14・忘却の日(終)

「変わってない、よな。」「変わってない、ね。」
俺と兄貴が漏らした感想だった。
いつも以上にはしゃいでる未衣子をよそに、俺は兄貴に《夢》にまつわる話を始めた。

「兄貴。」「なんだい?」
「俺達の母さんが火星人って事、父さんやお爺ちゃんやお婆ちゃんは知ってるのか?」
「知らないだろうね…。赤髪とは言っても、茶色に近い色合いなら外国の人と変わらなそうだし。」
「だよなぁ。ま、俺達お婆ちゃんに育てられたもんだし。」
「知らない方が幸せだったのかもね。母さんの正体の話は。」
「母さんだけじゃねぇ。未衣子もだよ。」
俺達は前へ視線を向けた。未衣子が舞い上がっている先を辿っていくと、敷地内のお花畑に着いた。
寒さが増していく秋の終わりは、咲く花の種類も少なかった。
俺達の心の虚しさを、表しているようだった。

だけど、1本の大木の枝から、薄いピンク色の花が咲かれていた。
桜だった。
笑顔の未衣子の上を飾っていた。
知識の乏しい俺でも、冬の突入前に桜が咲くのはおかしいと思ってた。
兄貴が常識を覆した。
「《十月桜》という花があるんだ。稀にこの近所で見る時あるけども、この公園でも咲いていたんだな…。」
へぇ、と俺は小さく言った。
兄貴の知識が別に地味と思ったわけじゃない。
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