アルカ編
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深い微睡に逆らうようにキルアはゆるゆると目を覚ました。己の膝下でアルカはぐっすりと眠っている。ぼんやりとしていたご幾つもの管で繋がれている患者がいるのに覚醒した。間違いないあれはゴンだ。病室に辿り着いたのを証明するかのように壁際には執事のツボネとアマネがいた。何故かアマネが目が赤くなっている現状にキルアは首を傾げた。何が起こったのだろうか。
「やあ目覚めたね」
どこから現れたのか。いつの間にかアルカの隣に座るアイはぐっすりと眠るアルカの頭を撫でている。過去一度も見せた事がない慈愛の顔付きにキルアは無意識に涙を溢した。ゾルディックの直感が告げている。この女は間もなく死を迎えるのだと。
「さあゴンの元に行っておやり」
「あ、姉貴!」
「行ってはなりませぬ」
病室から出ようとする姉を引き留めようとキルアは咄嗟に手を伸ばす。しかし道を阻むようにツボネが立ち塞がった。皺が刻まれた目の下は薄っすらと腫れている。そこでキルアは気付いた。ツボネは普段かけているメガネを付けてない。
「これ借りてくよ」
「アイ姉さん!!」
眼鏡を付けている姉に駆け寄りたかった。抱きしめて死なないでと縋り付きたかった。しかし背を向けるアイは既に氷像に近いのにキルアは息を呑んだ。数メートル離れていても伝わる冷気が姉の氷結の速度を早めているのだと実感する。どうしてだとか死なないでなどの懇願が頭をよぎる。しかし満足そうに笑うアイを見てキルアは姉の覚悟を受け止めてしまった。
「ん、んん?アイお姉ちゃん?」
「お姉ちゃんは今忙しいんだ。オレとの用事が済んだ後に遊んでくれって」
「うん!わかった」
目覚めたアルカを連れてキルアはゴンが眠るベットへと向かった。決して後ろを振り返らぬ弟の決意に執事の二人は再び涙を流した。
『何をしているのツボネ!!今すぐアイちゃんを家に連れ去りなさい!!あんなに冷たくなって!!今すぐ最高クラスの医者を呼ぶのよ!!』
「無駄だよ。治療って言う概念を超えてるから治せない」
『国立病院から決して離れるなよ。優れた除念師を直ちに連れてきてやる』
「もう遅い」
『アイ姉さん死んじゃうの?』
「ああそうさ」
廊下で一人眼鏡に向かって家族に話し掛けるアイはケラケラと笑っていた。死にゆく命が消え掛けるのを愉しむように口を開けて笑っていたがゆっくりと閉じた。数メートル先にいるのはとち狂った弟。アイが一歩を踏み出す前に弟が跳躍して姉を組み伏せた。狂気に染まった目付きになった弟に姉は淡く微笑んだ。
「ふざけるなよあんたはずっとムカつく奴でクズで自己勝手な最低な人間なんだただで死ねると思ってんじゃねえぞ」
丁寧な口調すら殴り捨てて憤怒のままに殴り掛かる弟を目の当たりにしてもアイは笑っていた。血が飛び散る中で走馬灯のように今までが鮮やかに蘇る。幻影旅団と対峙した事、家出した事、ハンター試験を受けた事、旅団と行動を共にしたこと、蟻を退治した事。どれもこれもアイにとって下らないと片付けるには惜しい思い出だたと気付いたのはごく最近だ。そしてパクノダとウヴォーギンが死んで下らないと切り捨てた人間が本当は大切だったと思い知らされた。それと同時に
「イルミ…」
既に顔中拳大に腫れ上がっており目すらもまともに開かない。眼鏡は地面に叩き付けられており金切り声と怒声が廊下に響いてる。力を振り絞ってイルミに手を伸ばせば困惑しているのか眉を顰めているが殴るのをやめない。思い返してみれば下の子とそこそこ会話をしてきたがイルミに至っては数えるくらいしかない。揶揄ってはいたが本音を話した事はない。イルミの感情をのらりくらりと躱わすだけできちんと向き合った事はない。弟は大切だと自覚した時にイルミは入っていなかった。
「ずっと邪険にしてて悪かったな」
「あ、ああ?????」
「お前が嫌いで家出したんじゃないよ。運命から逃げたかっただけだ。あの時の嘘を訂正しなかったからずっと苦しんだだろ。今まで放っておいてごめんなあ」
突然の謝罪に戸惑ったのかイルミの攻撃が止んだ。動揺しているのかぎょろぎょろと目玉が左右激しく動いている。初めて見る弟の困惑っぷりにアイは口角を緩ませつつ上体を起こした。眼鏡を拾い上げ拡声器を使うように口元を近付ける。覚悟はとうの昔に決まっている。
「逃げてばかりいた自由奔放な人生も悪くはない。心を捨ててしまえたらどんなに楽か。けどそれが出来ないから人間だ」
廊下にはもう二人だけではなかった。治療を終えて復帰したゴンやキルア達がアイの行く末を静かに見守っている。呆然としているイルミに潰れた顔でウインクしたアイはキルアに抱っこされてるアルカに向かって頭を下げた。
「ナニカ私のお願い聞いてくれる?」
「あい」
途方もない闇を持つ眼が開かれる。「おねだり」なしでナニカを引き出せる現象にイルミすらも眼鏡を通しているゾルディックの家族すらも声が出さない。ただキルアだけ緩く微笑んでいた。
「私の氷結を治して。そして私をゾルディック家の当主にさせて欲しい」
