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煙みたいな、人だった
朧げな月の光に当てられて、煙管の煙が舞っていた。
黒光りする戦艦に不釣り合いに思える小さな影が見える。
わたしに気付いた影が振り返る。
「寒ィだろ、部屋戻りな」
…わたしよりずっと薄着な人に言われても。
無視して晋助の横をすり抜け、砲塔に立つ。
海面から遠く離れた視界は良好で、冷たい風にはためく髪が心地いい。
わたしのお気に入りの場所だった。
手を差し出すと意外にも晋助は素直に掴み、隣に上ってきた。
「馬鹿と煙は高いところが好きってな」
「晋助は煙でわたしは馬鹿だ」
俺のどこが煙だ、とでも言いたげな顔をしているので丁寧に説明してあげた。
「さっきまで燃えていたのに上へ上へと揺れて昇って掴めないままいつのまにか見えなくなってしまいそう。それよりわたしは馬鹿ってのを否定してよ馬鹿」
「俺についてくる馬鹿な女だよてめーは」
そう言って晋助は喉で笑う。
俺みたいな奴でも月に近付けるから、高い場所は嫌いじゃねェと言っていた。
なんてことのない、いつかの夜を思い出してしまった。
「晋助の言った通りだったなあ…」
失うとわかってて晋助についていったわたしは馬鹿な女だった。
彼は
煙みたいな、儚く美しい人だった。
掴む前に消えてしまった。
馬鹿と煙