14・忘却の日(終)

無駄な行為だと気づいていても、兄ちゃんには戻ってきてほしいから。俺は、彼をずっと慕っていた妹の名前を出した。

「未衣子が、未衣子がお前の記憶を失くしているんだよ!
クーランとの戦闘後まで、はっきりと覚えていたのに!
せめて妹だけでも、顔を合わせてやれよ!」
ぼやけた姿の武人兄ちゃんは、目を閉じた。
『…そうか。遂に《夢》が醒めたんやな。』
「…は?」「どういう意味ですか?」

兄ちゃんの意味不明な発言に、俺と兄貴は困惑した。
目を開いた兄ちゃんは、視線を王子とサレンさんにずらした。
『王子とサレンちゃんなら、《症状》をわかるやろ?』
「《症状》…?」「未衣子は健康だって言ってたぜ!ありえねぇよ!」
アレックスさんの検査でも報告は聞いているんだ。
未衣子は病気じゃない、と信じていたのに。

王子とサレンさんの反論がない。
何か事情を知っているような素振りを見せた。
「…彼女達の母親の、特定はできませんでした。」
お母さん?何で俺達のお母さんが出てくるんだよ?
俺には理解できなかった。

代わりに兄貴がもしやと、推測した事を言った。
「俺達に家族構成を聞いてきたのは…所謂未衣子の《症状》と関係があるのですか?」
兄貴の問いに対して口を開いたのは、王子ではなく武人兄ちゃんだった。
19/37ページ
スキ