13・奪還の日

点滅する青い光の点の正体は、武人兄ちゃんしかいない。
だから壁を壊した時に、私は彼の名前を呼んだ。

彼は上半身は何も着ていなかったし、眼鏡もつけていなかった。
だけど、ボサボサ気味の黒い髪の毛は、出会った時からずっと変わっていなかった。
諦めずに進んでよかった。
私の心は今、嬉々に満ちあふれた。

壁は粉々に崩れると、床の一部もつられて落下していく。
武人兄ちゃんの座ったベッドも落ちそうになり、【フラワー】の手でキャッチした。
彼の無事を一旦確保してから、半壊状態の部屋をモニター越しで見た。
部屋の真ん中に、1人のおじさんが座っていた。
白衣を纏った、髭を生やしたおじさんが足を三角に曲げて、両掌を床に付けたまま動いていない。
おじさんの表情は、初めて怖い物を見た時のように強張った感じになっていた。

この人、もしかしたら夢の中で…。
なんて見てきた夢を思い出している余裕はない。
兄ちゃんを連れて脱出しないと。
「武人兄ちゃん、今から飛ぶけど大丈夫?」
「【フラワー】の指に捕まっとく。遠くまで離れたら変身するから、宇宙へ出られるで。」
武人兄ちゃんはそう言ってから、ベッドごと収めていた【フラワー】の左手の中指にしがみ付いた。
ベッドはいらないみたいだし、半壊した部屋に右手で置いた。
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