キメラアント編
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あの日から気絶して幾日か経った。拷問が終わった直後に何件かメールが届いてた。
「アイ。こんな所で寝てたら風邪引くわよ」
シュークリームなどの甘味はもちろん、唐辛子、ハバネロなどと言った舌を刺激する食べ物を幾つも口にした。床に放ってある携帯は電池が切れたのか振動すらしなくなった。
「縛りを破ってパクは死んだ。言っておくがアイのせいじゃない。オレ達は誰一人お前を恨んじゃねーぜ」
家を出る時イルミに酷い顔をしていると告げられた。一応鏡で見たけどそんなに酷くはない。何重にもクマがあるだけの平凡な顔つきを執事全員が不安げな目で私を見ていた。父さんは実家から出る間際でも口を閉じていたし、やっと絞り出した言葉が「自殺なんて許さない」なんて馬鹿げている。私が自ら死を選ぶわけ無いじゃん。
「アイ、誰もお前を責めちゃいない」
あの日から胸に巣食うもやもやが晴れない。だから自宅に戻ってからあらゆる甘味を口にした。でも薄味なのかいまいち美味しく無くて試しに珍味も口に放り込んでみたけど結果は同じだ。物価高だからか知らないけど原材料を少なくしているんだろうか。
「さよならの挨拶も言えなかったわ」
悪夢なのだろうか。パクノダとウヴォーギンが出てくる夢を何度も見た。手を握ろうとすれば霧のように擦り抜ける。二人は誹謗中傷を浴びせる訳でもない。ただ物悲しそうに目を伏せるだけだ。
「お邪魔しまーす、あれ?すっごい散らかってますねえ。アイさんも顔色悪そうだしもしかしてボクお邪魔だったりします?」
そう思ってるなら帰れば。当たり前のように自宅に押し入ってきたパリストンは胡散臭い笑顔を撒き散らしていた。鍵を閉めたはずだと素っ気なく返せば、合鍵を作りましたと満面の笑みで返された。もう犯罪だよとかツッコむ気力はない。パリストンはずかずかと部屋に入った挙句、私の頬を両手で挟んだ。深淵のようにどす黒い瞳がちっぽけな私を映している。
「まともに寝てないんですか?メイクを失敗したように黒ずんでますよ」
「数時間は目を閉じているから寝ている」
「睡眠取らなすぎて頭おかしくなっちゃったみたいですね。コーヒー飲んだら目が覚めますよ」
勝手にキッチンを借りたあいつはゆらゆらと湯気が上がるマグカップをテーブルに置いた。砂糖を入れてもらってもどうせ味はわからない。ミルクと砂糖を山盛り入れられる前にマグカップを奪い取り一気に飲み干す。喉が爛れたように痛むだけで案の定苦味の欠片も感じない。コーヒーを一気飲みする私をソファに座るパリストンは鳩が豆鉄砲を食ったような表情で凝視していた。
「本当にアイさんですか?貴女はブラック飲めないはずでしょ」
「下らない問答に付き合っている暇はない。とっとと用件だけを話して」
「ええー心配してるのに邪険にしないで下さいよお」
口を尖らせつつもパリストンは持ってきたビジネスバッグからパソコンを取り出した。パソコンの電源を付けたパリストンはかちゃかちゃとキーボードを操作しこちらに画面を向けた。ニュースのライブ中継を録画したのだろうが。アナウンサーが獅子の頭を持ち人体の身体を持った生物に向かってインタビューしている。数秒後にアナウンサーの首が真下に落ちて画面は暗くなった。
「アリって知ってます?」
「毒を持ち人の体内に潜り込んで卵を産みつける生物だろ」
「全然違いますね〜アイさんは普段からニュースとか新聞に目を通さないでしょ」
わざとらしくお手上げポーズを取ったパリストンは何処からか取り出したスケッチブックに絵と文を書き始めた。
曰くアリは突然発生した生物であり別名”キメラアント”と呼ぶ
曰くアリは肉食獣であり特に人間を好んで食べる
曰くアリは念を使えるらしく並大抵の人間や武器では話にならない。
分かりやすい説明をしているのは分かる。けれどあまりにも絵が独特過ぎて反応に困ってしまう。果たしてこれは演技なのか。それとも素でやっているんだろうか。絵を見つめ私を無視してパリストンは身振り手振りで大袈裟に話を進めた。
「ここからが本題なんですけどね。実はとある地域にアリが比較的大きな巣を作ってしまいまして。諸事情により政府が介入出来ない見捨てられた地域だから助けてあげたいんですけど。かなり訳ありな場所だからボク自身は表立って行動出来ないんですよ」
「訳ありじゃなくてもお前は行かないだろ」
「いえいえとんでもありません!民衆が困っているならボクは姑息と罵られようが喜んで手を貸します。という事で流星街に住み着いた蟻を退治する依頼をお願いしたいんですが引き受けて下さいますよね?」
こいつを爽やか王子と名付けた人はきっと目を悪くしていたのだ。喜色満面の背後には有無を言わせぬ圧を纏っている。断るのが面倒だと天井を仰ぐといつの間にか入り込んだ小さい蜘蛛が視界に入った。
「オレ達の出身地?流星街っていう場所だよ。世界からも見捨てられた街って呼ばれてるけど意外と良いところなんだぜ。興味があるなら連れてってやろーか?」
「いつ現場に行けばいい」
「えっ!引き受けてくれるんですか!?めんどくさがりのアイさんは絶対断ると思っていたのに。明日は吹雪が荒れ狂うんじゃないかな」
「依頼を破棄してもいいんだぞ」
「はいはい殺気を抑えましょうね。かっかしてるのはカルシウム不足ですか?それとも生理?」
「殺す」
立ち上がろうとしたが太腿というか下半身全体に上手く力が入らない。自分の意思とは関係なく体勢を崩してしまう。は?どういう事?横たわる私をパリストンはいつもの食えない笑みで見下ろしていた。
「善は急げ!というと事で今から流星街に向かいますよ。ボクの所有している飛行船で送りますので道中は安心して下さい」
勝手に人の予定を決まるんじゃない。いつ薬を仕込んだとか反論意見をぶつけないのに呂律すら回らない。やがて身体全体を包み込むような暖かさに耐え切れず意識を手放した。
