12・潜入の日

クーランが武人の所へ戻ってきた。
病院でよく見かける、点滴の器具を運びながら。

「…何や、それ。」武人はぶっきらぼうに聞いた。
「躾のグレードアップ、ってとこだろうなぁ?」
「グレードアップちゃうやろ。それで俺を、眠らすつもりか?」
するとクーランは自慢げに笑った。
「眠るのは、後だ。
下のタンクの液体が流れるが、あるもんが混入されてんだ。」
「あるもん?」
武人は点滴の正体が気になった。
彼の頭の中で、『知らない方がいいぞ』という警鐘が鳴っていても。

『知らない方がいい』ものは、クーランの口から吐かれた言葉に存在していた。
「微生物だよ。俺の命令に背くと、液体の中に潜む微生物がお前の身体を蝕んでいく。
…どこまで耐えれるか、楽しみだなぁ?」
ヒヒヒ、とクーランは点滴用の小さな注射器を指で摘んでいた。

「どこまで行っても、お前だけはど畜生やなぁ…!」
武人は口先だけでも、平気なフリをしていた。
脱出経路を探っていた武人だが、彼の身体はそこそこ限界まできたしている。
脱出は成功したとしても、その後生き続けられるのか…彼もわからなかった。

運命が決まっていたかもしれなくとも、彼は危険な治療を施そうとする『親』を睨みつけた。
全くの効果はなく、治療は開始された…。
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