ヨークシン編
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キルア視点
世間はとある話題で持ち切りだった。あらゆる媒体がその話題を流しており、チャンネルの全てが独占されたと表現しても過言ではない。
A級ランクのお尋ね者集団、幻影旅団が全員死んだ、と。セメタリービルの裏で惨殺された死体があったそうだ。
どの死体も惨たらしいが、とある団員の死体は身の毛のよだつ程の悲惨な殺し方をされていた。特に原型を留めていない程顔がぐちゃぐちゃにされていたそうだ。
それは黄金色をした髪を持った女性、で。
アイはもういない。この世に存在しない。
やつれた顔をしているとゴンに言われた。
きちんと寝ているかとレオリオに言われた。
クラピカは何も言わずただ無言だった。
ホテルで今後の予定を話し合うとの約束だったが、誰も口を開かない。沈黙が続く中、無機質な音がズボンから聞こえた。相手が誰かも考えずただ通話ボタンを押す。
「やあキルア元気にしてる?まだゴンと友達ごっこをやっているのかな」
「…茶化しにきたなら電話切るぞ」
冗談だと乾いたように笑う兄貴は少しも取り乱してない。実の姉貴が死んだのにその薄情さはないと普段なら怒鳴るだろう。けどオレは現実を受け止められずにいて、イルミの感情の起伏に怒る気力もない。
『キルア』
どうして旅団にいたんだ。オレ達と行動を共にしてたら死ななかったのに。アイを止められなかった後悔ばかりが身を焼く。口数が少ないオレとは正反対で、イルミは珍しく口が回っていた。アイが死んだ影響で頭がおかしくなったのか。
「やけに反応悪いね。もしかしてアイのせいかな。だとしたら安心して。あれは生きている」
「え?」
驚愕のあまり携帯を落としてしまう。今、イルミはなんて言った?
アイが生きている?
こんがらかった内心に同調するように雷鳴が轟く。雷に続くようにバケツをひっくり返したような雨が降り始める。不穏な雰囲気に感化されたのか自身の携帯を握るクラピカの瞳が真紅に染まる。咄嗟に自分の携帯を拾い、すぐさまイルミを問いただす。
「どういう意味だ!?」
「んー話せば長くなるから要件だけ伝えるね。旅団の死体は偽物だ。アイは五体満足で生きていr」
通話途中だが指が勝手にボタンを押してしまう。奥底から押し上げてきた温かい液体がどんどん頬を伝っていくが、拭っている余裕はない。
アイが生きている。今まで聞いたニュースで一番嬉しすぎて嗚咽が止まらない。息がしづらいがそんなことは些細な問題だ。良かった…!!アイは生きてたんだ!!
「涙の理由を当ててやろうかキルア。アイさんが生きていたんだろ」
機械音声のような感情を乗せない声音に涙が自然と引っ込んでしまう。恐怖からなのか今のオレには見当もつかない。ただ、これだけは言える。
クラピカは凄まじく激怒している、と。
オレやゴンレオリオの視線がクラピカに集まる。ソファに腰かけていたクラピカは対面に座るよう指示してきた。操り人形のように座ればクラピカは俯いていた顔を上げた。
「…キルア、ゴン、レオリオ。私の能力について話そう」
感情を押し殺し能面のようになったクラピカは語った。制約と誓約の都合上を覚悟の上でクラピカの念能力は蜘蛛のみにしか扱えない。それ以外の者に使うと使用者は死ぬ、と。
語り終えたクラピカは迷子になった子供のように顔をぐしゃぐしゃにしている。少しでも刺激すれば大泣きしてしまいそうな、そんな雰囲気だ。何故そんな顔をするのか。どうして懺悔をするようにオレの名前を呼ぶのかなんて。
理由はたった一つじゃないか?
「なあキルア。さっき生き残りに記憶を読む念能力者がいると言ってたよな?」
「あ、ああ。相手に触れただけで記憶を読み取るっていう…まさか!アイがクラピカの情報を話すとでも言うのかよ!?」
「そうだぜクラピカ!第一あれはアイさんじゃないって「ヒソカがはっきりと口にした!!!アイさん…いやアイは蜘蛛のメンバーだと」
旅団でありながら内通者であるヒソカはクラピカにはっきりと伝えたそうだ。アイは旅団であると。受け止める覚悟があったとはいえ、やはり第三者から聞くと衝撃が大きい。天候が荒れたせいか珍しく頭が痛くなってきた。こめかみを抑えつつもクラピカの話に耳を傾ける。
クラピカは目を瞑り手を合わせていた。まるで神様に祈りを捧げる信者のように誰かを信じる様に。
そして、目を開けた。
真紅のバラを血で染めたような緋色の眼がオレの心臓を貫く。そこには生半可じゃない決意と憎悪が宿されていた。
もしかしなくても、クラピカは。
「死体がフェイクなら奴らは今この瞬間のうのうと生きている。私は必ず奴らを捕える!!例えこの身を切り裂かれようが地獄に堕ちようが!!キルアには悪いが…今より私はアイを敵とみなし彼女を、殺す」
コロシテヤル
「キルアやめて!」
ゴンに羽交い締めにされて正気に戻る。床にはゲホゲホと苦しそうに咽せているクラピカがいて、レオリオがその背中を摩っていた。首元を抑えるクラピカと咳き込む様子からして、まさかオレは。
低気圧から来る頭痛なのかそれすらも分からない。ただ全てを吐き尽くしてしまいたくなる程の衝動が身体を包み込んでいる。耐え切れず両膝をつき胃の中身を空っぽにする。呼吸が、息が出来ない。
無様なオレを一人の復讐者が見下していた。慈悲の欠片を少しも宿さない憎悪にまみれた男は本気で。オレの姉貴を、かつて一緒に過ごした仲間を。
近くに雷が落ちたのか。忽然と明かりが消え去った。途方もない暗闇の中、緋色の瞳だけが地獄の炎を纏う亡霊のように蠢いていた。
「私はアイを…蜘蛛を殺す。キルア、お前はどっちの味方だ?」