虚構のアイランド【まとめ】

本編3・サードダイレクト

2024/07/11 19:37
アイランド本編

[サウザンズ]へのワープは、自分達の決められた所属の配置場所へと転送される。

私はパイロット部隊だから、当然格納庫に固定される。
他の施設に立ち寄る時は、ここから自分の足で出向かなければならない。
今は専ら出撃準備であり、他の用事はない。

私は自機の橙色のラインの入ったジェット機のコックピットに乗った。
整備の微調整を済ませてもらった事は、整備士から確認を取った。
ヘルメット、扉の施錠は問題なかった。

いよいよ発進…とはならなかった。
指示は出されていないから。

コックピット内のモニターは起動させている。
戦闘時だから、最新情報が常に飛び交う状態だった。
虚像獣は、未だ[ノース・エリア]の上空を漂っている。
[セントラル・ゾーン]との境界線は超えてないどころか、かなり離れている。

とはいえ、虚像獣はワープ移動もできるので、安心はできない。

出撃する気満々で、私達は待機していたが。


コックピット内のモニターと睨めっこし続けてから、30分以上経ってしまった。
虚像獣の位置はまだ、[ノース・エリア]上空である。
虚像獣にも力の強弱がある。
[サウス・エリア]で出現した敵でも、とてつもない強敵が混じっていた事もある。
その場合は倒すのに相当時間はかかった。
30分ぐらいならまだ許容範囲だ。

[ノース・エリア]出現の敵は、そうでもなかった。
常に初陣の者を出撃させているのだろうか。
能力値から見ると、大して厄介な敵なのか疑わしいレベルの虚像獣も存在した。

私達のエリアでは10分あれば倒せる弱い敵でも、[ノース・エリア]のパイロット部隊は30分かかっている。
単にパイロット不足なのか…?
と想像するが、[ノース・エリア]内の一大基地である[ノータブル]側からは、パイロットの予備が欲しいという申請はなかった。
正規軍から候補を探す、という作業もしていないらしい。

[ノース・エリア]側の謎について考えていると、さらに10分程経過していた。
虚像獣が出現してから40、いや45分は経っていた。

長時間の待機となれば、苛立ちを表に出す部隊のメンバーもいた。
子供っぽいネロと、喋りの多いラウトさんだった。

『何ちんたらやってんだよ!北の奴!一気に叩いちゃえよ!』
『本当にコイツら倒せるのか?ちゃんと訓練受けたのか?』
普段は寡黙なアージンさんも、[ノース・エリア]の任務遂行には苦言を呈していた。

『能力値的に見れば雑魚レベルに近いですね。他に特異な性質を持っているかと言えば、送られた画像は見慣れた典型的な虚像獣ですよ。』
『苦戦する理由が思いつかんな。新米兵でも、これ1匹だったら倒せてもおかしくないぞ。』
リーダー格のボーデンさんの発言だ。

彼は息を吐いて、司令室に回線を繋げた。
『堂山。あと10分経過しても生存してるなら、応援に向かいたいんだがいいか?』

司令室と回線を繋いだのはボーデンさんだが、傍聴自体は私や他のパイロットも聞き取る事ができた。

『致し方あるまい。[ノース・エリア]地上でも被害が拡散されている。これ以上は危険だ。
始末書はこちらで手配して処理する。君らは戦闘に…!?』
『どうした?』
ボーデンさんが尋ねた。
総指揮官のセリフが、途中で途切れたからだ。
別に通信回線自体に、支障は起きていない。
なので、総指揮官はすぐに回線に応じた。

『今、報告が入ったんだ。虚像獣の消滅を確認したと。』
総指揮官の報告のすぐ後、アージンさんも状況の変化に気づいていた。
彼はパネルを操作して、地図のデータをチェックしていた。

『本当ですね。虚像獣の情報がロストしていました。』
アージンさんの行動を真似るように、私達残りのパイロットも状況確認した。
異常性の有無は1人の独断で決めてはいけないからだ。

地図のデータは任務遂行に必要となる為、精密度は高かった。

虚像獣の反応は、消えていた。
討伐処理を遂行した戦闘機は、3機程である。

やはり少ないし、技術力も不足しているのでは…?
私は[ノース・エリア]の稼働状態がおかしいと感じた。
[ノース・エリア]の戦闘機が基地に戻るまでは、私達パイロットはコックピットから降りられない。

戦闘機の帰還の様子を、私は地図データの点で追っていた。

アージンさんの話を聞くと、【ペンタグラム】みたいなロボ形態を[ノース・エリア]も所持しているらしい。
戦闘機の帰還も、迅速ではなかった。

[ノース・エリア]内の管轄基地は、[ノータブル]が担当している。
左斜め下の、2キロ程の地点に存在している。
瞬発的に移動が可能な戦闘機ならば、数分あれば到着する。
私達の予測に反して、[ノース・エリア]の帰還は10分もかかっていた。
これはもはや、[ノータブル]側にやる気があるのかどうか、疑うレベルである。

帰還を確認してから、パイロット部隊はコックピットから降りる許可を得た。
【ペンタグラム】の出撃なしに、虚像獣は消滅した。

♪♪♪
[サウザンズ]の全ての管理を担う司令室で、田辺堂山はホッと一息ついていた。
虚像獣の消滅を確認し、[スロープ・アイランド]全域に平穏が訪れようとしたからである。
それも、【ペンタグラム】の手を借りずにである。
堂山はいつも、[ノース・エリア]内で虚像獣が出現した時、心底不安でいっぱいだった。

[サウス・エリア]での出現の場合、ほぼ無条件で【ペンタグラム】の出撃ができる。
強大な敵でなければ、短時間で消滅させられる。
[ノース・エリア]における虚像獣への対処の仕方とは大違いだった。

自分の管轄下の基地である[サウザンズ]、北の管轄下の基地である[ノータブル]。
この2つはいわば[スロープ・アイランド]の平穏を守る為に作られた基地だ。
武力で解決すると聞くと、横暴すぎるという意見も出てはいた。
が、現時点では出現した虚像獣を次々と倒していくしか、手立てはなかった。

この方法以外の打開策も検討されてはいるが、[サウザンズ]にその権限は与えられなかった。

[サウザンズ]は正規軍の一管轄団体である。
上の言う事には、ある程度従わないといけない。

従順さと柔軟さに、堂山は時折悩まされていた。

司令室に突然、通信が入った。
オペレーターからの読み上げで、相手は[ノータブル]の総指揮官である扇浜筋道(おうぎはますじみち)であった。

堂山と年齢は変わらないだろう、50代半ばの中年男性が正面モニターに映し出された。
『よお。堂山。』
筋道に困り果てた表情は見られなかった。
直近の虚像獣の討伐任務で、あれほど時間がかかったというのに。

「何の様だ。扇浜。」
堂山は睨みつけるようにモニターを見返した。
堂山自体、筋道との仲はよろしくない為、彼には名字呼びで対処していた。

『そう目くじら立てんなよ。無事に終わったんだからよ。』
「今に始まった事ではないが、時間のロスはどうにかならないのか?」

堂山の指摘に対し、筋道はあー、と声を出した。
筋道にとっては、この指摘は言われ慣れている。
なので、特段驚く様子は見せなかった。

『たまたまじゃねぇのか?色々欠点は出てくるだろう?』
「たまたまが多すぎるぞ。欠点はその都度でも対処して頂かないと困る。」
『お前は真面目すぎんだろ?同期なんだし、もうちょい気を緩めろよ。』
「だらしなさでは虚像獣は倒せんぞ!」
堂山は怒りのレベルをあげていた。
筋道はこんな事では動じなかった。
『そう怒るなよ。男前が台無しだぞ?もう見た目気にする歳でもないか。』
「はぐらかすな!こうやって会話してる暇があれば、少しは反省しろ!」
『俺も忙しい中で時間を捻出して、お前に連絡取ってるが?』
両者、平行線の状態で互いに分かり合えない雰囲気が続く。
堂山は苛立つ姿を示していたが、筋道はポーカーフェイスを保っていた。

『もう、これじゃあ本題に移れねえだろ?』
筋道の発言だ。

「だったら、さっさと伝えろ。」
堂山も落ち着いたのか、少し怒りのトーンを落とした。
鋭い目つきは変わらなかった。

筋道は用件が言えると思うと、ニヤリと笑った。
『今回よぉ、お前とこの基地でもロボがいるだろう?』
「【ペンタグラム】だ。アレは1体限定。貸借も断っているぞ。」
『欲しいとは言ってねぇよ。討伐係は完璧だからな。』

どこが…と堂山は苛立ちを増していたが、今は堪えた。
堂山に鬱憤が溜まっていると理解してても、筋道はしれっと用件を述べた。

『まあよお、言いたい事は、【ペンタグラム】は要らねえし、お前らの応援要請も要らねえんだわ。』
「…それは、どういう…?」
堂山は目を鱗にした。
怒りの感情も入り混じった堂山の表情は、子供が見たら怯えて泣き出しそうである。
筋道は同世代の中年だから、効果はなかった。

『こっちで発生した虚像獣の始末は、こっちで処理するから、手を出すなって言いてえんだ。』
「そんな勝手な事が許されるのか!」
『俺が正規軍に申し入れたんだ。だから、そっちで出た分に関しては、こっち来て始末してもいいぜ?』

『正規軍』の言葉が出た以上、理不尽と感じても堂山は黙るしかなかった。
『そもそも北南の線引き自体がおかしいだろうが。お前もそうだろう?
生真面目なお前だったら、どこに出現しても心が痛むだろ?』
「どっちにしろ、解決策になっていないぞ。」
『出現場所でどちらかのみしかやれない、って決まりになったからな。』
筋道は堂山の気持ちを汲まず、のうのうと話を続けた。

『用件はそれだけだわ。手間を取らせて悪かったなぁ。
じゃあ、そっちの虚像獣は、そっちで対処しろよ?』
回線は一方的に切られた。

「クソっ!」
総指揮官の立場であり、オペレーターの見ている所で悪態をついてはいけない堂山。
だが怒りの矛先をどこにも向けられず、右足を強く蹴る程度で済ませていた。

オペレーター達も空気を読んで、総指揮官に無闇に話そうとしなかった。


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