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「俺と一緒にいることで、あいつの人生を壊してしまうのが怖い」
「は?」
高杉晋助が吐き出した言葉に、坂田銀時は思わず間抜けな声をあげる。こいつに返事なんて絶対してやんねえと思っていたのに。
どの時空のどのタイミングかはさておき、銀時は高杉に突然呼び出された。高杉のためにわざわざ出向くのも癪だった銀時だが、高杉が俺を呼び出すなんて余程の事、ここでひとつ恩でも売っておくのも悪くない、と思い直して足を運んだ。しかし当の高杉は、顔を合わせて「よォ」と挨拶にもなっていない挨拶をしたきり、一向に口を開かないので、もう帰ろうかなと思っていたところである。
「いやいや高杉くん?名台詞が俺ァただ壊すだけだ一択のお前が何言ってんの?」
あいつ、というのは銀時もよく知る高杉の恋人……というには些か拗れた関係の女のことだ。高杉に呼び出される用事なんてあいつ関連以外にないだろうとは思っていた。恋愛相談、なんて言うと鳥肌モノだから考えないようにしていたが。
「壊すのが怖いなんて言っちまったら、アイデンティティ失うんじゃねーの?ただでさえ扱いにくいって言われてるのに余計出番なくなるぞ」
高杉が舌打ちをして銀時を睨む。どうやら当人としては至って真面目な話らしい。しゃーねーな、と改めて銀ときは口を開いた。
「お前がここであいつを手放しても、他の男がめちゃくちゃにするだけだろ。お前より悪い男はそういねえが、お前と同じくらい悪い男はわんさかいるんだ。誰がやるかってことしか変わりねーよ」
「ふざけんな、あいつの人生めちゃくちゃにできるのは俺だけだ」
「いやーどうだろうね。あの顔だけが取り柄のゴミクズ野郎の沖田総悟にキャーキャー言ってるくらいだからな。顔さえ良けりゃコロッとやべー男についてっちゃうんじゃねーの。あいつの面食い舐めんなよ、中身なんか一切見てねえぞ」
真選組随一の剣の使い手と名高い一番隊長・沖田総悟。その甘く整ったルックスと、その見てくれからは想像もつかない程の腹黒サディストっぷりは、鬼兵隊である高杉の耳にも届いている。また、自分の恋人の好きなタイプが本当は王道の王子様系であることも彼は知っていた。
「えっ、じゃああの娘なんで高杉を選んだの?おかしくない?沖田と違ってお前なんか顔も中身も陰気なのに」
気付いてしまったことをそのまま口に出した銀時に対して、高杉が鯉口を切った。顔を覗かせた刃と同じように高杉の目が鋭く光る。
「ま、まあ、好きになった人がタイプってことで」
フォローになっていないフォローだが、高杉は刀を鞘に納めてくれたから、とり急ぎ怒りも収まったらしい。銀時は胸を撫で下ろす。これは少しのおふざけも命取りになるようだ。たかが恋愛相談で命を取られていてはたまったもんじゃない。
「つーか壊すも何もあいつの人生も頭も元から壊れてんだろーよ、お前に出会う前から」
銀時は彼女の過去を知らない。高杉もきっと全ては知らないだろう。それでもその深淵は推して量ることはできる。彼女の方も、高杉の背負うものを決して踏み荒らすことはせず、ただ寄り添っている。そんな二人だからこそ、惹かれあった。
高杉と同じ痛みを抱えた銀時は、その存在の価値を、その意味を、誰よりも理解しているつもりだ。
「でも心は壊れてねーだろ。壊れそうだったのをお前が護ってやったんだからよ」
銀時の言葉に、高杉が片方しか開いてない目を見開いた。
「それでいーんじゃねーの。人生より頭より、心のがずっと壊れやすいんだ」
彼女が高杉に寄り添っているように、高杉もまた彼女に寄り添っていた。高杉自身が、そうとは気付いていなかったのかもしれないが。
高杉は固く握り締めたままの刀の柄に目を落とす。掴んでいるのは全てを壊す力か、彼女の手か。
「護ってやれるんだろうか。俺なんかに、護れるものがあるんだろうか」
知らねーよ、と銀時が一蹴する。
「そりゃお前次第だろ」
そうだな、と呟く高杉の横顔は、テロリストでもかつての攘夷志士でもない、愛おしい女のことを想うただの男の顔だった。
壊れないもの
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