12・潜入の日

通路の個室側の壁に、折り畳み式のイスが設置されていた。
上のボタン1つで壁と一体化されていたイスが前に出て、上開きで展開された。
1人用のイス3脚を用意し、私達兄妹は座った。

火星にはもうすぐ着くけど、のんびり宇宙の神秘的な景色を眺めていた。
もう二度と見れないかもしれないし。
期間限定の言葉に皆が弱いのも、それが気持ちの底にあるからだろう。

他には、王子達土星圏の人々が行ったように、初訪問時には電波のやり取りをしなくてはいけない。
敵はクーランとその勢力であって、火星圏の人達全員ではないからだ。
無関係の人達を流石に戦禍に巻き込むわけにはいかない。
被害拡大を抑える為にも、多少手間のかかる作業を行うのだ。

王子達の訪問時には、私は電波受信の現場に立ち会ったけど。
今回は戦闘の備えとして、電波のやり取りはアレックスさん等ブリッジにいる乗組員に限定された。
緊急時以外は体調を整えろとしつこく言われてるから。

「なんか、暇だなぁ…。」
私の左に座る勇希兄ちゃんが言った。
「パイロットの仕事に専念させてくれるから、いいんだけどね。」
右に座る和希兄ちゃんが言った。
勇希兄ちゃんはあくびをしそうな雰囲気の物言いで、和希兄ちゃんはまあまあと弟を宥めるような物言いだった。
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