虚構のアイランド【まとめ】
本編2・セカンドコンタクト(1)
2024/07/11 11:41アイランド本編
♪♪♪
【ペンタグラム】で難なく虚像獣を倒した私達パイロット部隊は、[サウザンズ]の司令室へ訪れた。
事後の報告は必須と私達は教えられているからだ。
リーダー格のボーデンさんが代表して報告を始めた。
「【ペンタグラム】部隊、ただいまより帰還しました。」
ボーデンさんが敬礼のポーズをすると、後ろに控える私達4人も彼に倣った。
向かい合った[サウザンズ]の総指揮官である田辺堂山(たなべどうざん)も敬礼のポーズをとっていた。
私達は総じて彼の事を《総指揮官》、《指揮官》と読んでいる。
「ご苦労。戦況は拝見させて頂いたよ。」
総指揮官は[サウザンズ]のトップなので、基地内では敬語を使わない事もしばしばあった。
見慣れた光景なので、私達は気にしなかった。
私達も敬語を扱えるレベルではないし。
報告自体は淡々と事を運んだ。
正直、今回の虚像獣は異常な高水準の強敵ではなかったし、私達も【ペンタグラム】の操縦に違和感を覚えなかった。
日常茶飯事の業務をこなしているかのようで、至って普通だった。
司令室での報告が終わると、総指揮官の《解散》命令で各自散らばっていた。
私も借りている[サウス・エリア]の居住区に戻ろうとすると、朋美に呼ばれた。
朋美は私の友人で、[サウザンズ]の専属オペレーターである。
元は正規軍の人間だったが、引き抜かれて今は専属となった。
女性だと柔らかい印象になるからだろうか。
「燃華(もえか)、今時間は大丈夫?」
燃華とは私の名前だ。
正式名称は、創竜燃華(そうりゅうもえか)と言う。
昔の日本人名のような名前の付けられ方だが、あまりこんな姓名は聞いた事がないとも言われた。
「構わないよ。今は暇。」
「そっか、なら今から私の部屋に来てくれる?」
「え?食堂とかじゃ、ダメなの?」
私は朋美に聞いた。
朋美の部屋はプライベート空間。
誰かに聞かれてはいけない秘密を明かすつもりなのかと疑ってしまったから。
「渡したい物があってね。部屋の棚に仕舞っているの。」
「そうなんだ。わかった、一緒に行こう。」
ひとまず理由を聞いた私は納得して、朋美に同行した。
♫♫♫
朋美の部屋は、まさに女子!と言った感じの可愛らしい部屋だった。
ピンク系統色の雑貨が、彼女の部屋に可憐さを持たせている。
流石に衣類や部屋の内装は、ピンクに染まってはいないが。
「それで、渡したい物って…。」
私は正座して待機していた。
朋美が座り方を見て、注意するのがワンセットだ。
「個室内だし、崩して座っていいって言ってるのに!」
「ごめん、どうも落ち着かなくて…。」
「燃華が可愛い系がちょっと苦手なのは知ってるけど、気にしなくていいんだよ?女の子だし。」
「そうだね…。」
朋美の指摘通り、私は女の子らしい可愛らしさが実は苦手である。
今の仮の居住地だって、ガラの悪いおじさん達ばかりが住む場所に構えているくらいだし。
自分の所有物ですら、可愛らしい系の小物とか持ち合わせていないんだ。
仮の居住地は、寝泊まりするのがメインだから、あまり気にならないんだけど。
忠告じみた指摘をしていては時間が無駄になると思ったのか、朋美は横長の紙切れを2枚出した。
正座を崩した私の目の前で、床にバン、と叩きつけた。
怒っているのだろうか、と不安になった。
これは私が気にしすぎなだけで、朋美本人はそうでもなかった。
テーブルがないから、床に置いただけだろう。
横長の紙切れ2枚。
ざっと内容を読んだら、コンサートのチケットだった。
これは…私にコンサートのお誘いって事でいいのかな?
私が考えていると、朋美が突然、頭を下げた。
しかも両手を合わせて。
「お願い!今度のコンサート、一緒に来て欲しいの!」
やっぱり私の勘は当たっていた。
私にお願いを申し出そうだなぁとは、このチケットに記載された中身で予想はつく。
巷で人気の男性アイドルグループ[5秒前]の、近日中に開催されるコンサートのチケットだからだ。
女性からの爆発的な支持の高いグループのコンサートに、男性が気軽に行ける訳がないだろう。
少数?の男性ファンがいたら、申し訳ない想像をしてしまったが。
ちなみに私は、性別関係なしにアイドルグループには興味がない。
私は私で、好きな歌を聴いているからだ。
パイロットの勤務形態は変則である。
敵の対象となる虚像獣がいつ潜んでいるのか、予測できないからだ。
今回の出撃のように日中の最中の時もあれば、早朝や深夜に出撃、という時もある。
有形物を所有するのはもったいなかった。
構う時間がないし、いつ命を落とすかわからない中で未練を残したくないから。
その反面、音楽という無形物はありがたかった。
音色と歌声で、自分の心に癒しを持たせてくれる。
専用のメディアプレイヤーに収録されている2人組女性グループの[Salty Sugar]が1番お気に入りだ。
個人的には彼女らの歌とピアノとクラシックギターで奏でる、穏やかな音楽が好きだ。
アップテンポの音楽は基本、好きじゃない。
アイドル系の楽曲は、7、8割はテンポの速い曲ばかりだ。
《元気》を無理矢理主張しているようで、苦手なんだ。
だから、朋美には申し訳ないけど、別の女の子を誘ったら?と思ってしまった。
「他の人は、いいの?」
「誘ったけど、皆忙しいってさ…。」
そうだろうね。
朋美は正規軍の時からの友人で、私の好みも把握している。
だから今日みたいな出来事は、誰かが断っていなかったら起きていない。
「ちょうどいい機会だし。ほら、燃華も疲れているから、気分転換にさ…。」
「私、あまりこういうのは…。」
「慣れなさそうなのはわかってるよ。でも、試しに行ってみたら変わるかもよ?」
試し、って事は今回だけ行ったら、次は断ってもいいんだね?
「じゃあ…今回だけ…。」
「よし決まった!」
朋美のガッツポーズだ。
「コンサートは8日後だから。身なりは何でもいいけど、清潔にしておいてね!」
うん。マナーは大事だからね。
とりあえずコンサートに行く意思表示は出した。
あとは…。
清潔感ある身だしなみだけど、何を着ていけばいいのだろうか…?
初心者なので、とことん悩んでしまった。
♪♪♪
[5秒前]のコンサート当日。
私は朋美との待ち合わせを、[サウス・エリア]のメインターミナルである[キング・ステーション]の改札口前と約束した。
[サウザンズ]本部から一緒に出ようと最初は考えていたが、朋美の都合で変更した。
パイロット業務に専念すればいいだけの私とは違い、朋美はオペレーター以外の業務もこなす為、仕事量が多い。
待ち合わせの時にはいつも、私が朋美を待つ事が多い。
[キング・ステーション]の改札口はいつも賑やかであった。
[サウス・エリア]全域を結びつけているだけでなく、[ノース・エリア]や[セントラル・ゾーン]の一部地域と直結する巨大なステーションだからだろう。
改札を通る人々の邪魔にならない場所で、朋美を待っていた。
朋美がやってきた。
スーツケースを運ぶ、カジュアルなスタイルの服装をしていた。
スカートではなく、動きやすそうなズボン。
上半身も、Tシャツの上に長袖のジャケットを着ていた。
普段の可愛さはどこへ行ったのかと、つっこみたくなりそうな姿だった。
「お待たせ!燃華!」
「えっと…男性アイドルのコンサート…。」
笑顔で到着した朋美に対し、私は彼女の服装に戸惑い気味で、引いていた。
朋美も察したので、彼女も服装について理由を答えた。
「これ?そりゃあ応援するんだから張り切って行かないと!」
「スポーツ、じゃないよね…?おかしくない?」
「おかしくないよ!燃華こそ…動きにくくないの?」
今度は朋美が私に聞いてきた。
私は自分の格好を見返した。
…何も格好悪くはない。
白のワンピースの上にベージュのカーディガンを羽織っていて、つばの長い白の帽子を被っている。
170センチ以上あって大柄な女性の私だが、コーディネートは女性らしさを強調させている。
女性らしさに欠けていると自負する私でも、TPOはわきまえているはずだ。
朋美にも何かしら事情があるだろうが、何故こうも恥ずかしくなるんだろうか?
「あ、いや…。燃華がいいならいいんだけど。スカート着てる子もいるし、悪くはないよ!」
やっぱり、朋美は私の気持ちを察してくれる。
いつも迷惑ばかり、かけているなあと不安になる。
「ごめん。」
「え?謝らなくていいよ!私こそ、無理に誘ってごめんね。」
朋美は右手でスーツケースを、左手で私の腕を引っ張った。
「さ、行こう。
場所は[セントラル・ゾーン]の中展示場だから。規模は狭いけど、座席指定だから窮屈にはならないよ。」
今まで避けていた改札口の前までいった。
私と朋美はサッとICカードを取り出して、改札機にかざした。
何も迷う事なく、[セントラル・ゾーン]行きの電車に乗った。
【ペンタグラム】で難なく虚像獣を倒した私達パイロット部隊は、[サウザンズ]の司令室へ訪れた。
事後の報告は必須と私達は教えられているからだ。
リーダー格のボーデンさんが代表して報告を始めた。
「【ペンタグラム】部隊、ただいまより帰還しました。」
ボーデンさんが敬礼のポーズをすると、後ろに控える私達4人も彼に倣った。
向かい合った[サウザンズ]の総指揮官である田辺堂山(たなべどうざん)も敬礼のポーズをとっていた。
私達は総じて彼の事を《総指揮官》、《指揮官》と読んでいる。
「ご苦労。戦況は拝見させて頂いたよ。」
総指揮官は[サウザンズ]のトップなので、基地内では敬語を使わない事もしばしばあった。
見慣れた光景なので、私達は気にしなかった。
私達も敬語を扱えるレベルではないし。
報告自体は淡々と事を運んだ。
正直、今回の虚像獣は異常な高水準の強敵ではなかったし、私達も【ペンタグラム】の操縦に違和感を覚えなかった。
日常茶飯事の業務をこなしているかのようで、至って普通だった。
司令室での報告が終わると、総指揮官の《解散》命令で各自散らばっていた。
私も借りている[サウス・エリア]の居住区に戻ろうとすると、朋美に呼ばれた。
朋美は私の友人で、[サウザンズ]の専属オペレーターである。
元は正規軍の人間だったが、引き抜かれて今は専属となった。
女性だと柔らかい印象になるからだろうか。
「燃華(もえか)、今時間は大丈夫?」
燃華とは私の名前だ。
正式名称は、創竜燃華(そうりゅうもえか)と言う。
昔の日本人名のような名前の付けられ方だが、あまりこんな姓名は聞いた事がないとも言われた。
「構わないよ。今は暇。」
「そっか、なら今から私の部屋に来てくれる?」
「え?食堂とかじゃ、ダメなの?」
私は朋美に聞いた。
朋美の部屋はプライベート空間。
誰かに聞かれてはいけない秘密を明かすつもりなのかと疑ってしまったから。
「渡したい物があってね。部屋の棚に仕舞っているの。」
「そうなんだ。わかった、一緒に行こう。」
ひとまず理由を聞いた私は納得して、朋美に同行した。
♫♫♫
朋美の部屋は、まさに女子!と言った感じの可愛らしい部屋だった。
ピンク系統色の雑貨が、彼女の部屋に可憐さを持たせている。
流石に衣類や部屋の内装は、ピンクに染まってはいないが。
「それで、渡したい物って…。」
私は正座して待機していた。
朋美が座り方を見て、注意するのがワンセットだ。
「個室内だし、崩して座っていいって言ってるのに!」
「ごめん、どうも落ち着かなくて…。」
「燃華が可愛い系がちょっと苦手なのは知ってるけど、気にしなくていいんだよ?女の子だし。」
「そうだね…。」
朋美の指摘通り、私は女の子らしい可愛らしさが実は苦手である。
今の仮の居住地だって、ガラの悪いおじさん達ばかりが住む場所に構えているくらいだし。
自分の所有物ですら、可愛らしい系の小物とか持ち合わせていないんだ。
仮の居住地は、寝泊まりするのがメインだから、あまり気にならないんだけど。
忠告じみた指摘をしていては時間が無駄になると思ったのか、朋美は横長の紙切れを2枚出した。
正座を崩した私の目の前で、床にバン、と叩きつけた。
怒っているのだろうか、と不安になった。
これは私が気にしすぎなだけで、朋美本人はそうでもなかった。
テーブルがないから、床に置いただけだろう。
横長の紙切れ2枚。
ざっと内容を読んだら、コンサートのチケットだった。
これは…私にコンサートのお誘いって事でいいのかな?
私が考えていると、朋美が突然、頭を下げた。
しかも両手を合わせて。
「お願い!今度のコンサート、一緒に来て欲しいの!」
やっぱり私の勘は当たっていた。
私にお願いを申し出そうだなぁとは、このチケットに記載された中身で予想はつく。
巷で人気の男性アイドルグループ[5秒前]の、近日中に開催されるコンサートのチケットだからだ。
女性からの爆発的な支持の高いグループのコンサートに、男性が気軽に行ける訳がないだろう。
少数?の男性ファンがいたら、申し訳ない想像をしてしまったが。
ちなみに私は、性別関係なしにアイドルグループには興味がない。
私は私で、好きな歌を聴いているからだ。
パイロットの勤務形態は変則である。
敵の対象となる虚像獣がいつ潜んでいるのか、予測できないからだ。
今回の出撃のように日中の最中の時もあれば、早朝や深夜に出撃、という時もある。
有形物を所有するのはもったいなかった。
構う時間がないし、いつ命を落とすかわからない中で未練を残したくないから。
その反面、音楽という無形物はありがたかった。
音色と歌声で、自分の心に癒しを持たせてくれる。
専用のメディアプレイヤーに収録されている2人組女性グループの[Salty Sugar]が1番お気に入りだ。
個人的には彼女らの歌とピアノとクラシックギターで奏でる、穏やかな音楽が好きだ。
アップテンポの音楽は基本、好きじゃない。
アイドル系の楽曲は、7、8割はテンポの速い曲ばかりだ。
《元気》を無理矢理主張しているようで、苦手なんだ。
だから、朋美には申し訳ないけど、別の女の子を誘ったら?と思ってしまった。
「他の人は、いいの?」
「誘ったけど、皆忙しいってさ…。」
そうだろうね。
朋美は正規軍の時からの友人で、私の好みも把握している。
だから今日みたいな出来事は、誰かが断っていなかったら起きていない。
「ちょうどいい機会だし。ほら、燃華も疲れているから、気分転換にさ…。」
「私、あまりこういうのは…。」
「慣れなさそうなのはわかってるよ。でも、試しに行ってみたら変わるかもよ?」
試し、って事は今回だけ行ったら、次は断ってもいいんだね?
「じゃあ…今回だけ…。」
「よし決まった!」
朋美のガッツポーズだ。
「コンサートは8日後だから。身なりは何でもいいけど、清潔にしておいてね!」
うん。マナーは大事だからね。
とりあえずコンサートに行く意思表示は出した。
あとは…。
清潔感ある身だしなみだけど、何を着ていけばいいのだろうか…?
初心者なので、とことん悩んでしまった。
♪♪♪
[5秒前]のコンサート当日。
私は朋美との待ち合わせを、[サウス・エリア]のメインターミナルである[キング・ステーション]の改札口前と約束した。
[サウザンズ]本部から一緒に出ようと最初は考えていたが、朋美の都合で変更した。
パイロット業務に専念すればいいだけの私とは違い、朋美はオペレーター以外の業務もこなす為、仕事量が多い。
待ち合わせの時にはいつも、私が朋美を待つ事が多い。
[キング・ステーション]の改札口はいつも賑やかであった。
[サウス・エリア]全域を結びつけているだけでなく、[ノース・エリア]や[セントラル・ゾーン]の一部地域と直結する巨大なステーションだからだろう。
改札を通る人々の邪魔にならない場所で、朋美を待っていた。
朋美がやってきた。
スーツケースを運ぶ、カジュアルなスタイルの服装をしていた。
スカートではなく、動きやすそうなズボン。
上半身も、Tシャツの上に長袖のジャケットを着ていた。
普段の可愛さはどこへ行ったのかと、つっこみたくなりそうな姿だった。
「お待たせ!燃華!」
「えっと…男性アイドルのコンサート…。」
笑顔で到着した朋美に対し、私は彼女の服装に戸惑い気味で、引いていた。
朋美も察したので、彼女も服装について理由を答えた。
「これ?そりゃあ応援するんだから張り切って行かないと!」
「スポーツ、じゃないよね…?おかしくない?」
「おかしくないよ!燃華こそ…動きにくくないの?」
今度は朋美が私に聞いてきた。
私は自分の格好を見返した。
…何も格好悪くはない。
白のワンピースの上にベージュのカーディガンを羽織っていて、つばの長い白の帽子を被っている。
170センチ以上あって大柄な女性の私だが、コーディネートは女性らしさを強調させている。
女性らしさに欠けていると自負する私でも、TPOはわきまえているはずだ。
朋美にも何かしら事情があるだろうが、何故こうも恥ずかしくなるんだろうか?
「あ、いや…。燃華がいいならいいんだけど。スカート着てる子もいるし、悪くはないよ!」
やっぱり、朋美は私の気持ちを察してくれる。
いつも迷惑ばかり、かけているなあと不安になる。
「ごめん。」
「え?謝らなくていいよ!私こそ、無理に誘ってごめんね。」
朋美は右手でスーツケースを、左手で私の腕を引っ張った。
「さ、行こう。
場所は[セントラル・ゾーン]の中展示場だから。規模は狭いけど、座席指定だから窮屈にはならないよ。」
今まで避けていた改札口の前までいった。
私と朋美はサッとICカードを取り出して、改札機にかざした。
何も迷う事なく、[セントラル・ゾーン]行きの電車に乗った。