14・忘却の日(終)

言葉の最後で俺は泣き出した。
王子とサレンさん同様、俺も兄貴に支えてもらった。
兄ちゃんへの発言は、兄貴が代弁した。
「お願いです。土星圏の人達が未だに貴方の捜索をしています。
1度でもいいので、妹に会ってください。俺からも頼みます。」
『さっきも言うたで、会わん方が幸せやと。』
ここから誰も反論せず、武人兄ちゃんが淡々と話していた。

『笑顔が素敵な子供は、いや大人でも…戦場に行かん方がいい。
俺も頭ではわかってた。せやけど、あの時は時間も迫ってた。
今年襲撃があるやろうと予想していたから。
ほんまに、君ら兄妹を巻き込んでしまってすまない。』

兄ちゃんと向かい合った俺達の口は、閉ざしていた。
『未衣子は俺の《記憶》にずっと縛られていた。
せやから俺がいなくなる事で、彼女は俺を忘れる。
忌わしい《記憶》をなくして、平和な生活を送ってやる方が、彼女は幸せになる。』

…だから、兄ちゃん達が妹を助けてやってな…。

最後にそれだけ言うと、足の無かった武人兄ちゃんの下半身から、光の泡が上へ舞い上がっていった。
泡はみるみると増えていき、兄ちゃんが蒸発するように、消えていく。
手を伸ばしたくても届かないから、手を出さなかった。

その代わり、俺は大声で叫んだんだ。
「バカヤロオオオ!」って。
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