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痛い。
動けない。
掌に杭を打ち込まれているのだ。当然だ。
拷問、異端審問、魔女狩り?
そんな時代錯誤な単語が頭のなかを巡る。
時代も何もないか。だってこれは夢なのだから。
視界に入ったのは見慣れた天井だった。
夢というものはは大体、夢と認識した瞬間に覚める。障子の向こうははまだ薄暗く、眠る前は明るかった月も雲に隠れていた。
顔を横に向けるとすぐ近くに晋助の顔があった。これも見慣れた光景。
夢から覚めたはずなのに、まだ痛む手。わたしの左手に覆い被さるようにして、晋助の右手が握っていた。大きく硬く骨ばった男の指が、わたしの指と指の間にいる。無理矢理開かれたわたしの指と、無防備に預けられた晋助の重み。力任せに引っこ抜くと、じんじんと痺れていた。
身も心も預けた相手と手を繋いでいたのに拷問だなんて思ってしまったなんて、少し気が咎める。
晋助の手に、今度はわたしが手を重ねた。同じように指を絡めようとしてみたけれど、大きな手の甲に阻まれて軽く押さえつけただけだった。
――晋助はいつかきっと、この手を振り払ってどっか遠くに行っちゃうんだ。
わたしの手では彼をここに留めることなどできないのだろう。
見慣れた光景とは言っても、両目を閉じた晋助の顔はまだどきりとする。少し前から包帯はしていない。こう見ると傷一つない、ただのきれいな男だ。この間まで包帯の下に渦巻いていた悲しみが、憎しみが、昇華されたのか、あるいは別のものへ向いているのか、わたしにはわからない。わたしにはその黒い感情を見せてはくれないから。
重ねた手を簡単にすり抜けて、晋助の手が背にまわる。そのままぐい、と引き寄せられた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ん」
目を閉じたままの晋助。返事になってるんだかなってないんだか。
稀にこうしてまどろみの中で晋助から擦り寄ってくることがある。この瞬間がわたしは堪らなく好きだ。鬼兵隊でも攘夷浪士でもない、ただの
「好きだよ」
「ん」
晋助の腕の重み。抱きしめられて動けない、行き場のないわたしの腕。不自然な体勢になっているんだけど、晋助はお構い無し。押し返してもびくともしない。たぶん、しばらく離してはくれないだろう。
朝起きた時の身体の痛みを想像して、少し気が滅入る。でもどうしようもできない。とりあえず目の前にある晋助の胸板に頭を擦り付けてみる。動物みたいなマーキング。効果があるかはわからないけど、このくらいの仕返しは許されるでしょう。
明日目覚めた時も、その次の日も、また見慣れたこの光景が、隣りにこの男がいることが変わりなく続いていますように。わたしは誰とでもできる恋愛をあなたとしたい。
そんなことを願って、晋助の腕の中でもう一度目を閉じた。
夢うつつ、恋うつつ