14・忘却の日(終)

「だったら、兄ちゃんの事忘れたとか、平気な顔して言ってんじゃねぇよ!」
「忘れたじゃなくて知らないって言ってるでしょ!」
俺と未衣子は口論になっていた。
大切な存在として扱っていた妹との間に、亀裂が入ってしまった。

修復不可能な亀裂を避けるのに、兄貴が仲裁に入った。
「落ち着け勇希。まずは整理しよう。
…未衣子、俺達の事はわかるか?」
「何言ってるの?和希兄ちゃんと勇希兄ちゃんでしょ。」
未衣子はさっきの口論のせいか、不機嫌な物言いだった。

頭の良い和希兄ちゃんは、未衣子に幾つかの質問を始めた。
淡々と答える未衣子を、俺は黙って見ていた。
最初は俺達の家族構成から、[ラストコア]の知識まで、ありとあらゆる質問を行った。
口に出さないでいた俺だが、質問の合間合間で困惑させられた事もあった。未衣子の答えが影響していた。

例えば、「【パスティーユ】の開発者は誰か?」の質問。
未衣子はアレックスさん、と答えた。
開発者がアレックスさんという答えは正解だ。
これはまだいい。問題は次だった。
「【パスティーユ】開発に立ち会った人物は?」という質問。
これはHRの《武人兄ちゃん》が自分の身体を検査してもらい、擬似的な技術を発明させたと聞かされていた。

ところが、未衣子は違う答えを言った。
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