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ケーブルを巻こうとして屈むと、鏡の中の自分と目が合った。なんでこう、リハスタってのは鏡張りが多いのか。パフォーマンスを確認するためなんだろうが、俺のように自分を直視したくなくて俯いて演奏する癖がついているバンドマンも一定数いるだろう。もちろんバンドにとって見てくれも大事なんだろうが、憧れた海外の大物バンドたちが鏡を見てパフォーマンスの練習をしているなんて考えたくない。憧れは憧れのままでいてほしい。
取り留めもなく考えを巡らせていたら、手元が疎かになっていたようだ。せっかく巻いたケーブルがバラバラとこぼれ落ちた。はァ、とため息をついてまた一から巻き直す。好きなバンドがライブ後に片付けをしているのはかっこよく見えるが、自分がやっていると現実に引き戻される時間でしかない。
「ねー見てくださいっス!昨日ネズミーランド行ってきたんスよー」
「そういえばSNSに写真上げてましたね」
早々にギターを片したまた子がドラム椅子に座りクルクル回りながら武市に話しかけた。武市はシンバルを仕舞う手を止め、また子が差し出すスマホを覗き込む。
「あれ、この子この間打ち上げにいた子でしたっけ。確か桂さんのお友達の」
半分ほど巻いたケーブルがまたばらけた。万斉が「今日調子悪いでござるな」と覗き込んでくる。苦笑いと舌打ちの間のような、曖昧な顔で誤魔化した。
「そうッス!マブダチ!」
「マブダチって……」
先週のライブで会った、やたら楽しそうに踊る女。あの日、あいつもヅラに誘われて打ち上げに来た。出演者もスタッフも客も入り交じった大所帯。最初のテーブルで一緒になったまた子と好きな音楽が同じだとかでやたら意気投合し、そのままずっと二人で話し込んでいた。
明日はあの日以来のライブだ。次も行くって言っていたがどうだろうな、と、思いながら今日のスタジオ練に来た。
「いつの間にそんな仲良くなってたんですか?」
「いやほんとこんな趣味合う子いるんだって感動したッス!センスよすぎ、ずっと電話してるッス。まじマブダチ!双子!ニコイチ!」
「猪女とニコイチなんて可哀想に……」
また子はドラムスティックで容赦なく武市を叩く。
フォローしたときは割と活発にSNSで騒いでる奴だと思ったが、あの日以降ぱったりと投稿が無くなっていた。俺に見られているからだろうか、などと考えたがとんだ自意識過剰。SNSなんざやってる暇がないほどまた子と仲良くしてただけだったようだ。
リハスタの喫煙所で万斉と並んで煙草に火をつける。SNSを開くと数分前に投稿されたばかりのあいつとまた子が並んだ写真が流れてきた。俺のライブじゃなくても楽しそうにしてやがる。溜息と一緒に吐き出した煙を目で追いながら、気付いたら口を開いていた。
「なあ万斉、明日のセトリ変えねーか?」
「何言い出すんでござるか……今練習終わったとこなんだが?」
「俺が作った曲やりてえ」
サングラス越しに万斉と目が合う。
「本当に……今日の晋助は変な調子でござるな。それとも自分の曲が大好きなナルシストになったのか」
「別に、そんなんじゃねえ」
俺は煙に巻いて誤魔化した。調子が変なことも、あいつが気になっていることも。
ただ、好きだって言ってた曲でまた踊ってほしいだけだ。今は、まだ。
Light my fire!2
取り留めもなく考えを巡らせていたら、手元が疎かになっていたようだ。せっかく巻いたケーブルがバラバラとこぼれ落ちた。はァ、とため息をついてまた一から巻き直す。好きなバンドがライブ後に片付けをしているのはかっこよく見えるが、自分がやっていると現実に引き戻される時間でしかない。
「ねー見てくださいっス!昨日ネズミーランド行ってきたんスよー」
「そういえばSNSに写真上げてましたね」
早々にギターを片したまた子がドラム椅子に座りクルクル回りながら武市に話しかけた。武市はシンバルを仕舞う手を止め、また子が差し出すスマホを覗き込む。
「あれ、この子この間打ち上げにいた子でしたっけ。確か桂さんのお友達の」
半分ほど巻いたケーブルがまたばらけた。万斉が「今日調子悪いでござるな」と覗き込んでくる。苦笑いと舌打ちの間のような、曖昧な顔で誤魔化した。
「そうッス!マブダチ!」
「マブダチって……」
先週のライブで会った、やたら楽しそうに踊る女。あの日、あいつもヅラに誘われて打ち上げに来た。出演者もスタッフも客も入り交じった大所帯。最初のテーブルで一緒になったまた子と好きな音楽が同じだとかでやたら意気投合し、そのままずっと二人で話し込んでいた。
明日はあの日以来のライブだ。次も行くって言っていたがどうだろうな、と、思いながら今日のスタジオ練に来た。
「いつの間にそんな仲良くなってたんですか?」
「いやほんとこんな趣味合う子いるんだって感動したッス!センスよすぎ、ずっと電話してるッス。まじマブダチ!双子!ニコイチ!」
「猪女とニコイチなんて可哀想に……」
また子はドラムスティックで容赦なく武市を叩く。
フォローしたときは割と活発にSNSで騒いでる奴だと思ったが、あの日以降ぱったりと投稿が無くなっていた。俺に見られているからだろうか、などと考えたがとんだ自意識過剰。SNSなんざやってる暇がないほどまた子と仲良くしてただけだったようだ。
リハスタの喫煙所で万斉と並んで煙草に火をつける。SNSを開くと数分前に投稿されたばかりのあいつとまた子が並んだ写真が流れてきた。俺のライブじゃなくても楽しそうにしてやがる。溜息と一緒に吐き出した煙を目で追いながら、気付いたら口を開いていた。
「なあ万斉、明日のセトリ変えねーか?」
「何言い出すんでござるか……今練習終わったとこなんだが?」
「俺が作った曲やりてえ」
サングラス越しに万斉と目が合う。
「本当に……今日の晋助は変な調子でござるな。それとも自分の曲が大好きなナルシストになったのか」
「別に、そんなんじゃねえ」
俺は煙に巻いて誤魔化した。調子が変なことも、あいつが気になっていることも。
ただ、好きだって言ってた曲でまた踊ってほしいだけだ。今は、まだ。
Light my fire!2