12・潜入の日

火星圏タレス・[レッド研究所]。
この施設の7割近くを、実験室のように扱われていた。
その内の一部である、病院の手術室とそっくりな、小さな部屋があった。
キャスター付きの上側から灯す照明と、折り畳み式のベッド。

ベッドの上に横たわるのは、捕らえられた黒川武人本人だった。
横たわっているだけなら、楽になれただろうに。
武人の手足とお腹周りには、鉄製のリングがつけられていた。
それは彼をベッドに固定させる道具だった。

「…悪趣味やな。こんな事すんのは…。」
武人が目を覚ましてからの、最初の発言であった。
「悪趣味?お前は慣れてるだろう?」
武人の呟きは、誰かに聞かれたようだ。
ゆっくりと歩み寄ってくる、白衣姿の中年男に。

「やっぱりあの子らは、お前の差し金だったんやな…クーラン。」
「おいおい…久しぶりの親子の再会なんだぜ?喜んだらどうだ?」
「あんな招待のされ方で、喜ぶバカがどこにおるん?」
「ま、そうだわ。」
武人が固定されているベッドの側までやってきたクーランは、少し苦しめの表情をした。

「お前さん、そのしゃべり方…。」
「もう10年もあっちおったら、今更直しづらいんやわ。」
「あの時は物静かで可愛げあったのによお?」
「よう言うわ。黙って従順になる子供が好物なだけやろ?」
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