虚構のアイランド【まとめ】
本編7・セブンスデシション(2)
2024/07/23 08:15アイランド本編
♪♪♪
先述した通り、[スロープ・アイランド]は昔、日本の大阪が存在していた場所である。
『大阪』と名乗っていた時から、西側は水面が広がっていた。
陸地といえば、淡路島と奥の四国の島が、大橋で繋がれていた。
豪雨の大災害をきっかけに、世界各地の小島は沈んでしまい、多数の犠牲者を出した。
多くの人命が失われた件について、私は非常に心が痛む。
しかし、今は海が広がった件に関しては、有り難かった。
小型の潜水艦を忍ばせるには、最適だった。
陸地で[ノース・エリア]を訪れるには、裏道ルートは存在しなかった。
境界線ギリギリのところでコンクリートの塀が設けられおり、よじ登るのは困難を極めた。
塀には窪みがなく、ツルツルである。
綺麗な壁をよじ登ろうとするには、ロープでもあれば可能ではあるが…。
境界線付近は警備が固い。
ロープを引っ掛けただけでも、見張りの隊員に発見されるおそれがある。
陸からの侵入では、成功率はかなり低い。
空からの侵入ならば…。
それも不可能に近い。
【ペンタグラム】用のジェット機は一定の許可を得ないと飛ばせない。
他の空用の機体は、この作戦で有効なものはなかった。
空もまた、レーダー等で感知される。
万が一撃ち落とされると、作戦が失敗どころでは済まされない。
『虚像獣を倒す目的』があるから、地上の住人達は被害が及ぶと理解していても耐えてくれる。
別の目的で無関係の人間に迷惑をかけてしまうのは、彼らの信頼を失う事になる。
そうなれば、私とネロは[サウザンズ]どころか、正規軍からも追放されるだろう。
残された選択肢は、海しかない。
海洋も海洋で、デメリットはある。
潜水艦で向かうので、這い上がるのが困難だ。
潜水艦内は私とネロの2人しか乗っていない。
陸へ登っていく為の酸素ボンベは、何本か用意はしたが…。
潜水艦へ流れてくる地図のデータでは、[ノータブル]に1番近い海底の地点まで行き着いた。
ここから潜水艦に備え付けの超小型の艦に乗って陸地に上がる。
陸地に触れるギリギリのところまで近づいて、[ノータブル]に侵入する。
潜入は、私1人で行う。
今回のネロは潜水艦で待機し、基地内の誘導をしてもらう。
追跡機能の機器も、私の耳に装着している。
「いい?ネロ。ここからは私が陸に出て侵入するわ。
ネロは私のサポートを頼むね。
ただ、危険を察した時は、すぐに逃げるのよ?」
「燃華。大丈夫なのか?」
ネロが様子を伺うように言った。
今から実行に移る作戦は、ネロのひと言から始まった。
潜入行動をさせるなら、言い出しっぺのネロがやるべきだろう。
しかし、年齢の割に子供っぽいネロに、隠密な仕事は厳しい。
幼稚さが態度に出やすいネロは、感情表現が豊かである。
隠密な行動では、敵の陣営に見抜かれて失敗に終わる可能性が高くなる。
逆に彼より2歳年上の私は、感情表現を抑制できるタイプだ。
幼い頃から正規軍で訓練を受けた(ネロもそうかもしれないが…)影響で、顔に出さないよう教わってきた。
こっそり潜入して、予定のルートを辿る場合でも、予想外の事態は発生する。
その時に驚愕の反応をせず、別の手段に切り替える機敏さが必要だ。
潜入には私が、後方のサポートにはネロが役割を担う事に決まった。
この決定に、ネロも了承した。
やはり、まだ彼には不穏な思いを募らせている。
気持ちはわかるが、このままではいつまで経っても前進しない。
私が、彼に元気を取り戻すように説得しなくては。
「大丈夫。輝を発見すれば脱出するから。必ず、うまくいくよう頑張るから。
ネロは安心して、ここで待ってて。」
ネロと向き合って、彼の両肩に手を置いた。
「うん、わかったよ。」
まだネロの表情は晴れない。
承諾の意思も、渋々やっているのはわかる。
言葉だけでも返してくれただけで十分だと、私は思った。
パイロット部隊の年少者を納得させた後、私は急いで超小型の艦に移動した。
潜水艦の真下に備え付けられたそれは、丸い穴に飛び込む事で操縦席に着地する。
私の頭上には、3重の扉が閉じられた。
これで、超小型の艦は潜水艦と切り離せる。
操縦席のボタン1つで、超小型の艦の接続が解除される。
ボタンの上には透明のカバーがかけられており、不慮の操作ができない仕組みになっている。
私はカバーを上にあげて、指で強く押した。
海底にある潜水艦。
岩礁までは降りなかった。
超小型の艦は、切り離しの時は数十センチ程下げた後に前進していくからだ。
近づけすぎると、海底の生物達を傷つけてしまうおそれがある。
前進の際は、始めから飛ばさない。
救出作戦ではあるが時間制限はあってないようなものなので、変にスピードを上げる必要はない。
この作戦は、結果が大事だ。
必ず成功に導かなくてはならない。
陸地に浮かび上がる時も、あまり波を作らないように工夫しないと、バレてしまう危険性がある。
一定のスピードを保たせた。
海面より1メートル下付近にて、スピードを落とした。
波が打ち立てられないように、駆動音も抑える。
背部の噴射器も、気泡を少なくした。
ゆっくりと、操縦席真上の扉を海面上に出した。
扉の前に設置されているカメラで、艦外の様子を把握できる。
海上に浮かび上がらせた時、操縦席のモニターの景色が変わった。
【ペンタグラム】専用のジェット機とは違って、モニターの規模は小さい。
[ノータブル]侵入の出入り口確保の為の準備しか使わないし、規模の大小は気にしなかった。
海水が入らないとわかってから、私はボタンの操作で扉を開いた。
ずらすようにスライドして開く、二重の扉。
最も頭上に近い扉だけ、直径から外側に向けて開く仕組みになっていた。
私はこの艦の乗り口の縁まで登った。
[ノース・エリア]の埠頭のセメントまで、軽く飛んで着地した。
超小型の艦へ振り向き、手のひらサイズのリモコンのボタンを押す。
私が乗ったそれは、静かに水中へと沈んだ。
沈む前に扉はしっかり閉めたので、水は中に入らない。
超小型の艦が完全に見えなくなってから、私は埠頭のセメントを走った。
陸地の中心に向かって。
目指すは[ノース・エリア]の、虚像獣対策の管轄を行う基地[ノータブル]。
侵入の為に、私は裏口を探す。
埠頭から[ノータブル]の基地までの距離は短い。
走りすぎて息切れする事はない。
パイロット部隊の一員として鍛えられているので、体力には自信があるが。
裏口にはゲートがあった。
裏口ゲートは基本的に、正規軍の所属じゃない一般人は入場も退場もできない。
一般人は反対側に位置する正門ゲートから受付を通じてでないと入れない。
その為、裏口ゲートを利用する者は全員が正規軍に関わる人間達であった。
裏口ゲートを通過する彼らの身なりは、デフォルトな軍人の象徴でもある迷彩色の帽子と服装を着用していた。
彼らは軍用のジープに乗って、ゲートを入ったり出たりを繰り返している。
ジープの下には上手い事、細身の人間が身を隠せるスペースがある。
私はたまたま待機していたジープの真下に、サッと張り付いた。
近くにある排気口や密着しやすいバッテリー関係のおかげで、汚染と感電の被害に遭いやすくはなっている。
突如決まった作戦だ。
多少の危険には、目を瞑るしかない。
私が張り付いたジープの方向は、右を向いていた。
車両専用の道路は、逆走できない。
このジープが停車していた道路は片道でしか進めない。
すなわち、ジープは間近の角を左折して30メートル程走らせて、その角をまた左折すればゲートに辿り着く。
私が張り付いたジープは予想通り、[ノータブル]の裏口ゲートを通過した。
動いている最中は、呼吸も抑える。
排気ガスを吸い込まないようにするのと、物音を立てないようにする為だ。
ジープが停車する場所は、決まっている。
専用の駐車場がある。
ジープはそこに停めるであろう。
停車後に運転手達はゾロゾロ降りる。
人員の輸送メインであるジープは、定期的な点検作業以外はあまりチェックが入らない。
降りたらしばらくは放置だろう。
人の気配が消えたと判明した時に、私はジープの真下から離れた。
兵士達から見えないジープの側面に片足を引っ掛けて、まとわりつくようにして降りた。
ジープは窓がなく、運転席に座っていつでも運転できそうだった。
今は使わない。
[ノータブル]の基地内にいる輝を見つけ出すまでは、ジープどころか車両は使わない。
これはあくまでも、基地外へ脱出する為の道具として利用する。
私が今、必要なのは…。
「ネロ?フロアの図とリンクできてる?」
現場の状況確認だった。
小型の紙の案内図も、入手している。
しかし、これだけでは輝を探し出すのは、到底難しい。
紙では示せない情報が必要なんだ。
ネロには潜水艦内の、コンピュータが内蔵された操縦室にて、[ノータブル]の基地のフロアを案内してもらう。
ハッキングの技術も駆使して、私の位置情報や地図では把握できない秘密のデータまでもが、操縦室の防水モニターで確認できるようにした。
一応、これを専門とする人間に協力してもらったが。(朋美ではない)
『うん。今燃華はジープの格納庫に入ってるよ。基地内のB棟の出入り口付近に、ロッカールームがあるぜ?』
ネロからの情報だ。
彼が言った通り、停めたジープから4、5台の停車できるスペースと道路を挟んだ向かいに、施設の出入り口があった。
白いテープでデカデカと『B-18』と出入り口の真上に貼られていた。
黒くて厚みのあるプラスチックを使用して。
白いテープは暗闇でうっすらと光る性質を持つ、特殊なテープだ。
「出入り口は『B-18』という表記になっている?」
『なってるよ?ただ、この施設に輝はいないぜ?』
もうB棟の内部全てを調べたのか…と思うだろう。
これも専門家に頼んで調整してもらったのだ。
ネロがモニターから拾い上げた情報によると、B棟は主に一般隊員が利用する施設である。
隊員の数は全体の4分の3である為、施設の規模は大きかった。
地上5階建、地下も同様に5階まで及んでいる。
「まずはロッカールームで服に着替えるわ。通行証は…借りるか誘導するか決めるわ。」
『借りる方がいいんじゃねぇの?』
「返却を要するし…今のロッカールームの人員は?」
『2人入ってきたぜ?』
隊員の探知まで可能とは、依頼した専門家には感謝しかない。
2人相手は、ちょっと大変だろう。
これは誘導策を取って、別の棟に侵入しよう。
私は顔を目元以外をマスクで隠して、『B-18』の出入り口を潜った。
先述した通り、[スロープ・アイランド]は昔、日本の大阪が存在していた場所である。
『大阪』と名乗っていた時から、西側は水面が広がっていた。
陸地といえば、淡路島と奥の四国の島が、大橋で繋がれていた。
豪雨の大災害をきっかけに、世界各地の小島は沈んでしまい、多数の犠牲者を出した。
多くの人命が失われた件について、私は非常に心が痛む。
しかし、今は海が広がった件に関しては、有り難かった。
小型の潜水艦を忍ばせるには、最適だった。
陸地で[ノース・エリア]を訪れるには、裏道ルートは存在しなかった。
境界線ギリギリのところでコンクリートの塀が設けられおり、よじ登るのは困難を極めた。
塀には窪みがなく、ツルツルである。
綺麗な壁をよじ登ろうとするには、ロープでもあれば可能ではあるが…。
境界線付近は警備が固い。
ロープを引っ掛けただけでも、見張りの隊員に発見されるおそれがある。
陸からの侵入では、成功率はかなり低い。
空からの侵入ならば…。
それも不可能に近い。
【ペンタグラム】用のジェット機は一定の許可を得ないと飛ばせない。
他の空用の機体は、この作戦で有効なものはなかった。
空もまた、レーダー等で感知される。
万が一撃ち落とされると、作戦が失敗どころでは済まされない。
『虚像獣を倒す目的』があるから、地上の住人達は被害が及ぶと理解していても耐えてくれる。
別の目的で無関係の人間に迷惑をかけてしまうのは、彼らの信頼を失う事になる。
そうなれば、私とネロは[サウザンズ]どころか、正規軍からも追放されるだろう。
残された選択肢は、海しかない。
海洋も海洋で、デメリットはある。
潜水艦で向かうので、這い上がるのが困難だ。
潜水艦内は私とネロの2人しか乗っていない。
陸へ登っていく為の酸素ボンベは、何本か用意はしたが…。
潜水艦へ流れてくる地図のデータでは、[ノータブル]に1番近い海底の地点まで行き着いた。
ここから潜水艦に備え付けの超小型の艦に乗って陸地に上がる。
陸地に触れるギリギリのところまで近づいて、[ノータブル]に侵入する。
潜入は、私1人で行う。
今回のネロは潜水艦で待機し、基地内の誘導をしてもらう。
追跡機能の機器も、私の耳に装着している。
「いい?ネロ。ここからは私が陸に出て侵入するわ。
ネロは私のサポートを頼むね。
ただ、危険を察した時は、すぐに逃げるのよ?」
「燃華。大丈夫なのか?」
ネロが様子を伺うように言った。
今から実行に移る作戦は、ネロのひと言から始まった。
潜入行動をさせるなら、言い出しっぺのネロがやるべきだろう。
しかし、年齢の割に子供っぽいネロに、隠密な仕事は厳しい。
幼稚さが態度に出やすいネロは、感情表現が豊かである。
隠密な行動では、敵の陣営に見抜かれて失敗に終わる可能性が高くなる。
逆に彼より2歳年上の私は、感情表現を抑制できるタイプだ。
幼い頃から正規軍で訓練を受けた(ネロもそうかもしれないが…)影響で、顔に出さないよう教わってきた。
こっそり潜入して、予定のルートを辿る場合でも、予想外の事態は発生する。
その時に驚愕の反応をせず、別の手段に切り替える機敏さが必要だ。
潜入には私が、後方のサポートにはネロが役割を担う事に決まった。
この決定に、ネロも了承した。
やはり、まだ彼には不穏な思いを募らせている。
気持ちはわかるが、このままではいつまで経っても前進しない。
私が、彼に元気を取り戻すように説得しなくては。
「大丈夫。輝を発見すれば脱出するから。必ず、うまくいくよう頑張るから。
ネロは安心して、ここで待ってて。」
ネロと向き合って、彼の両肩に手を置いた。
「うん、わかったよ。」
まだネロの表情は晴れない。
承諾の意思も、渋々やっているのはわかる。
言葉だけでも返してくれただけで十分だと、私は思った。
パイロット部隊の年少者を納得させた後、私は急いで超小型の艦に移動した。
潜水艦の真下に備え付けられたそれは、丸い穴に飛び込む事で操縦席に着地する。
私の頭上には、3重の扉が閉じられた。
これで、超小型の艦は潜水艦と切り離せる。
操縦席のボタン1つで、超小型の艦の接続が解除される。
ボタンの上には透明のカバーがかけられており、不慮の操作ができない仕組みになっている。
私はカバーを上にあげて、指で強く押した。
海底にある潜水艦。
岩礁までは降りなかった。
超小型の艦は、切り離しの時は数十センチ程下げた後に前進していくからだ。
近づけすぎると、海底の生物達を傷つけてしまうおそれがある。
前進の際は、始めから飛ばさない。
救出作戦ではあるが時間制限はあってないようなものなので、変にスピードを上げる必要はない。
この作戦は、結果が大事だ。
必ず成功に導かなくてはならない。
陸地に浮かび上がる時も、あまり波を作らないように工夫しないと、バレてしまう危険性がある。
一定のスピードを保たせた。
海面より1メートル下付近にて、スピードを落とした。
波が打ち立てられないように、駆動音も抑える。
背部の噴射器も、気泡を少なくした。
ゆっくりと、操縦席真上の扉を海面上に出した。
扉の前に設置されているカメラで、艦外の様子を把握できる。
海上に浮かび上がらせた時、操縦席のモニターの景色が変わった。
【ペンタグラム】専用のジェット機とは違って、モニターの規模は小さい。
[ノータブル]侵入の出入り口確保の為の準備しか使わないし、規模の大小は気にしなかった。
海水が入らないとわかってから、私はボタンの操作で扉を開いた。
ずらすようにスライドして開く、二重の扉。
最も頭上に近い扉だけ、直径から外側に向けて開く仕組みになっていた。
私はこの艦の乗り口の縁まで登った。
[ノース・エリア]の埠頭のセメントまで、軽く飛んで着地した。
超小型の艦へ振り向き、手のひらサイズのリモコンのボタンを押す。
私が乗ったそれは、静かに水中へと沈んだ。
沈む前に扉はしっかり閉めたので、水は中に入らない。
超小型の艦が完全に見えなくなってから、私は埠頭のセメントを走った。
陸地の中心に向かって。
目指すは[ノース・エリア]の、虚像獣対策の管轄を行う基地[ノータブル]。
侵入の為に、私は裏口を探す。
埠頭から[ノータブル]の基地までの距離は短い。
走りすぎて息切れする事はない。
パイロット部隊の一員として鍛えられているので、体力には自信があるが。
裏口にはゲートがあった。
裏口ゲートは基本的に、正規軍の所属じゃない一般人は入場も退場もできない。
一般人は反対側に位置する正門ゲートから受付を通じてでないと入れない。
その為、裏口ゲートを利用する者は全員が正規軍に関わる人間達であった。
裏口ゲートを通過する彼らの身なりは、デフォルトな軍人の象徴でもある迷彩色の帽子と服装を着用していた。
彼らは軍用のジープに乗って、ゲートを入ったり出たりを繰り返している。
ジープの下には上手い事、細身の人間が身を隠せるスペースがある。
私はたまたま待機していたジープの真下に、サッと張り付いた。
近くにある排気口や密着しやすいバッテリー関係のおかげで、汚染と感電の被害に遭いやすくはなっている。
突如決まった作戦だ。
多少の危険には、目を瞑るしかない。
私が張り付いたジープの方向は、右を向いていた。
車両専用の道路は、逆走できない。
このジープが停車していた道路は片道でしか進めない。
すなわち、ジープは間近の角を左折して30メートル程走らせて、その角をまた左折すればゲートに辿り着く。
私が張り付いたジープは予想通り、[ノータブル]の裏口ゲートを通過した。
動いている最中は、呼吸も抑える。
排気ガスを吸い込まないようにするのと、物音を立てないようにする為だ。
ジープが停車する場所は、決まっている。
専用の駐車場がある。
ジープはそこに停めるであろう。
停車後に運転手達はゾロゾロ降りる。
人員の輸送メインであるジープは、定期的な点検作業以外はあまりチェックが入らない。
降りたらしばらくは放置だろう。
人の気配が消えたと判明した時に、私はジープの真下から離れた。
兵士達から見えないジープの側面に片足を引っ掛けて、まとわりつくようにして降りた。
ジープは窓がなく、運転席に座っていつでも運転できそうだった。
今は使わない。
[ノータブル]の基地内にいる輝を見つけ出すまでは、ジープどころか車両は使わない。
これはあくまでも、基地外へ脱出する為の道具として利用する。
私が今、必要なのは…。
「ネロ?フロアの図とリンクできてる?」
現場の状況確認だった。
小型の紙の案内図も、入手している。
しかし、これだけでは輝を探し出すのは、到底難しい。
紙では示せない情報が必要なんだ。
ネロには潜水艦内の、コンピュータが内蔵された操縦室にて、[ノータブル]の基地のフロアを案内してもらう。
ハッキングの技術も駆使して、私の位置情報や地図では把握できない秘密のデータまでもが、操縦室の防水モニターで確認できるようにした。
一応、これを専門とする人間に協力してもらったが。(朋美ではない)
『うん。今燃華はジープの格納庫に入ってるよ。基地内のB棟の出入り口付近に、ロッカールームがあるぜ?』
ネロからの情報だ。
彼が言った通り、停めたジープから4、5台の停車できるスペースと道路を挟んだ向かいに、施設の出入り口があった。
白いテープでデカデカと『B-18』と出入り口の真上に貼られていた。
黒くて厚みのあるプラスチックを使用して。
白いテープは暗闇でうっすらと光る性質を持つ、特殊なテープだ。
「出入り口は『B-18』という表記になっている?」
『なってるよ?ただ、この施設に輝はいないぜ?』
もうB棟の内部全てを調べたのか…と思うだろう。
これも専門家に頼んで調整してもらったのだ。
ネロがモニターから拾い上げた情報によると、B棟は主に一般隊員が利用する施設である。
隊員の数は全体の4分の3である為、施設の規模は大きかった。
地上5階建、地下も同様に5階まで及んでいる。
「まずはロッカールームで服に着替えるわ。通行証は…借りるか誘導するか決めるわ。」
『借りる方がいいんじゃねぇの?』
「返却を要するし…今のロッカールームの人員は?」
『2人入ってきたぜ?』
隊員の探知まで可能とは、依頼した専門家には感謝しかない。
2人相手は、ちょっと大変だろう。
これは誘導策を取って、別の棟に侵入しよう。
私は顔を目元以外をマスクで隠して、『B-18』の出入り口を潜った。