13・奪還の日

☆☆☆
武人の身体は、かなり疲弊していた。隙を見て脱出を図らないといけないこの緊急時に、ぐったりしていた。
いや、させられたのだ。

彼の左腕に、小型の注射器の針が刺さっていた。
点滴の薬は器具の下部で固定されたタンクに入っている。
それを機械で吸い上げて、上部の袋に溜める。
溜め込んだ液体の薬を、管を通してゆっくりと注射器に注がれる仕組みだ。

薬の正体は、クーランが知っていた。
『液体の中に微生物が潜んでいて、それは身体を内側から蝕む』作用があると。つまり、武人の身体を衰弱させる害薬であった。

今すぐ注射器を取っ払いたいのが武人の本心だ。
だが注射器を抜くのを阻む困難も、同時に存在する。
武人が目を覚ます前から固定された、ベッド一体型の拘束具。
手足とお腹まわりの上に、金属の輪は微動すら起きていなかった。
彼の足元側、部屋の隅に置かれた『HRの変身を抑止する装置』も困難要素の1つになっていた。

「投薬してから、随分大人しくなったなぁ。」
ベッドの傍らでクーランが言った。彼はケラケラ笑っていた。
「効果が効いてきたのか?ん?
そりゃあ身体中の内臓や筋肉や骨を、微生物が食べているんだからな…。」
武人に対して残酷な事実を告げてくるクーランだが、武人は言い返せなかった。
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