ヨークシン編
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「品物がない?」
「うん。全員で隅々まで確認したけど中は空っぽ」
数十分前の出来事をクロロに伝える。
無の空間が広がる金庫はまさにもぬけの殻だった。念の為他の金庫も確認したが同じ空間が広がっており、急遽シャルナークに電話をしたものだ。
現場を確認したシャルナークの判断により、クロロと合流すると結論になった。逃亡手段に使ったのは予めデメちゃんが飲み込んだ気球だ。
「話は分かった。ウボォーに代わってくれ」
電話を受け取ったウボォーギンが一言、二言会話をした直後。とある単語が耳に飛び込んできた。
「俺らの中にユダがいるんじゃねえか?」
キリストの弟子だった男の名前。つまり裏切り者を現す名前に殺気にも似た空気が流れる。仮に旅団を裏切る人間がいるとしたらそれは誰だろう。
『ボクをお呼びかい♢』
………約一名当てはまる男がいるな。
「いないよそんな奴は。団員の中にユダがいたと仮定して、そいつは幾らでオレたちをマフィアに売る?メリットを考えろ。マフィアにオレたちを売ってそいつは何を得るんだ?金か?地位か?名誉か?それで満足したと考えるような奴がオレたちの中に本当にいるのか?」
私は幻影旅団をよく知らない。ただ分かるのは、彼等は情に厚い連中だということ。名誉や巨万の富で仲間を売る人間はいない、それは短い付き合いの私でも知っている。
『ボクの好みのタイプを聞きたいのかい♡ 強くて綺麗な女性、つまりアイが好みかな♢』
………あいつがどうかは知らないけど、少なくとも金銭面や地位で揺らぐ男じゃないでしょ。
考えている間にいつの間にか会話内容が進んでいる。どうやらオークションの宝が無いのは密告者のせいではなく、危機察知能力に特化した念能力者によって回避された可能性が高いらしい。
「よく……分からねぇな。どんな情報が誰から誰に伝わってるかがよ。まあいい。――で、オレ達はどうすればいい?」
「競売品をどこに移したかは聞いたか?」
「ああ。だが、オークショニアは死ぬまで"知らない”の一点張りだったぜ。フェイタンが体に聞いたからまず本当だ」
「彼が今日、一番気の毒なヒトだたね」
「移動場所を知ってる奴の情報は聞きだしたんだろう」
「もちろんだ」
会場を出るついでにフェイタンがオークショニアを捕まえていたのだ。哀れな拷問の末にそいつは宝を持ち去った人物の情報を吐いた。
“陰獣”、それはマフィアの頂点に立つ十老頭直属の部隊。その中の一人、梟と名乗る男が金庫に立ち寄ったそうだ。その後に宝がなくなったらしい。 状況から推測するにシズクと同じタイプの念能力者だろう。敵が念能力者のとのクロロの言葉に、ウボォーギンは不敵な笑みを浮かべている。言わなくても十中八九分かる。どうせ強者と戦えるのに心を躍らせているのだろう。
『ボクを忘れないでおくれよ♤』
……戦闘狂のピエロは一旦置いておくか。
「戦っていいよな?」
「もちろんだ。追手相手に適当に暴れてやれよ。そうすれば陰獣やつらの方から姿を現すさ」
気球の燃料が切れる前に開けた崖の上で着陸をする。 崖下を見ればわたし達を追いかけてきた強面のマフィアがいた。ドスの効いた声を荒げたり発砲したりとやけに騒がしい。 てかカメラ持ってる人間いない?身バレするのは面倒なんだけど。
「オレを盾にするなよ」
「化粧してるけどバレたら面倒だし。ノブナガなら銃弾弾いてくれるでしょ」
「そうだけどよお」
「にしても団体さんのお出ましとは。マフィアも面子を守ろうと必死なんだ」
「あれは掃除しなくてもいいのかな」
「別にいいね」
「ならお前ら!!手ぇ出すんじゃねえぞ?オレがやって来るからよ」
暴れたくて仕方ないといった様子のウボォーギンが、崖下を降りてしまう。数でいえばマフィアの方が優勢なんだけど、結末なんて火を見るよりも明らかだ。 最初から勝ち負けが見える勝負に毛程も興味がないので、ノブナガ達に背を向け地面に横たわる。ちょっと硬いけどまあ我慢しますか。
「ねえダウトやるけどやる?」
「ん」
うたた寝をしていたらシズクがダウトに誘ってくれた。別に参加したい気分じゃないけど、以前ヒソカにボロ負けした記憶が頭をよぎる。彼を返り討ちにする為にも、少しは場数を踏んでおいた方が良いかな。
「ダウト」
「それは違う」
「ええーそしたらまた私の負けじゃん」
「無駄に顔塗りたくっているから表情わかりやすすぎるね」
「その喧嘩買おうか」
圧勝する予定だったけど、運がなかったのか三回連続ビリとなってしまった。惨敗した私にフェイタンは勝ち誇るような笑みを向けている。
「躾けてほしいか」
ファックサインをしただけで抜刀してくるとは、ストレス溜まりすぎでしょ。カルシウム足りてるのかね。
「おや、本命のお出ましだ」
フェイタンの攻撃を適当に躱していると、崖下に見知らぬ人物がいるのが視界に入る。纏うオーラからして陰獣のようだ。どうやらウボォーギンは一人で陰獣を相手するらしい。 敵は三人いるけど彼なら平気だろう。というか。
「いつまで攻撃するの」
「お前を負かすまでね」
たんこぶを摩りながら再びダウトに興じる。フランクリンは力加減を知らないのかな。時折凄まじい轟音が下から聞こえるが、多分
「相変わらずすげー威力だな。
「ぶっちゃけると念を込めただけの右ストレートなんだけどね」
「込めすぎなんだよ。あれだけで陰獣壊滅出来たでしょ」
「まだ二人残ってるね」
「意外としぶとい」
陰獣の方は秘策があるっぽいけど、結末は決まっているから何も気にしない。それよりダウトだよ、ダウト。一回も勝てないとかショック過ぎてその場に寝転んでしまう。いやもう本当にトランプ嫌いになりそう。
「いじけないの。ほら飴食べる?」
「貰う」
「食べ物で機嫌治るアイ、相変わらずガキね」
「チビにガキって言われたくないんだけど」
「だから喧嘩するなって。フェイタンもすぐアイに突っかかるな」
再びフランクリンがメンチを切り合うフェイタンと私の間に入る。ちなみにフェイタンがやたら私に辛辣なのは、昔イルミと間違えて彼を呼んだからだ。未だに腹に据えているのだろう。
本日二回目の回避をしていると、フェイタンは急に自分の耳を塞いだ。 反撃してやろうと一歩踏み込もうとしたけど。崖下にいるウボォーギンが視界に入り咄嗟に私も両耳を塞ぐ。
「うおおおおおおおおお!!!!!!!」
周囲一帯響き渡る雄叫びにも似た爆音は凄まじい。ただの声だけで風が発生しトランプが宙を舞う。耳を抑えていても音は塞ぎ切れなかったのか耳鳴りが酷い。当然この行動にノブナガ達が文句をぶつける。
「このバカ野郎、やるならやるって言え!!」
「オレ達の鼓膜まで破る気か!!」
「耳がイカれたらどうするつもり?」
「ワリーワリー。でも言ったら奴らにバレるじゃねーか。それに音がそっちに届く前に耳を塞ぐことくらいお前らなら朝飯前だろ?」
「確かにね」
「でも急すぎるから次はちゃんと合図して」
「次ってことはようやくオレたちの仲間になってくれるのか?」
言質を取ったと言わんばかりに顔を綻ばされてしまう。 違う、違うんだって。どうにか否定するのに苦労する。全く油断も隙もない団員だ。会話のあちこちで誘ってくるんだから。
「シズク!オレの体内の毒とヒルを吸い出してくれ!お前の掃除機ならできるだろ?」
「デメちゃんは毒なら吸えるけど生き物は吸えないよ」
「なにいっ!?じゃあどうするんだ」
情けない声を出したウボォーギンを救いに、シャルナークが崖下へと降りた。 診察の結果、ヒルを除去する為に大量のビールが必要らしい。
なら街でも向かおうと立ち上がると、ウボォーギンの叫びが耳に飛び込んでくる。
「何事?」
一瞬の出来事だったので定かではないが。鎖のような道具がウボォーギンの身体に巻き付いていた気が。遠ざかっていく車からして、ウボォーギンは誰かに拉致られてしまったらしい。
「見えたか?」
「うん。一瞬にして鎖が体に巻き付いて……」
「新手の陰獣……ウボォーは毒で体が動かねーし、ヒルも体内に入ったままだ」
「もう姿が見えないね。アイの念でウボォーを取り戻せない?」
「出来ない事はないけど。加減調整下手だから確実にマチ達ごと巻き込んじゃう」
お手上げだと肩をすくめると、シャルナークがやれやれと前髪をかきあげた。
「仕方ない。助けに行くか」
「今ならまだ行先が分かる。糸の気配は“陰”で消してあるから、“凝”で見破られるか針に気付かれない限りどこまでも追跡する」
マチが小指を立てると念の糸が現れた。なるほど、あの一瞬で念を込めた針を投げたのか。 これなら相手が何処へ逃げようと追跡可能というわけだ。
「よし! 悟られる前に追いつこう」
「行ってらっしゃい」
「まさかアイは着いてかないのか」
「だって乗用車に六人も乗れないでしょ…ってフェイタン。その不適な笑みはどういう意味?」