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「おい」
唐突に声をかけられて振り返ると、クラスメイトの晋助が不機嫌そうな顔をしていた。彼が朝礼よりも前に教室にいるなんて明日は矢でも降るのだろうか。
「びっくりしたぁー。どうしたの、何か用?」
「馬鹿か。俺に用があるのはお前のほうだろーがよ」
「国語の授業出席してなさすぎて日本語下手になってない?」
晋助が銀八の授業に出たくないのはわかるけど何言ってるかわかんなすぎて心配になる。
「今日が何月何日かわかるか」
「…2月15日だけど」
「昨日は何月何日だ」
「…2月14日に決まってるじゃん」
不毛なやり取りをしてもまだわからないのかとでも言いたげな、憐れみの混じったため息が聞こえた。
「2月14日なのに、どうしてお前は昨日俺のところに来なかった?」
たしかにわたしは昨日晋助に会いに行かなかった。学校があろうが休日だろうが大半の日を晋助と共に過ごしているが、だからといって毎日ではないし約束をしているわけではない。これまで1日顔を出さなかったとて文句を言われることはなかった。それが今回に限ってわざわざ朝から出向いてまでとは、考え難いが心当たりがあるとすればひとつしかない。
「もしかしてバレンタイン…?」
恐る恐る口にすると、晋助は一層顔をしかめて頷いた。
「わたしからチョコ貰えなくて拗ねてるの…?」
さすがにこれは認めたくないのか不貞腐れたままこちらを見下ろしている。
「あんたもう十分もらってるでしょ」
わたしはため息をついて晋助の机に目をやる。3Zは無駄に顔だけはいい問題児が集まっているから昨日はクラス学年問わず女子生徒の訪問が絶えなかった。普段近寄り難い晋助に気に入られようと気合いの入った子も多かったが、目当ての彼は終日教室に来なかったのでみんな仕方なくチョコを置いて帰るしかなかったのだ。空腹に耐えかねた神楽がいくつかくすねていったが、それでもまだ山積みと呼べるほど残っていた。ひとつやふたつ少なくたって気にするようなことじゃない。
「知らねェよ。俺ァてめーが来るのをずっと待ってたんだぜ?」
「知らないよ、晋助にあげるなんて一言も言ってないし」
ぐいと詰め寄る晋助に壁際に追い込まれた。怒りを滲ませた薄ら笑いで視界がいっぱいになる。
「てめーハロウィンには飴を配り歩きクリスマスにはホールケーキを持ち込み節分には俺に豆を投げつけてイベントの度に浮かれはしゃぐ馬鹿だろうが。バレンタインだけやらねーなんてことねェだろ?実際昨日クラスの野郎共には配ってたんだっだてなァ」
全くもってその通りすぎて何も言うことができない。
「…どうして俺にだけねェんだよ」
ジリジリと近付いてくる晋助から逃れることができず、このままじゃ喰われると本能が危険を察知する。
震える手で昨日からずっとカーディガンのポケットに入れていた小さな包みを晋助のおへそのあたりに押し付けた。
「これは?」
「…作ったのっ!妙ちゃんたちとお菓子教室行って…でもわたし料理下手だし見た目もぐちゃぐちゃになっちゃったからやっぱりこんなの晋助にあげられないと思って…」
晋助の机にあるチョコは、程度の差こそあれ、見るからに高級なものや可愛らしくラッピングされたものなどどれもきらびやかに思える。それに比べてわたしの手にあるものはなんて貧相なんだろう。
「そうか」
そう言うと晋助はあっさりわたしを解放し、手から包みを取り上げる。
「あるならさっさと出しゃあいいんだよ」
満足気に笑う顔があまりに妖しく綺麗で、身体は放されたというのにわたしの心臓は早鐘のように鳴り続けた。
始業のチャイムが鳴り、担任の銀八が教室へ入ってきた。それと入れ違いに出ていく晋助。晋助がこの時間にいることに驚き、ワンテンポ遅れて叫ぶ。
「あれぇ高杉くん!?これから授業なのにどうして出て行っちゃうの!?先生のこと嫌いなの!?」
「俺の用は終わったから帰る」
振り返りもせずに廊下を去っていく晋助の背中を見送り、銀八が呟く。
「俺に返事するなんてあいつ相当機嫌いいな…気持ち悪ッ」
2月15日午前8時15分
唐突に声をかけられて振り返ると、クラスメイトの晋助が不機嫌そうな顔をしていた。彼が朝礼よりも前に教室にいるなんて明日は矢でも降るのだろうか。
「びっくりしたぁー。どうしたの、何か用?」
「馬鹿か。俺に用があるのはお前のほうだろーがよ」
「国語の授業出席してなさすぎて日本語下手になってない?」
晋助が銀八の授業に出たくないのはわかるけど何言ってるかわかんなすぎて心配になる。
「今日が何月何日かわかるか」
「…2月15日だけど」
「昨日は何月何日だ」
「…2月14日に決まってるじゃん」
不毛なやり取りをしてもまだわからないのかとでも言いたげな、憐れみの混じったため息が聞こえた。
「2月14日なのに、どうしてお前は昨日俺のところに来なかった?」
たしかにわたしは昨日晋助に会いに行かなかった。学校があろうが休日だろうが大半の日を晋助と共に過ごしているが、だからといって毎日ではないし約束をしているわけではない。これまで1日顔を出さなかったとて文句を言われることはなかった。それが今回に限ってわざわざ朝から出向いてまでとは、考え難いが心当たりがあるとすればひとつしかない。
「もしかしてバレンタイン…?」
恐る恐る口にすると、晋助は一層顔をしかめて頷いた。
「わたしからチョコ貰えなくて拗ねてるの…?」
さすがにこれは認めたくないのか不貞腐れたままこちらを見下ろしている。
「あんたもう十分もらってるでしょ」
わたしはため息をついて晋助の机に目をやる。3Zは無駄に顔だけはいい問題児が集まっているから昨日はクラス学年問わず女子生徒の訪問が絶えなかった。普段近寄り難い晋助に気に入られようと気合いの入った子も多かったが、目当ての彼は終日教室に来なかったのでみんな仕方なくチョコを置いて帰るしかなかったのだ。空腹に耐えかねた神楽がいくつかくすねていったが、それでもまだ山積みと呼べるほど残っていた。ひとつやふたつ少なくたって気にするようなことじゃない。
「知らねェよ。俺ァてめーが来るのをずっと待ってたんだぜ?」
「知らないよ、晋助にあげるなんて一言も言ってないし」
ぐいと詰め寄る晋助に壁際に追い込まれた。怒りを滲ませた薄ら笑いで視界がいっぱいになる。
「てめーハロウィンには飴を配り歩きクリスマスにはホールケーキを持ち込み節分には俺に豆を投げつけてイベントの度に浮かれはしゃぐ馬鹿だろうが。バレンタインだけやらねーなんてことねェだろ?実際昨日クラスの野郎共には配ってたんだっだてなァ」
全くもってその通りすぎて何も言うことができない。
「…どうして俺にだけねェんだよ」
ジリジリと近付いてくる晋助から逃れることができず、このままじゃ喰われると本能が危険を察知する。
震える手で昨日からずっとカーディガンのポケットに入れていた小さな包みを晋助のおへそのあたりに押し付けた。
「これは?」
「…作ったのっ!妙ちゃんたちとお菓子教室行って…でもわたし料理下手だし見た目もぐちゃぐちゃになっちゃったからやっぱりこんなの晋助にあげられないと思って…」
晋助の机にあるチョコは、程度の差こそあれ、見るからに高級なものや可愛らしくラッピングされたものなどどれもきらびやかに思える。それに比べてわたしの手にあるものはなんて貧相なんだろう。
「そうか」
そう言うと晋助はあっさりわたしを解放し、手から包みを取り上げる。
「あるならさっさと出しゃあいいんだよ」
満足気に笑う顔があまりに妖しく綺麗で、身体は放されたというのにわたしの心臓は早鐘のように鳴り続けた。
始業のチャイムが鳴り、担任の銀八が教室へ入ってきた。それと入れ違いに出ていく晋助。晋助がこの時間にいることに驚き、ワンテンポ遅れて叫ぶ。
「あれぇ高杉くん!?これから授業なのにどうして出て行っちゃうの!?先生のこと嫌いなの!?」
「俺の用は終わったから帰る」
振り返りもせずに廊下を去っていく晋助の背中を見送り、銀八が呟く。
「俺に返事するなんてあいつ相当機嫌いいな…気持ち悪ッ」
2月15日午前8時15分
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