虚構のアイランド【まとめ】

短編1・バトルダイアログ

2024/04/21 12:21
アイランド短編

【ペンタグラム】の右手に持っている武器は、《剣》である。
《剣》は、私の担当である。

【ペンタグラム】のパイロット部隊には、各々に武器の使用の担当者が固定されている。

《剣》は私。
《拳》はネロ。
《槍》はアージンさん。
《銃》はラウトさん。
ボーデンさんは私達のリーダー格なので、司令塔の役割を果たす。
ボーデンさんには特定の武器の担当はない。

虚像獣と【ペンタグラム】の距離は、わずか1キロ程しか離れていない。
この間合いなら、《剣》か《拳》で一戦交える場面に持ち込んでも、おかしくない。

というか、今出現してもらった虚像獣は、全てのデータが開示されているわけではない。
外観はともかく、内側の能力については、情報収集ができない状態だ。
だから、一度交戦して、実体験で分析しないと、能力の大小はわからない。

《剣》は、小手調べには持ってこいだった。
刃を光らせ、振り下ろした時の閃光を虚像獣にぶつけるだけ。
閃光は炎の一種であり、受けた虚像獣を燃やす事もできる。
一振りで燃やして戦闘を終わらせた経験もある。

ボーデンさんが指示を出す。
私はそれに従い、《剣》を両手で握った。
刃先を真上に上げて、私は気合いを入れる為に声を出した。

「はあっ!」

【ペンタグラム】は剣を一振りした。
閃光は虚像獣へと、まっすぐ飛んでいく。

翼を持っている虚像獣だが、閃光から逃げられなかった。
結果、炎が虚像獣を包んだ。
グオオオ!と虚像獣は高らかに叫ぶ。
熱さに耐えられないんだろうか、と私は思っていた。

私達パイロット部隊は、黙って虚像獣の行く末を見守った。
燃えて消滅すれば、私達の勝利だから。

ところが、今回は簡単に終わらせなかった。

炎は時間が経てば自然消滅するが、虚像獣は灰にならなかった。
焼け焦げた時の煙が上がっているぐらいだった。

『あー、今回も早く終われねぇか。』
ラウトさんががっかりしていた。
私が失敗した時はいつも言ってるので、もう気にならなくなった。

『虚像獣もワンパターンじゃないんだ。お前にも《銃》の武器があるだろ?』
『俺は大体遠距離からの射撃だからなぁ。遠くにいてくれないと。』
アージンさんに指摘されたラウトさんだが、これも毎度の日常会話である。

『2人とも。お喋りはそこまでだ。』
ボーデンさんが話を中断させた。
その次に、彼は新たな策を打ち立てた。

『装甲が頑丈そうだな。槍先で突く手段をとるか、アージン。』
『了解です。ボーデンさん。』
アージンさんはボーデンさんに対して丁寧語で話す。
これには私も、軽い感じでラウトさんも使っている。
逆に子供っぽいネロは、ボーデンさんに対して『おっちゃん』と呼んでいる。

話がうまく行った所で、【ペンタグラム】の武器は、《剣》から《槍》に変更した。
《槍》を両手で持ち、身構えるポーズを取った。

【ペンタグラム】は一瞬で跳んだ。
その振動は、私達の背中と接しているコックピットのシートから感じられた。

雲の上という、ただでさえ高い地点で飛行しているのに、さらに数キロ登っていく【ペンタグラム】。
成層圏スレスレにならないか、《槍》攻撃の時はいつもヒヤヒヤしている。

槍先は斜め下の虚像獣に向けていた。
斜め45度の角度まで登り詰めたら、後は虚像獣へまっすぐ突き進むだけ。
速度はジェット機で飛ばしていた時よりも遥かに上がっている。
意識を集中しないと、舌を噛み切ってしまう。
喋る暇はない。

虚像獣も攻撃の手段はあった。
奴の口から、強烈な光線を吐き出す姿も確認していた。
【ペンタグラム】の《槍》攻撃より、1歩遅かった。

槍先は虚像獣の胴体を貫いた。
当然ながら、虚像獣は悲鳴をあげる。
光線が漏れたが、雲の上で蒸発して消えた。

それでも、虚像獣は血を溢しながらも耐え切った。
私達が有利な状況は、変わらないが。

『よし。ネロ。そろそろ必殺技でもぶちかますか。』
ボーデンさんが言った。

呼ばれたネロは、よっしゃ!と声をあげて笑った。
『俺の《拳》でジ・エンドと行くぜ!』
『元気だねぇ。坊主は。』
ラウトさんが羨ましそうにネロに言ったが、反応はなかった。
多分、攻撃に集中していて、それどころじゃないのだろう。

《槍》は放り投げると、空の彼方に消えた。
【ペンタグラム】はボクサーの臨戦体勢を取った。
両手の《拳》を虚像獣に向ける。
虚像獣との距離は、《剣》の閃光を振るった時よりも縮まっていた。
今すぐ踏み込めば、虚像獣を一撃で仕留める事ができる。

【ペンタグラム】は飛んだ。
虚像獣に向かって、まっすぐに。
そのスピードは、野球の投手のストレート球みたいに剛速であった。
《槍》で刺した時に出来た穴が、《拳》で突き破ったおかげで半径が広がった。

ぽっかり胴体に穴の空いた虚像獣は、動きを停止した。
身体の輪郭にノイズをちらつかせると、多数のタイル張りの四角形が現れ始めた。
四角形が虚像獣の全てを覆うと、タイル張りの物体は風船のように割れた。

四角形の欠片は小さくなっていき、雲の上で消えていった。

♪♪♪

『…こちら【ペンタグラム】。虚像獣の消滅は確認できたか?』
ボーデンさんが[サウザンズ]司令室へ通信を繋げた。

司令室の対応は早かった。
『こちら司令室。データの消失を確認しました。』
『ありがとう。今すぐ帰還する。』

ボーデンさんは回線を切り、私達に指示を出した。
『回線を聞いたな。合体を解除して、基地へ戻るぞ。』
『よっしゃあ!ゲームできるぜ!』
最後に決めたネロが喜ぶ声を聞いた。

『ほどほどにしとけよー?目を悪くしたら戦えなくなるぞ?』
『ラウトも酒の飲み過ぎに気をつけろよー?飲酒運転は犯罪だぞー?』
『酒じゃねぇわ!ノンアルだ!』
ネロに揶揄われたラウトさんが年下に怒った。

『毎回、飽きないな。彼らは。』
「そうですね…。」
アージンさんが2人のやり取りを遠目で見ていたので、私も同じように見守っていた。

ボーデンさんが取り締まり、合体解除の時は真剣に手順を踏んだ。
解除後はジェット機の姿に変形し、[サウザンズ]の基地まで降下していった。

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