虚構のアイランド【まとめ】

本編4・フォースサドンリィ(2)

2024/07/21 08:16
アイランド本編
♪♪♪
輝が抜けた[5秒前]のコンサート。
それは勿論、[サウスエリア]内の展示場で開催された。

[サウスエリア]の人間のみが許されたコンサートではなく、一定の許可を得られれば、[ノースエリア]の人間も入場可能であった。
[サウスエリア]側の一部から反感を買われた[ノースエリア]の人達。
[5秒前]のメンバー達が最初に忠告したおかげで、矛は収められた。

ステージに立つのは4人だけ。
相当ファンがついているのか、盛り上がりは凄まじかった。
中でも今回のコンサートで、私が1番楽しかったのが。

『俺達が養成所時代から親しかったメンバー、一ノ宮輝のフィナーレイベントを始めるぞ!』
メンバーの1人である、二島樹君が叫んだ。
瞬間、展示場内のファン達の声援がドッと盛り上がった。
私も同調して喜んでいた。

だって私は、輝目的で今のコンサートにやってきたのだから。
このサプライズイベントが発表されたのは、嬉しかった。

盛り上がりが絶頂してきた所で、[5秒前]のメンバー達が最後に2曲歌って…コンサートは終了した。

度重なる問題が発生したのも受けてか、交流会のプログラムはなかった。
それは仕方がない。
『3』の人だった三田翔君が被害を受けたし、私も輝に迷惑をかけてしまったのだから。
コンサートの運営側も、対応を検討していたのだ。

私達は特別に落ち込まなかった。
こんな事情もある程度は知っていたから。
展示場を出ると電車に乗って、各々の部屋に戻ろうとした。

携帯が鳴った。
私と朋美の両方に着信が入った。

ポケットやカバンから携帯を取り出して、発信者を確認した。
表示された名前は、『ボーデン・ブラン』。
私が所属する【ペンタグラム】のパイロット部隊のリーダー格である。

ボーデンさんが電話をかけてくる時は、[サウザンズ]内で重要な召集がある時だ。

私は通話ボタンをタップした。

「はい、創竜です。」
『もうコンサートは終わったんだな。燃華。』
「ええ。今から帰宅するところですよ。」
『それはよかった。今から[サウザンズ]に来てほしい。重大発表があるんだ。』
ボーデンさんがそう言ってきた。
私は近くで電話している朋美をチラッと見た。
はい、わかりました、と相槌を打っているようだった。

「朋美にも確認してみます。」
『彼女は彼女で、司令室の管理職から連絡を受けている。早急に飛んでほしいんだ。』
ボーデンさんがかなり頼み込んでいる。
これは急がなくては。

「わかりました。今すぐ飛びますので、まずは朋美と話してみます。」
『彼女も了承すると思うが…。いいだろう、早く来るんだぞ?』
はい!と私ははっきりと返事をした。
電話の回線を切って、朋美に相談した。

「あのさ、朋美。」
「わかってるわ。丁度私の携帯にもかかってきたから。行きましょ。」

ボーデンさんの言う通りで、朋美も司令室から連絡を受けていた。
息の合った私達は、鞄にしまっていた端末機を取り出した。

《Teleport》のパネルを、軽くタッチした。


♪♪♪
転送先は格納庫だった。
[サウザンズ]では端末機の転送機能を使うと、基地内の自分の持ち場へと転送される。

私はパイロット部隊だから、もちろん格納庫に飛ばされた。
格納庫には、同チームのパイロット部隊の人達や、整備士達が揃って1台の巨大モニターに集結していた。
私は同じ位置に固まるパイロット部隊の人達の元へ近寄った。
アージンさん以外が後ろを振り向いた。

「すまんな。休暇中の発散時期に。」
「いいえ。急用では致し方ありません。」
「お前、またその格好(白いワンピース姿)で行ったのかよ…。」
「えっと…。」
「ラウト!燃華似合ってるからいいじゃんか!」

コンサートで着て行った服装について、ラウトさんにつっ込まれた。
最年少のネロがある意味フォローじみた反論を言った。
ラウトさんはスマンスマン、と軽く謝っていた。

ラウトさんに悪気はないし、朋美にも「また動きにくい服装なんか着て!」と指摘されていたので、私は深く落ち込まなかった。

それよりも、まずは緊急で召集された理由を知りたかった。
巨大モニターの映像で、答えはわかるのだが。
映るのは、テレビのニュースの速報でもよく流れる、緊急会見の場面だった。
画面下に、デカデカとタイトルが表示されていた。

『[ノータブル]総指揮官が緊急会見』と、そのまんまで。
[ノータブル]。
[ノースエリア]側に存在する軍の基地である。
やってる事は、こちら[サウザンズ]と変わらない、虚像獣の始末を引き受ける基地だ。

事件が起きるたびにこちら側がイライラしてしまう元凶でもある。
タイトル通り、[ノータブル]の総指揮官様直々登場していた。

名前は扇浜筋道。
こちら[サウザンズ]の総指揮官、田辺堂山と比べて、だらしない男だった。

田辺総指揮官が生真面目すぎるという意見も双方から出てはいるけど。

私は[サウスエリア]、もっと言うと[スロープ・アイランド]全域の秩序を守る為に戦っている。
田辺さんのキリッとした姿は、私は大好きだ。
その逆は、苦手としていた。

扇浜、[ノータブル]自体について、私は軍内における一般的な知識しか持ち合わせていない。
これに付け加えるとしたら、『虚像獣の始末の対応が悪すぎる』事だろうか。
パイロット部隊の一員として身を置く者からすれば、これだけでも[ノータブル]に対する悪い印象がついていた。

虚像獣は、人々の精神を蝕む脅威なる敵である。
その始末を疎かにするとは、なんて酷い組織なんだろう?
[サウザンズ]内の誰もがそう感じていた。
ヘラヘラとした態度を見せつけてくるだけでも苛立ちを覚えるのに、これに発言を加えると余計に不満を募らせてくる。

扇浜筋道はそういう男。
相手の不快感なんてどうでもいいのか、って位に話をしにやって来るのだ。田辺総指揮官に。

打ち合わせだけじゃない。
扇浜は総指揮官の立場を利用して、何度も会見を開いた男である。

過去の内容も、不愉快なものばかりだった。
個人的には…『虚像獣には人間のストレスに何の影響もない』と言い出したのに腹を立てた事がある。
口には出さず、睨みつけただけで終わったが。

そもそも、私達[サウザンズ]の面々と扇浜との接点と言えば、こういった会見の緊急放送の時しかない。
ありったけの不満を、言葉で表す機会がない。
ネロやラウトさんは性格上、ブーブー文句を垂れる事があるが、それは奴の耳には届かない。
画面越しで、会見の場と通信が繋がってないのだから仕方がない。

今回も、不愉快な会見の内容を黙って聞くしかなかった。
会見の内容は、以前のものと似たような感じだった。
違うと言えば…今後の方針を提示したぐらいだろうか。

簡単に纏めると…『虚像獣は出現したエリア内の基地の人間のみ始末の権限を与える』との事。

格納庫のモニター前には、パイロット部隊の他、整備士さん等裏方の人達も集まっていた。

皆の反応は様々である。
扇浜の会見がすぐに理解できなくて混乱する者もいれば、把握できた後で嘆いたりする者もいた。
「出現したエリア内の基地の者しか対処できないって事は、越境しても…。」
「迎撃ができない、という事か。」
「指を咥えて黙って見てろ、って話かよ!」
ラウトさんとアージンさんのセリフだ。
ラウトさんは最後、怒りの口調になっていた。

彼の怒りはごもっともで。
詳しく伝えると、[ノースエリア]で出現した虚像獣はもう、[サウスエリア]の人間は手を出せない。
つまり、[サウザンズ]は[サウスエリア]内の基地だから、[ノースエリア]出現の虚像獣は倒せない、との事。
[ノースエリア]の基地の者が虚像獣を倒さない限り、[スロープ・アイランド]全域の心の平和は訪れないと同等である。

それでは、地上で暴動が起きてしまったら…武力以外では止められないではないか。

このまま闘争を加速させる気か。
格納庫内のモニター前にはパイロット部隊と整備士等の裏方の2、30名程しかいない。
誰かが声を上げると、同調して他者も声を上げる。
そうやって、格納庫内が騒がしくなる。
荒れ狂ってしまうのを防ぐために、ボーデンさんが、
「静かにしろ!」
と注意した。

[サウザンズ]の面々でも年齢が高めのボーデンさんに、みんな頭が上がらない。
騒ぎは沈静化していった。
扇浜に反発する人達が増えていく最中で、意外な光景を発見した。

パイロット部隊の最年少で、子供らしくキャンキャン吠えるネロだったが、今回は違った。
黙って、会見を視聴していたのだ。
今集まっている面々の中でも最年少の彼の表情は、狼狽えているように見えた。
目も口も、開きっぱなしなのだから。

不満を訴えている人達と一緒になって声を上げずに、私はネロの元へ寄った。

緊迫した戦闘でも常に自信満々の彼の戸惑う姿が気掛かりで。

「どうしたの、ネロ。」
私の手は自然とネロの肩に置いていた。
驚きで固まる彼の神経を解す目的である。

ネロはびっくりしたのか、すぐに後ろを向いた。
「な、なんだ…。燃華かよ…。」
「ここには私達パイロット部隊と整備士さん達しかいないよ。」
「そりゃあ…。そうだよなぁ…。」
ハハ、と軽く笑ったネロ。
気持ちは解れたみたいだが、まだちょっと元気はなさそうだ。

「どうしたの?ずっと固まっていたけども。」
私は彼が硬直する原因を聞いた。
ネロは巨大モニターに、視点を戻した。
「…なあ燃華、扇浜のおっさんの会見で、お前は気づいたか?」
「何を?」
どうやらネロは、会見の映像に奇妙なものを発見したようだ。

そのポイントは既に、彼によって見破られていて。
スッと腕を上げて、人差し指で示してくれた。

指がさす方角へ、私は向きを変えた。
もちろん、扇浜の会見は終わっていない。
ネロが指をさしたのは、嬉々と話す扇浜の右側であった。
扇浜は会見の際、左右に彼の部下らしき人が立っている。
それ自体に疑問は持っていないが…。

ネロのおかげで、私はようやく異変に気づいた。
右側の人物に、見覚えがあった。
表に立つ用にきっちり整えていて、髪型は変えていたのだけど…。

覚えている。つい最近、朋美に誘われた私が、[5秒前]のファンになったきっかけを作った男。

一ノ宮輝本人が、扇浜の側にいた。

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