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それは緑のような、黄色のような、淡い光だった。温かく、優しく、そして懐かしい匂いがした。
それが何かわからないまま、俺は声をあげた。誰かを呼ぶように、気付いてもらえるように。大きな産声を。
次に気付いた時には、俺は父母ではない誰かの腕に抱えられていた。彼らは俺を「晋助様」「晋助殿」と呼ぶ。光は小さな粒のようになって、そこらじゅうを漂っていた。
自らの足で立ち、話すことができるようになった頃、白い化け物を連れた長髪の男が俺たちを訪ねてきた。
「貴様は俺の忠実な部下で、共に攘夷活動に励んでいたのだ。これからも俺の命じるままに働くのだぞ」
俺は男の鬱陶しい長髪を掴んで毟り取ろうとしたが、ヅラじゃなくて地毛だった。
光のようなそれはもう見えなくなっていたけれど、見えないだけで変わらずどこにでもいることはわかっていたから寂しくはない。
次に長髪の男が来たときは連れがもう一人増えていた。胡散臭いサングラスをかけたもじゃもじゃは俺を見るなり腹を抱えて笑いやがった。失礼なやつだ、と思い切り脛を蹴ると涙目を浮かべてかがみ込んだ。そうすると目線が同じくらいになって、もじゃもじゃは「
俺は俺が何者なのかを知らない。ここにいる理由がわからない。
人目をはばかった、ひっそりとした日々はひどく穏やかで、俺はぼんやりと抱いている罪悪感を忘れそうになる。こんな生活を俺が享受していいはずがない。誰かが訪ねてくる度に思った。何か忘れているような気がして、何か足りない気がして、焦りばかりが募っていった。
「ふーん、シンスケにもこんなかわいい時があったんだね。俺が子供だったときのほうがかわいかったけど」
「何言ってんだすっとこどっこい。お前ほど憎たらしいガキはいねーよ。まあこいつも似たり寄ったりだがな」
その日やってきたのは晴れているのに傘を差している二人の男。不躾に俺を眺め回す。こびり付いた血の匂いはするが、その視線に敵意は感じられなかった。
「でも残念だね。こんなに小さくて弱いシンスケじゃ、あの女を護ってやれないな」
女?
「なーんだ、忘れちゃったの?じゃあ俺がもらっちゃおうかな」
青く丸い目が意地悪く笑って俺を見下ろした。
心臓がどくん、と大きな音を立てて打つ。俺が忘れていたもの。俺に足りないもの。小さな全身に血が巡る気配がした。
「なんてね、冗談だよ。あんな女俺は願い下げだって。でもシンスケはあいつじゃなきゃだめなんだろ」
いつの間にか握りしめていた掌を見る。こんなに小さな手では刀を握れない。あの時離した手を掴めない。
強くなりたい。今度こそ、失ったものを取り戻せるように。
―弟子がそう願うなら、師は喜んで手を貸しますよ。ちょっとだけね。
温かく、優しく、そして懐かしい声が聞こえた気がした。
翌朝、目を覚ますと左目が閉じていた。窓ガラスには見慣れた俺―高杉晋助が呆けた顔をして映っている。
全て思い出していた。俺がしたことも、先生のことも、あいつのことも。
「晋助様!本当に、本当に帰ってきたんスね!」
部屋の外へ出るなり、また子が涙を浮かべて駆け寄ってくる。
「あァ。世話をかけたな。……あいつはどこにいる」
「我々もずっと探しているのですが全く足取りが掴めずでして」
武市が申し訳なさそうに首を振る。
「桂さんたちも協力してくれているのですが、如何せん宇宙規模のフッ軽みたいな女ですから。あと可能性があるとしたら、彼ならば」
「銀時か」
武市とまた子が頷いた。
俺は大きなため息をつく。
最後に見たあいつの顔は泣いていた。俺が手を離して突き放した。
また俺の元に来ることをあいつは望むだろうか。会ったらまず謝らないと殴られそうだ。そんで早く抱きしめたい。
「背に腹はかえられねェ。この際だ、万事屋に人探しを依頼しようかね」
江戸へ、かぶき町へと歩き出す。
踏み出した俺の一歩は昨日までよりもずっと大きくなっていた。
Boy beyond the FINAL