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咲き乱れる花々の甘い匂いが溢れる、よく晴れた春の午後だった。
「晋助って本当太陽似合わないね」
少し先を跳ねるように歩いていた乙玖が振り返ってケタケタ笑う。
編笠を深く被った男はうるせェと低く唸った。
「怒んないでよ、せっかくのお祭りの日なのにさ」
「祭りっつったってこの時期じゃあそう大きなものじゃねえだろ。わざわざお尋ね者が来るもんじゃねェよ。」
男は過激派で知られる攘夷浪士高杉晋助。当然指名手配されている。
一方の凌月乙玖も数え切れないほどの前科がある。
互いにいつどこで命を狙われているかわからない。
「それでも晋助と来てみたかったんだよお祭りに」
今日はやけに素直というか甘えてくるじゃねえか、と面食らった晋助は思わず足を止めた。
百年以上の長い間を人と距離を置き人を殺めながら独りで生きてきた乙玖。
晋助ともその寿命の違い故に、それ以前に彼の生き方故に別れがそう遠くないことはわかってるはずだ。
ふたりの想いが同じなのは自惚れではないだろうが、結末が見えているから手を伸ばすのを躊躇っている。この幸福を手に入れてしまったら、それは必ず失われてしまうのだ。
ーーそれに俺は幸福になんぞならなくていい。
先生を奪った奴らに同じ苦しみを、この憎しみを。
「ねえ?はやくいこうよ?」
かけられた声で我に返り、顔を上げると不思議そうな顔をしている乙玖が見えた。
少女は男と違って、町に、人混みの景色に、陽の光に馴染んでいた。
自分以上に孤独で血に染った道を歩んできた乙玖がなぜこんなにも眩しいのか晋助はわからなかった。
同時に、影のなかに引きずり込み汚してしまいたい欲に駆られる。
自分と同じ闇へ、深い底へ。
それは手に入れることはできないとわかっていても、その光に祈り縋ろうとする自分に嫌気がさしたからだろうか。
「光が俺には眩しすぎただけだ」
「だからさっきから似合わないねって言ってんじゃん」
乙玖が晋助の手を引き、並んで歩き出す。
ふたりの間でフリージアの影が揺れていた。
フリージア
一つになんてきっと なれないなんて知っていた
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