イルミ視点

会場に着くとすぐに奇天烈なお面を被った女と愛しのキルアが視界に飛び込んでくる。
なにやってるんだあの人は……
思わず額に手を当てて俯いてしまう。

家出したキルアにそれに加担した間抜けを回収する為にわざわざ偽装までしたのに。
変装を教えていないキルアは別としてこうもあっさりとアイが見つかるとは。
せめて男装するとかしないのかあの間抜けは。
仮面をつけたにしろ変装をしない時点でアイ本人だとすぐバレるのに。
せめて声ぐらい変えたらどうだ。
服装もいつものパーカーとジーンズだし、あれで変装をしているつもりなのか。

「やあイル・・・ゴメンゴメン♡今の君はギタラクルだったよね♧」
「カタカタカタカタ（本名口にしたら殺す）」
「君もこの試験に参加しているとは意外だね♤以前出会った時はライセンスなんて不要だと口にしていたのに♡」
「カタカタカタカタカタ（急遽仕事で必要になったんだよ）」

近寄ってきた変態に距離を取りながら、猫背の女からなるべく視線をそらさない。
アイは小太りの男と話している風だが、会話をする気はないのか早々に立ち去ってしまった。
他人に興味がない実にアイらしい行動だ。

「やっぱり君は目の付け所がいい♢あの銀髪の二人。二人とも纏うオーラが他の参加者とは別格に違う♡けどあの女性のオーラ誰かと似ている♧というか彼女は……」

オレの視線の先にいる相手が分かった変態がにやにやと笑みを浮かべながら二人を凝視している。
その瞬間腹の底からどす黒い怒りが湧き上がってきたので、冷静に針を手の甲に差して怒りを収める。
ふぅ、変装が解けたりでもしたらシャレにならないんだから。

「カタカタカタカタカタカタ（あの女と銀髪の少年に手を出したら殺す）」

キルアに気づかれないよう手加減をしながら最大限の殺気をヒソカにぶつける。
キルアはオレの大切な弟だしゾルティック家の大切な跡取り。
アイはオレが確実に壊すべき存在。
両者に傷をつけるなんて何人たりとも許されてたまるものか。

「くっくっくっ♡わかったよ。試験中はなるべく君のお気に入りに手を出さない様にする♤けど意外だなあ」
「カタカタカタカタ（何が）」
「君はお気に入りを作らない性分だと思っていたのに♢あの二人のどこが気に入ったんだい？」

ヒソカの問いに多少言葉が詰まる。

キルアに関しては語りつくせないほど長所があるのに、アイに関しては何一つ思い浮かばないからだ。
理由としてはアイに対するオレの胸に巣食うどろりとした黒い感情の名前が判明出来ないからだろうか。

執着、憎悪、恋慕、憤怒、あらゆる感情に当てはまるけど違う。
オレ自身も理解できないこの気持ちは一体何なのだろうか。

ズキズキと痛むどこかを無視してヒソカに適当に言葉を返す。

「カタカタカタカタカタ（別にどうだっていいだろ）」