虚構のアイランド【まとめ】

短編3・ザ・グレイテストスナイパー

2024/07/12 07:40
アイランド短編
♫♫♫
北米基地で出会った同年代の隊員であるラウトとは、最初の遠征からずっと一緒だった。
力仕事の現場で、現地の作業員達とよく掛け合いで仕事を回していた。

ラウトは本当に、裏表がなさそうな人物だった。
老若男女問わず、大きな声で明るく接している。
普段の日常生活のシーンでは、彼は魅力的な人物に見えた。

だが、ラウトも俺も軍人の身。
彼の実力に関しては、今のところ読めない。
正直、若さだけで遠征の伝令でよく飛ばされる…とは思えないのだ。
彼には…何か秘密があるに違いない。

能力を聞き出す機会はいくつかあった。
上官に聞いてもよかった。
だが、同年代の人間を疑いたくないという心が引っかかり、中々言い出せなかった。


遠征の日がやって来た。
現場には故障していないヘリか船での移動手段が多かった。
建設作業がメインの今、輸送用の機械の再生産にまだ余力が回らない状態だった。
残っている既存の機械を活用するのが、手っ取り早いのだ。

アフリカの地を訪れた。
上官達の話から、この大陸も南米同様、紛争の絶えない土地であった。
豪雨災害で仲間割れしている状況ではないのだが…。

「人間ってのは、誰でも欲を持ちたがるんだよなぁ。大小問わずな。」
遠征の地を共にする上官の一言だが、若い俺には共感できた。

アフリカ北部、かつてエジプトという国が存在した地域にて、俺たちは降りた。

紛争が勃発しているといっても、休みなく刃や銃弾が飛び交っている訳ではない。
束の間の安らぎだって、残されている。

北部から中部へ向かうには、耐久性に優れた軍用の輸送車両に乗った。


中部こそ、戦場の地であった。
建物の群れが存在するので、俺達が訪れたのは町であった。
建物の所々が大破しており、人が快適に住みづらくなっていた。
故に、人気は寂れていた。

俺はラウトと共に行動するよう、指示を言い渡された。
町の中は、自分達の足で移動しなければならなかった。
防弾ジョッキから手榴弾、小型のライフルを装備して、町中を探る。

ラウトは俺の装備と1点だけ、変化があった。
彼の右肩に背負っている、黒くて長い袋だった。
俺よりも抱える装備の比重は大きい。
それで走れるのか、不安になった。

「悪いなぁ。コイツは俺の必需品なんだよ。」
必須の道具か。ならば仕方ないな。

♫♫♫
ラウト以外の隊員とは、携帯型の無線機で連絡を取り合っていた。
彼らは俺達と異なる別視点から、町中の紛争の動向を見守る役割を担っている。

比較的、外傷の小さな建物の中へ潜り込めた。
アパートとして利用されていただろう縦長のこの施設も、今は廃墟と化していた。
玄関のドアの施錠も、効果はなかった。

外傷自体抑えられていた建物だ。
階段の軋む音はすれど、俺達2人の体重は持ち堪えたようだ。

屋上へと出る。
駆け上がったせいか、風が吹く町の外でも、蒸し暑さが残った。
身体中に滲む汗の影響だろう。
しばらくすれば乾くので、ベトベトしている汗を我慢した。


この廃墟が並ぶ町中で交戦するのは、巷で有名なゲリラ部隊だった。
ある1つの宗教を妄信的に崇めている団体らしく、まともに話し合うには厄介な相手である。

彼らは事前の会議で報告があったように、道徳的にアウトな行動を起こしていた。

近隣の町への襲撃から、弱者への暴行まで…見てはいられない熾烈な行為ばかりを聞かされた。
彼らに警告声明を出しても、『宗教』の1点張りで悔い改める気はゼロだ。
信仰心のある者は、非暴力・非暴行を貫き通すと教わったんだが。

地域は違えど、無法者を野放しにしてしまってはいけない。
罪のない人々が巻き込まれないように、俺達は彼らを止める必要がある。

野ざらしの屋上。
俺の横に座ったラウトは、異なる装備だった長くて黒い袋を開封した。
日本で言う巾着袋で、紐を解いて開け口を広げるだけで、袋はスルスルと下に落ちていった。

袋の中身は、れっきとした狙撃用のライフルだった。

「お前は…。」
「そう。俺、凄腕のスナイパーとして買われてんの。」
ラウトはライフルを触っていない右手でグッドの形を作った。

どうりで、屋上を拠点にしたわけだ。
スナイパーは敵が視認できない位置を設定しておかないと、不意を突かれてしまいかねない。
それだけで作戦失敗にも繋がるのだ。

屋上ならば、敵もなかなか攻めにくいだろう。
ヘリなどの飛び道具でも使用しない限りは辿り着けない。
まして高低差で、下から同じスナイパーで仕留めるにも、視点の切り替えが必要になる。

ラウトは長いライフルを組み立てて、銃口を屋上の石壁に固定した。
右目でスコープを覗いて、照準を調整していた。
俺はラウトの行動を静観するだけだった。
狙撃を実行している彼に、余計な邪魔が入らないようにする為だ。

長いライフルではあるが、小径は細めであった。
火力が大きいのか、ドーン!と銃声が響く。
小さな砲弾だろうか、と錯覚してしまった。

狙いを定めたのは、2キロ先にある敵の集団だった。
狙撃とはいえ、人命を落とすのだけは避けないといけない。
彼は集団のかたまりではなく、側にある屋根の板を狙っていた。
当たった屋根はグラグラ揺れて、根本から割れて落下した。
近くの集団は、屋根の落下から逃げていた。

『A1!聞こえているかA1!』
無線機に通信が入った。
部隊の仲間達なので、すぐに返答した。
「A1です。狙撃、開始しました。」
『こちらも確認した。敵は我々の作戦通りの陣地まで来ている。そちらはもういい。撤退を開始しろ。』
「了解です。直ちに引き上げを…!?」

俺は異変に気づいた。
何らかの黒い影が、すばしっこい動作を見せつけている。
ソイツは一瞬、俺の視界に入り…。

「ラウト!」
「何だよ!」

ラウトが怒鳴っている時はすでに、俺の身体が動いていた。
ソイツは彼の背後から、ナイフで襲い掛かろうとした。

俺はタックルの技でソイツにぶつかりに行き、仰向けに転ばせた後、馬乗りになって両手首を押さえた。
暴れ続けるので、小型の催眠ガスのスプレーを顔の近くで噴射した。
ソイツは、眠りについた。
寝息を立てたソイツを背負って、俺は立ち上がった。

「アージン!」
ラウトが心配してくれたのか、俺に近寄ってきた。
いつの間にか、長いライフルは袋に仕舞われていた。

「大した事はないさ。」
「お前がいてくれて助かったよ。」
「跡をつけられていたようだ…こちらA1。奇襲者を確保しました。ここから離脱します。」
『了解。指定ポイントで合流だ。』

♫♫♫
それからも、俺はラウトと共に行動する機会が増えた。
救助活動から武力介入まで、多種多様の遠征に参加した。
もちろん、命令遵守である為、強制的になるが。

6回目の遠征から帰ってきた時、俺は北米基地の長官と話をする場を設けて頂いた。
その時の俺の年齢は、24歳になっていた。

長官の階級は大佐である。
俺は彼に対して、『大佐』と呼んでいた。

上官に気を遣いながらも、初めのうちは笑い合いながら話していた。
キリのいい所で、俺は大佐に質問した。

「大佐。お尋ね申し上げたい事が…。」
「構わんよ。今は私とお前だけだ。どんどん聞いてきたまえ。」

大佐は右手で招く仕草をした。
せっかく大佐が聞いてくださるんだ。
ここで出し惜しみをしてはいけない。

「自分と同年代であるラウト・ビルムーダ少尉についてなのですが…。」
「ああ、彼か。うまくやっているかな?」
「特に問題は、ございません。」
「彼、調子に乗る一面もあるからなあ…拗れてなくて良かった。」
大佐は俺の報告を聞いて、安堵の息を吐いた。

「君と少尉は、我々正規軍、ひいては地球全土の希望の星として、期待しておる。」
「お褒めに預かり、光栄ですが…。」
「まだ実感は湧かないだろう。致し方あるまい。
だがいずれ、君達2人には重大な責務を果たしてもらう予定で考えている。」
「その…重大な責務とは?」
「今はまだ言えん。開示日まで機密事項だからな。」

俺はちょっぴり落胆した。
上官が秘密だと言ってしまえば、それ以上深くは探れない。

そんな俺を、大佐は彼なりの思いやりで励ましてくださった。

「悪い話にはならないさ。降格などの処分は検討しておらん。
君達の頑張りには、昇格をお願いしたいぐらいだ。
情報が非開示だからと言って、深刻になるな。」
「…申し訳、ございません…。」
「気落ちしたかな?本日はこれで切り上げようとしよう。休息時には、ゆっくりと休むようにな。」
「承知、しました。」

大佐の気配りに感謝し、俺は腰を下ろしたソファから立ち上がった。
ドアの前で大佐と向き合い、敬礼の構えを取った。

「失礼します。」
「うむ。」
大佐も同じ構えで返してくださった。

ドアノブに手をかけ、大佐との話の場を設けた応接室を出た。

「…今の段階では、まだ実証が確立されていなくてだな。
君にいずれ託す責務は北米、いや全世界の将来をかけたプロジェクトになるのだ。
平和の訪れは、君達にかかっている。
ビジョウ少尉。ビルムーダ少尉。」

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