ヨークシン編
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誰かに頬を叩かれたような感覚に意識を取り戻した。確かクラピカに首を絞められてそのまま意識を失っちゃったんだっけ。睡眠薬を何十本も投与されたように当時の記憶が曖昧だ。瞼があまりにも重たすぎるから目を擦りたいんだよね。けど両手両足が動かせないから無理か。拘束されている上に頬に無機物の冷たい感触が伝わるから、私は恐らく床に転がされているのだろう。仮に拘束されてなくても布を頭から被されているから、目を擦っても意味ないけど。
「お前をゾルティック家の人間に引き渡すまで拘束させてもらう。下手に縄を破ろうとすれば幻影旅団の長の命はないと思え」
「偉そうに指示しないでくれるか」
若干強気な口調で返したけど多分ハッタリだってバレてるんだろうな。普段の私ならばこんな縄すぐに引き千切れるほど、消耗しきった今の私じゃそれすら不可能だ。じたばた暴れる気力もないので身動きしないでいると落下している感覚に襲われた。恐らく目的地に着いたので飛行機が着陸しようとしているのだろう。
「ちょいと失礼」
着陸したと同時にふわっと身体が軽くなった。声音からしてレオリオが私を抱えたのだろう。レオリオの腕が腹に当たっているから多分小脇に抱えられているんだろう。おいクロロ今笑ったでしょ。視界が封じられても分かるんだよ。
「2、3時間ちょっとは寝ていたんだね。もう深夜になっているとは」
「視えねーのに分かるのかよ」
「夜、特に深夜の空気は独特なんでね」
静寂に満ちながらも生命の息吹と迫りくる死を纏った風は深夜だと勘が言っている。レオリオの歩みが止まったけど何処からか携帯音が鳴り響くと同時にレオリオが再び歩き始めた。なーんか前方から見知ってる気配が二つほどするんだけど…人違いであってほしい。
「帰ったらすぐに湯あみをしてからじっくりと話を聞くとしよう。久しぶりにアイと会えて父さんは嬉しいぞ」
「そうじゃのう。特にあの若造との仲をたーっぷり聞きたいぞい」
生き生きとしているけど刺々しいオーラが二人の本音を現している。こりゃ当分は実家コースだな。父さんに引き渡されたレオリオはすぐさまその場を立ち去った。キルアやゴンの気配が僅かにするから二人と合流したのだろう。正直キルアに幻影旅団に挑んでとか色々言いたいことはある。けれどあまりにも眠すぎる。正直言って意識を飛ばさないようにするだけで精いっぱいだ。
「アイ」
「ぱくのだ?」
とうとう呂律も回らなくなってきてしまった。私に話しかけてきたのはパクノダで合っているのか。頭上に漬物石でも乗っているのか上手く脳が回転しない。戸惑っている私に構わず誰かは何かを握らせてきた。形状からしてリップクリームとかそんな類の物だろうか。
「じゃあね」
誰かはこのまま立ち去ってしまうのだろう。短い挨拶、たったそれだけの事なのに。手の届かない遠くに行ってしまうそんな気がしてならない。このまま引き留めなければもう会えない気がする。けれど深淵へと引きずり込むような眠気には抗えない。指一本動かすだけでも精一杯なこの身体で出来る事は。
「また、ふくをいっしょにかいにいこう」
立ち去って行くその人物に伝わったかすら不明だ。でも「そうね」と聞こえたからきっと伝わったのだろう。けれど相手が誰なのかどうしても確認したい。力を振り絞って瞼を開けようとしたけど呆気なく失敗して。あっという間に深い闇に意識が落ちていった。
