14・忘却の日(終)

★★★
「公園の紅葉が綺麗ねぇ。」

俺達が愛嬌市の家に帰れたのは、11月半ばになった。
結局、武人兄ちゃんの安否は不明だった。
捜索も困難だとして、土星圏の人達も切り上げたと、アレックスさんから報告があった。
これ以上[ラストコア]にしがみ付く用事は、俺達子供にはなかった。
帰宅の為の整理に取り掛かり、愛嬌市内に戻った。
荷物を運ぶ用のトラックも同時についてきた。
転送装置の腕時計やペンダントは、記念にプレゼントすると言ってくれた。

帰宅して数日後、俺達は日程を作って、3人で公園に行った。
半年以上前に襲撃事件の場となった、吉川公園。
俺達兄妹と武人兄ちゃんの、初対面の場所だった。
武人兄ちゃんは自分の消滅で未衣子の記憶から飛んでしまうと、《夢》で言った。

でも、希望を捨てたくなかった。ドラマでもアニメでもある、記憶喪失の時はその人物の馴染みのある場所へ行くシーン。
小さな事でも蘇れば、と願っていた。
だからといって、未衣子が《記憶》を思い出す素振りはなかった。
思い出す前の頭痛を感じる行為でさえ、妹は示さなかった。
ただ、オレンジと茶色という、秋の典型的な景色に見惚れているだけ。
くるくる踊っている未衣子を遠目にして、俺達はひたすら公園の散歩をしていた。
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