虚構のアイランド【まとめ】
本編9・ナインスシェアー(1)
2024/07/24 07:24アイランド本編
開かれた通気口をよじ登ると、そこは真っ暗で天井の低い通路になっていた。
通路、とは言い難いだろうけど。
真っ暗で前後ろも左右もわからないかと思われたが…通気口の類が他にも存在した。
格子模様の光が、通路の天面にやんわりと照らしている。
前後に1箇所ずつ、それを確認できた。
あとは自前の携帯用のライトと併用すれば、進行自体は可能である。
もちろん、ネロからの誘導も必須だが。
「誘導係が位置を把握してますんで、私達はそこを目指しましょう。
険しいですが…。」
「貴方の頼みを聞いた時点でわかりきった事ですから、あまり心配なさらずに。
こう見えても、基礎は鍛えてますので。」
輝は頼もしい事を言ってくれた。
よくよく考えてみれば、[ノータブル]も正規軍の基地の一部である。
鍛え上げた強靭な軍人となった者でしか、配属されない。
そういう意味では、彼の体力の心配はないだろう。
『燃華?もういいか?』
無線機から、ネロの声が聞こえてきた。
そろそろ、例の個室から移動しなければならないだろう。
私は通気口からの狭い通路を少し進んだ所で、ネロと話した。
「大丈夫。今個室を出たわ。」
『ふぇっ!?燃華達の表示が…変…!』
「バグが起きてるの?」
『そうなんだよ!俺1人だから、どう対処したらいいかわかんねぇよ!』
バグか…。
ネロは潜水艦で[ノータブル]の基地内部を見ているから…。
普通にフロア内の部屋や通路を歩いていたなら、彼も怯えなかったはず。
…通気口内までは、流石に網羅できなかったかな。
まあ、[ノータブル]の基地全体まで提供してくれた事には、喜ばないと。
「バグは無視して?私達が今いるフロアには必ず、行き止まりがあるわ。
それを教えてくれる?」
『わ、わ、わかった!まずは進んでくれよ!』
相当、慌てているな…。
一刻も早く動かないと、ネロが先に倒れかねない。
「どうしたんです?」
後ろから輝の声がした。
先導は私なのだから、輝が後方にいるのは当然なのだ。
輝にネロを明かすと約束したが、今はまだ早い。
私は適当に誤魔化した。
「きちんと誘導しますので、と連絡が入っただけですので…。」
「通気口自体、一般の隊員は侵入しませんから。」
「それもそうですね。」
輝本人も、今通っている通路が異質なのには自覚していた。
通路内は肘と脚でズルズルと進んでいく感じではあったが、動きにくいとは思わなかった。
『行き止まり』までは、今の体勢で問題なく進めた。
『燃華!《行き止まり》だ!』
「私もライトを点灯させているから、見えてるわ。」
ネロが慌てて叫んだけど、彼の見ているデータが一致しているのがわかっていたので、さほど驚かなかった。
『行き止まり』は完全な『行き止まり』ではなかった。
曲がり角さえあれば、道は残されている。
「曲がり角があるから曲がるわ。階段か非常口に近い場所はわかるかしら?」
『うーん。曲がって直進して突き当たりの所に、階段ならあるぜ?』
「わかったわ。…輝さん、いいですね?」
「通気口内では把握しずらいので、今は任せます。」
輝は素直に折れた。
左に曲がって、そのまま突き当たりまで直進した。
通気口の蓋に引っかからないか不安だったが、幸い通過したどの蓋もロックがかかっていた。
誤って落下しなくて済んだ。
通気口内の狭い通路には、私と輝の2人しかいない。
なので、突然のトラブルの類いは一切なかった。
突き当たりの所まで辿り着いた。
私と輝との間に、格子状の蓋があった。
格子状の隙間から下を覗く。
輝と『再会』した時と同じ個室の床が広がっていた。
ただし、色味は濃さを増していた。
濃さを増す程、黒っぽい色へと変わっていく。
つまり、暗い印象を受ける。
暗いと判断つくのならば、現在この部屋は…。
「輝さん、他の隊員達は…。」
「全員が業務に当たっています。個室で休んでいる人間はいないでしょう。」
誰もいない。
それを確信した瞬間だった。
「一度ここを降りましょう。監視カメラが気になりますが、素早く出られれば見過ごすはずです。」
「わかりました。階段があればそれを利用するのですね。」
「そうです。階段を降りて、B棟に向かいましょう。借用の手続きは済ませてありますから。」
借用の手続きとは、軍用車を乗りこなす事である。
最初の潜入時は手ぶらの状態であった為に、危ないけど車の下にへばり付いてから基地内に入った。
タイヤが大きく、下に隙間ができていたから。
これを輝にまで強要するのは厳しい。
一隊員なのだから、不可能ではないかもしれないが…。
危険を減らす努力はしなければ。
なので、B棟の格納庫にてジープを拾って走らせるしかない。
突き当たりの真下の部屋へ降りるのに、もう一度ピッキング作業で蓋の鍵を開けた。
蓋は下へぶら下がった。
キィ、と年季の入った音がした。
[ノータブル]の基地が設立されて、10年しか経っていないのに。
通気口なんて滅多に掃除しないからだろう。
私はそう捉える事にした。
捻挫を回避する為にクッション材が欲しいところだが、贅沢は言ってられない。
平らな床の上へ、着地した。
私が降りた後に、輝が降りる。
支えなど必要なかった。
輝もケガを防ぐ着地の仕方をしっているからだ。
そこに問題点はない。
予想通り、部屋には誰もいない。
これは好都合だ。
今着地した個室には、特殊なセキュリティは施されていない。
変わった操作をしなくても、自動ドアは開いた。
通路に出てすぐに、階段が目についた。
階段にはそのまま、素早く降りた。
私と輝の格好について疑問が残るだろうが、私は変装した[ノータブル]の隊員になっているし、輝も個室内にいたのにも関わらず、制服を着用していた。
何故着用していたのかは謎ではあったが、いざという時の対策でも考えていたのだろうと、私は勝手にそう思った。
他の隊員達は業務に当たっているのだし。
A棟の1階の通路は、閑散としていた。
あまりにも人気が少なすぎて、逆に不安になった。
これは好都合と決め込んで通過すると、罠に引っかかるかもしれない。
私はネロに1階のフロアを調べてもらうように頼んだ。
「1階まで降りたけど、B棟に向えそうなルートはないかしら。」
『うーん。俺の候補だと3つぐらいしかねぇよ。1つは燃華が通ってきたルートだし…。』
「…そうだ!」
後ろで輝が活きのいい声を出した。
何か閃いたに違いない。
「連絡通路の上にも、通気口はあったんだ。
息苦しくなるけど、これを活用しよう。」
「ですが個室内と違って、人気があります。閑散としているとはいっても…。」
「こちらに来てください。」
輝はそう言って、突然歩き出した。
彼は階段の方へ戻って行った。
ところが、段差を登り詰める行為はしなかった。
私達が降りてきた階段は、1階よりも下に道はなかった。
両開きの鉄製のドアがそびえ立つだけ。
硬そうなドアは利用しない。
利用するのは、もっぱら通気口のみ。
私は輝を連れ出そうとする『侵入者』であり、輝もまた、何かしらの縁であの個室にいた。
きっと、事情があって個室内で待機していたのだろう。
通気口内の通路を渡っていた最中、上から他の個室を覗いたりしたが、輝の個室以外は総じて暗かった。
ほとんどが業務で出払っている。
業務中に個室内で待機しているというには、おそらく軽い処分でも受けているはず。
私達はお互いに、『誰かに見つかると酷い処分を受けてしまいかねないコンビ』だった。
輝の個室では脚立があったが、今回は高さを満たしてくれる台がない。
通気口の蓋に、手が届かない。
「脚立を、運んでくるしかないのでしょうか?」
輝が困った顔をして言った。
しかし私は、首を横に振った。
「肩車でもするしかありません。私が支えますので、先にこじ開けて登ってください。」
「いいえ。その方法でしたら、自分が下になりますよ。
ピッキング技術ならば貴女の方が上です。
先に登ってください。」
輝が肩車の支えになると言い出した。
私は、両目を大きく開いた。
[ノータブル]の隊員として認められている彼だが、身体の線は他の男性隊員と比べて華奢に見える。
背丈も、私と同じ…いや、ほんの少し目線が低く感じるから小さいかもしれない。
ネロの身長と、変わらないんじゃないかと思うぐらいだ。
その体型で私を支えきれるのかどうか、不安だった。
だから私は、やんわりと否定した。
「無理はなさらずに…目的は貴方なんですから。」
「協力しあえる時は協力したいんです。数分程度なら自分でも耐えれますよ。」
輝は譲ろうとしなかった。
彼なりに申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
謝らなければいけないのは、こちらの方なのに。
引き下がりそうにないと悟った私は、輝の意思を汲む事にした。
輝の首周りに私の太ももを被せる。
輝は私の両脚をしっかりと持っていた。
「重くないですか?」
「これくらいでしたら、大丈夫です。」
彼はそう言ったが、どこか苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。
足を乗せるまでは簡単だ。
持ち上げる、となるとやはり厳しいのだろう。
気がかりではあるが、輝が折れない以上は黙って見守るしかない。
私は彼の頭を、軽く押さえた。
「いきますよ?」
「お願いします。」
輝は持ち上げる為の合図を私に出した。
一刻も早く行動に移りたいのもあってか、私は許可の応答をした。
これは感触でしかわからないが、輝は両脚をしっかり掴んでいる。
慎重にやろうとしている心構えが見受けられた。
あとは彼の踏ん張りを信じた。
フン!と野太い声を聞いた。
私を肩車で持ち上げようとしていた輝の声だ。
ヨロヨロしていたが、私をゆっくり持ち上げた。
輝は自分の脚を開いた。
肩幅よりもほんの少し広げただけ。
きっと、肩車のバランスを保つための苦肉の策であろう。
通気口の蓋に手が届いた。
縁周りの鍵穴に触れる。
右手の指を蓋に引っ掛けて、左手でピッキング作業を行う。
鍵の開く音を聞いた。
蓋がぶら下がるように開かれた。
あとは通気口内に侵入するだけ。
下で支える輝を解放してやらねば…。
蓋は個室の時と同じく、格子状の網仕様になっていた。
錨のついたロープを引っ掛ける事ができる。
ロープでよじ登って、中に入る。
私の後に輝が続く。
彼が登りきるまでは、ロープは下げたままにしておく。
輝の侵入後に、ロープで蓋を閉めて、何事もなかったようにする。
大したケガもなく、2人とも通気口内へ侵入できた。
ここから再び、狭い中の通路を進む。
ネロに連絡した。
「通気口を利用して出るわ。またズレていると思うけど。」
『う、うん。方角は合ってるから、そのまま進んでくれよ?』
「了解。」
私は内心、フフッと笑っていた。
ネロの慌てぶりは、変わっていない。
輝に見失わないように伝えてから、1階上の通気口内を渡り始めた。
通路、とは言い難いだろうけど。
真っ暗で前後ろも左右もわからないかと思われたが…通気口の類が他にも存在した。
格子模様の光が、通路の天面にやんわりと照らしている。
前後に1箇所ずつ、それを確認できた。
あとは自前の携帯用のライトと併用すれば、進行自体は可能である。
もちろん、ネロからの誘導も必須だが。
「誘導係が位置を把握してますんで、私達はそこを目指しましょう。
険しいですが…。」
「貴方の頼みを聞いた時点でわかりきった事ですから、あまり心配なさらずに。
こう見えても、基礎は鍛えてますので。」
輝は頼もしい事を言ってくれた。
よくよく考えてみれば、[ノータブル]も正規軍の基地の一部である。
鍛え上げた強靭な軍人となった者でしか、配属されない。
そういう意味では、彼の体力の心配はないだろう。
『燃華?もういいか?』
無線機から、ネロの声が聞こえてきた。
そろそろ、例の個室から移動しなければならないだろう。
私は通気口からの狭い通路を少し進んだ所で、ネロと話した。
「大丈夫。今個室を出たわ。」
『ふぇっ!?燃華達の表示が…変…!』
「バグが起きてるの?」
『そうなんだよ!俺1人だから、どう対処したらいいかわかんねぇよ!』
バグか…。
ネロは潜水艦で[ノータブル]の基地内部を見ているから…。
普通にフロア内の部屋や通路を歩いていたなら、彼も怯えなかったはず。
…通気口内までは、流石に網羅できなかったかな。
まあ、[ノータブル]の基地全体まで提供してくれた事には、喜ばないと。
「バグは無視して?私達が今いるフロアには必ず、行き止まりがあるわ。
それを教えてくれる?」
『わ、わ、わかった!まずは進んでくれよ!』
相当、慌てているな…。
一刻も早く動かないと、ネロが先に倒れかねない。
「どうしたんです?」
後ろから輝の声がした。
先導は私なのだから、輝が後方にいるのは当然なのだ。
輝にネロを明かすと約束したが、今はまだ早い。
私は適当に誤魔化した。
「きちんと誘導しますので、と連絡が入っただけですので…。」
「通気口自体、一般の隊員は侵入しませんから。」
「それもそうですね。」
輝本人も、今通っている通路が異質なのには自覚していた。
通路内は肘と脚でズルズルと進んでいく感じではあったが、動きにくいとは思わなかった。
『行き止まり』までは、今の体勢で問題なく進めた。
『燃華!《行き止まり》だ!』
「私もライトを点灯させているから、見えてるわ。」
ネロが慌てて叫んだけど、彼の見ているデータが一致しているのがわかっていたので、さほど驚かなかった。
『行き止まり』は完全な『行き止まり』ではなかった。
曲がり角さえあれば、道は残されている。
「曲がり角があるから曲がるわ。階段か非常口に近い場所はわかるかしら?」
『うーん。曲がって直進して突き当たりの所に、階段ならあるぜ?』
「わかったわ。…輝さん、いいですね?」
「通気口内では把握しずらいので、今は任せます。」
輝は素直に折れた。
左に曲がって、そのまま突き当たりまで直進した。
通気口の蓋に引っかからないか不安だったが、幸い通過したどの蓋もロックがかかっていた。
誤って落下しなくて済んだ。
通気口内の狭い通路には、私と輝の2人しかいない。
なので、突然のトラブルの類いは一切なかった。
突き当たりの所まで辿り着いた。
私と輝との間に、格子状の蓋があった。
格子状の隙間から下を覗く。
輝と『再会』した時と同じ個室の床が広がっていた。
ただし、色味は濃さを増していた。
濃さを増す程、黒っぽい色へと変わっていく。
つまり、暗い印象を受ける。
暗いと判断つくのならば、現在この部屋は…。
「輝さん、他の隊員達は…。」
「全員が業務に当たっています。個室で休んでいる人間はいないでしょう。」
誰もいない。
それを確信した瞬間だった。
「一度ここを降りましょう。監視カメラが気になりますが、素早く出られれば見過ごすはずです。」
「わかりました。階段があればそれを利用するのですね。」
「そうです。階段を降りて、B棟に向かいましょう。借用の手続きは済ませてありますから。」
借用の手続きとは、軍用車を乗りこなす事である。
最初の潜入時は手ぶらの状態であった為に、危ないけど車の下にへばり付いてから基地内に入った。
タイヤが大きく、下に隙間ができていたから。
これを輝にまで強要するのは厳しい。
一隊員なのだから、不可能ではないかもしれないが…。
危険を減らす努力はしなければ。
なので、B棟の格納庫にてジープを拾って走らせるしかない。
突き当たりの真下の部屋へ降りるのに、もう一度ピッキング作業で蓋の鍵を開けた。
蓋は下へぶら下がった。
キィ、と年季の入った音がした。
[ノータブル]の基地が設立されて、10年しか経っていないのに。
通気口なんて滅多に掃除しないからだろう。
私はそう捉える事にした。
捻挫を回避する為にクッション材が欲しいところだが、贅沢は言ってられない。
平らな床の上へ、着地した。
私が降りた後に、輝が降りる。
支えなど必要なかった。
輝もケガを防ぐ着地の仕方をしっているからだ。
そこに問題点はない。
予想通り、部屋には誰もいない。
これは好都合だ。
今着地した個室には、特殊なセキュリティは施されていない。
変わった操作をしなくても、自動ドアは開いた。
通路に出てすぐに、階段が目についた。
階段にはそのまま、素早く降りた。
私と輝の格好について疑問が残るだろうが、私は変装した[ノータブル]の隊員になっているし、輝も個室内にいたのにも関わらず、制服を着用していた。
何故着用していたのかは謎ではあったが、いざという時の対策でも考えていたのだろうと、私は勝手にそう思った。
他の隊員達は業務に当たっているのだし。
A棟の1階の通路は、閑散としていた。
あまりにも人気が少なすぎて、逆に不安になった。
これは好都合と決め込んで通過すると、罠に引っかかるかもしれない。
私はネロに1階のフロアを調べてもらうように頼んだ。
「1階まで降りたけど、B棟に向えそうなルートはないかしら。」
『うーん。俺の候補だと3つぐらいしかねぇよ。1つは燃華が通ってきたルートだし…。』
「…そうだ!」
後ろで輝が活きのいい声を出した。
何か閃いたに違いない。
「連絡通路の上にも、通気口はあったんだ。
息苦しくなるけど、これを活用しよう。」
「ですが個室内と違って、人気があります。閑散としているとはいっても…。」
「こちらに来てください。」
輝はそう言って、突然歩き出した。
彼は階段の方へ戻って行った。
ところが、段差を登り詰める行為はしなかった。
私達が降りてきた階段は、1階よりも下に道はなかった。
両開きの鉄製のドアがそびえ立つだけ。
硬そうなドアは利用しない。
利用するのは、もっぱら通気口のみ。
私は輝を連れ出そうとする『侵入者』であり、輝もまた、何かしらの縁であの個室にいた。
きっと、事情があって個室内で待機していたのだろう。
通気口内の通路を渡っていた最中、上から他の個室を覗いたりしたが、輝の個室以外は総じて暗かった。
ほとんどが業務で出払っている。
業務中に個室内で待機しているというには、おそらく軽い処分でも受けているはず。
私達はお互いに、『誰かに見つかると酷い処分を受けてしまいかねないコンビ』だった。
輝の個室では脚立があったが、今回は高さを満たしてくれる台がない。
通気口の蓋に、手が届かない。
「脚立を、運んでくるしかないのでしょうか?」
輝が困った顔をして言った。
しかし私は、首を横に振った。
「肩車でもするしかありません。私が支えますので、先にこじ開けて登ってください。」
「いいえ。その方法でしたら、自分が下になりますよ。
ピッキング技術ならば貴女の方が上です。
先に登ってください。」
輝が肩車の支えになると言い出した。
私は、両目を大きく開いた。
[ノータブル]の隊員として認められている彼だが、身体の線は他の男性隊員と比べて華奢に見える。
背丈も、私と同じ…いや、ほんの少し目線が低く感じるから小さいかもしれない。
ネロの身長と、変わらないんじゃないかと思うぐらいだ。
その体型で私を支えきれるのかどうか、不安だった。
だから私は、やんわりと否定した。
「無理はなさらずに…目的は貴方なんですから。」
「協力しあえる時は協力したいんです。数分程度なら自分でも耐えれますよ。」
輝は譲ろうとしなかった。
彼なりに申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
謝らなければいけないのは、こちらの方なのに。
引き下がりそうにないと悟った私は、輝の意思を汲む事にした。
輝の首周りに私の太ももを被せる。
輝は私の両脚をしっかりと持っていた。
「重くないですか?」
「これくらいでしたら、大丈夫です。」
彼はそう言ったが、どこか苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。
足を乗せるまでは簡単だ。
持ち上げる、となるとやはり厳しいのだろう。
気がかりではあるが、輝が折れない以上は黙って見守るしかない。
私は彼の頭を、軽く押さえた。
「いきますよ?」
「お願いします。」
輝は持ち上げる為の合図を私に出した。
一刻も早く行動に移りたいのもあってか、私は許可の応答をした。
これは感触でしかわからないが、輝は両脚をしっかり掴んでいる。
慎重にやろうとしている心構えが見受けられた。
あとは彼の踏ん張りを信じた。
フン!と野太い声を聞いた。
私を肩車で持ち上げようとしていた輝の声だ。
ヨロヨロしていたが、私をゆっくり持ち上げた。
輝は自分の脚を開いた。
肩幅よりもほんの少し広げただけ。
きっと、肩車のバランスを保つための苦肉の策であろう。
通気口の蓋に手が届いた。
縁周りの鍵穴に触れる。
右手の指を蓋に引っ掛けて、左手でピッキング作業を行う。
鍵の開く音を聞いた。
蓋がぶら下がるように開かれた。
あとは通気口内に侵入するだけ。
下で支える輝を解放してやらねば…。
蓋は個室の時と同じく、格子状の網仕様になっていた。
錨のついたロープを引っ掛ける事ができる。
ロープでよじ登って、中に入る。
私の後に輝が続く。
彼が登りきるまでは、ロープは下げたままにしておく。
輝の侵入後に、ロープで蓋を閉めて、何事もなかったようにする。
大したケガもなく、2人とも通気口内へ侵入できた。
ここから再び、狭い中の通路を進む。
ネロに連絡した。
「通気口を利用して出るわ。またズレていると思うけど。」
『う、うん。方角は合ってるから、そのまま進んでくれよ?』
「了解。」
私は内心、フフッと笑っていた。
ネロの慌てぶりは、変わっていない。
輝に見失わないように伝えてから、1階上の通気口内を渡り始めた。