写真を見つけたって渡されて…ちょうどゲーラと会ったときくらいの写真だな…失くしたとは思ってたが…名前に見られるとはな…」
「へえ、ゲーラさんと中学からなんですね」
そう相づちをうったが少し前にゲーラさんからメイスさんと中学時代からの仲であることを教えてもらっていた。その当時の素行は聞いていなかったけれども。
「……引いたか?」
「え?」
「丁度一番荒れてた時期で、ガキみてえにしょっちゅう暴れてた。…名前にとっちゃ近寄りたくねえ奴だろ」
そう言ってメイスさんは自嘲気味に笑った。たしかに、メイスさんのことを知らなかったらきっと避けていただろう。話すことさえ怖いと思っていただろう。
最初だってそうだった。メイスさんのことを知らなかった私は怖い人だとずっと思っていた。だけど、メイスさんと数ヶ月しか関わっていなくてもメイスさんが優しいことは知っている。
それに、スマホのメモリに残そうとしていた私のほうがよっぽど引く。それはメイスさんに言うつもりはないけど。
「全っ然引いてないです!見つけたときはびっくりしましたけど…メイスさんにも中学生だった時期があったんだなって思いましたし!それに私の中学時代よりもずっと大人びた顔だなーなんて思いましたよ」
私の検討違いだったであろう返答にメイスさんは目をぱちくりさせた。その後、脱力したのかその場にしゃがみこんで喉を鳴らして笑っている。
「名前は俺を何だと思ってんだ…」
そう一人言を呟いてメイスさんが笑っている。とんちんかんな返答をしたと思っていたけれどメイスさんが笑っているから結果オーライだ。なんにせよ、メイスさんが笑っているのは私が嬉しい。
「名前はずっと変わらなそうだな」
「そ、そんなこと…ない…と思いますよ?たぶん…」
「写真はねえのか?」
「見ても面白くないですし」
「俺だけ見られたのは不公平だろ?」
そう言われてしまえばぐうの音もでない。メイスさんのもとへ、しまいこんだアルバムを引っ張りだして見せる。数回写真と私の顔を見比べた後、「かわんねえな」と吹き出した。よくそのまま大きくなったと言われることが多いけど、そこまでではないと思っていた。
「そうですか?」
「全然変わらなくていいな、名前は」
メイスさんの笑いはいまだにおさまっていなかった。とてもじゃないけれど誉められていないような気がする。
「メイスさんってもっと古い写真ないんですか?」
「探せばどっかにあるな…見たいのか?」
そう聞かれて勢いよく頷く。見たい。小さい頃のメイスさんなんてまったく想像できない、未知の世界だ。
メイスさんは私が勢いよく頷いたのをみてまた笑ってまた今度な、といった。そういえばけっこう遅い時間だったことを思い出す。疲れているメイスさんを長いこと引き留めてしまった。罪悪感を抱きながら、自分の部屋へ戻りアルバムをもとの場所へと戻す。
しばらくあの中学時代のメイスさんは頭から離れないだろう。メイスさんがどんな中学生だったのか聞けるといいけどあまり自分のこと喋らないだろうからきっと難しいはずだ。…いつか聞けたらいいのになあ。
その日の夜見た夢は中学のときで、中学生のメイスさんが同級生にいる夢だった。分かりやすすぎる思考回路で起きてすぐに笑ってしまった。