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10月31日。
銀魂高校ではハロウィン強化週間というか強制ハロウィン令というか、とにかくクラス全員でお菓子交換をするという規則が設けられていた。なんとしても妙ちゃんと合法的にトリックオアトリートしたい近藤くんが、風紀委員会として無理矢理押し通して決まったらしい。ちなみに市販のお菓子のみで手作りは禁止。妙ちゃんのお菓子から近藤くん以外の命を守るため、土方くんがルールを付け足してくれたとの噂。ありがとう土方くん、命の恩人。まあうちのクラスなんてゴリラとかメガネとかドSとかドMが高校生の仮装してるから毎日ハロウィンみたいなものだけど。
そんな訳で今日は授業の合間にキャンディを配り、酢昆布や納豆やバナナやマヨネーズやあんぱんをもらった。予想はしてたけどお菓子じゃないものが多い。
夕方。放課後の教室で女子会お菓子パーティーもできたし、たまには風紀委員会もいいことするじゃん。色気より食い気の3Zでも女の子が集まるとすることはやっぱり恋バナになるんだな、かなり暴力的というか犯罪スレスレの恋バナだったけど。そんなことを考えながら昇降口を目指して歩いていていると、向こうからペッタペッタと気の抜けた足音と共に銀八が現れた。
「おー乙玖いいところに。トリックオアトリート!」
「みんなで食べちゃったからもうないよ」
「おいおい俺が超甘党なの知ってんだろ?」
「知ってるけどなんで銀八にあげなきゃいけないの」
「お前普段迷惑ばっかかけてんだからこういうとこで点数稼げよ。社会の荒波を上手く渡るコツだぞ」
どちらかというと放任主義の先生だけど、なんだか今日はやたらと絡んでくる。いい年してそんなにお菓子に執着してるのか。自分のこと棚に上げるけど、3Zってこの担任にしてこの生徒たちありって感じ。
銀八がずい、と上半身を乗り出して顔を近付けてきた。締りのない笑顔でいっぱいになる視界。
「くれないってことはイタズラされても文句は言えねーよな?」
「何ニヤニヤしてんの気持ち悪い」
「ほんとお前さぁ…ちょっとは先生のこと敬えよ」
ノーサンキュー、と銀八が近付いてきたのと同じだけ後ずさり距離を置く。大きなため息をついて頭を掻いた銀八は諦めたのか引き返していく。
「イタズラしてもいいけど校内ではやめとけよー」
「は?何のはなs「余計なお世話だ」
突如聞き慣れた声に遮られ、振り返るとすぐ後ろに眉間に深い皺を寄せたクラスメイトが立っていた。
「うわ晋助いつからいたの」
「ずっといたぜ?てめーが気付かなかっただけでなァ」
不機嫌なのを隠しもせず、両手をポケットに突っ込んだままわたしを睨む。
「お前もうあいつと喋んな。ロクなことがねえ」
「あんたらほんと仲悪いね…」
先生と生徒に仲良いも悪いもないけど、この二人は異常だと思う。晋助は所謂不良だけれど普通の生徒には自分から仕掛けることはない。でも銀八には自分から突っかかりにいくし、やたら攻撃的になる。それに毎回応じる銀八も銀八だ。今だってわたしに用がある訳じゃなくて銀八といたから絡んできたんでしょ。半分冗談でそう言ったら「ちげーよ」と半笑いで一蹴された。
「トリックオアトリート」
「これあげる」
「あ?何であんだよ。悪戯してやろうと思ってたのに」
「先生の分はなくてもクラスメイトにはちゃんと用意してるって。それにこれは晋助用のヤクルコ味のやつだから銀八にあげても仕方ないし」
小さな包を押し付ける。真顔でトリックオアトリートって言ってた晋助、違和感ありすぎてしばらく思い出す度に笑っちゃいそう。てか用事ってこれ?こいつもお菓子に執着してんの?
晋助は銀八よりも自分が高待遇を受けたことに満足そうだ。でもわたしまだ何も返してもらってない。
「トリックオアトリート!」
手を差し出すわたしを怪訝な顔して見る晋助。
「あ?」
「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ」
「ねェよ菓子なんざ」
「じゃあ悪戯されても文句言えないね」
差し出していた両手をそのまま伸ばす。跳ねた柔らかい髪に手を埋めると眼帯の紐に触れた。丸く形のいい頭を引き寄せる。
触れたか触れていないかわからないくらいに、でも確かに、唇が触れた。冷たく柔らかく、キャンディより苦く、あぁ晋助だと妙に実感した。
やっちゃった、と火照る顔を隠したいけれど、それよりも相手の表情を見てみたい好奇心が勝る。そっと視線を上げるといつもは鋭い目がまん丸になって晋助にあげたキャンディみたいだ。この顔はどうかわたし以外の子には見せないで。
自分の身に何が起きたのか、脳をフル活用しても追いついていない晋助に「どうしたの、帰ろ」と声をかけると、混乱しつつもようやく動きを取り戻した。わたしは何もなかったように昇降口へ向かい足を進める。
「おい、てめーまさか他の野郎にも同じことしてんじゃねェだろうな」
「他はみんなお菓子くれたもん」
強制ハロウィン令が決まってから今日まで、この問題児は一度も教室に来ていない。そうでなくても学校のルールなんて何も守らない男だ。
「晋助は絶対お菓子持ってきてないってわかってた」
故意犯かよ、と呟く声と舌打ちが背後から聞こえたが、気付かないフリをして逃げる。
下駄箱で靴に手を掛けたと同時、わたしの上にスッと影が落ちる。見上げると影の主が見下ろしていた。
「俺に悪戯してまさかただで済むと思ってんじゃねェだろうな。なぁ乙玖ちゃんよォ」
…出来心だったんですと謝って逃げられそうな雰囲気ではない。この男はやられっぱなしで大人しくしているような奴じゃなかった。
「校内じゃなけりゃいいって銀八から許可出てるもんなァ」
楽しいハロウィンになりそうだ、とわたしの手首を掴んで引き摺るようにして帰路につく晋助は、悪魔みたいに笑っていた。
lollipop candy bad girl (& boy)