ヨークシン編
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「や、やっと辿り着いた…」
ようやく自宅に辿り着いた安堵からか、ついドアノブに体重を預けてしまう。
どっと押し寄せてきた疲労感からか、このまま眠ってしまいそう。
そこまで家を長く空けていない、なんなら数カ月ぶりなのに。
まるで数年ぶりに帰ってきたような、途方もない懐かしさを感じてしまう。
家に帰るまでに色々あったからな……
若干思い出に浸りながらも、鍵穴に鍵を差し込もうとすると。
ガチャリ
「お帰りアイ。風呂沸いてるから先に入っておいで」
「うん」
勝手に開いた扉の先には、髪を下ろしているクロロがいた。
クロロはリラックススタイルなのか、眼鏡をかけ黒のスウェットとチノパンを纏っている。
言葉を発する前に、風呂場に連行されるように腕を引っ張られた。
言われるがままに足を動かし、クロロの指示にひたすら従っていく。
「洗濯機の横に着替えとタオルが置いてある」と指で指し示すと、クロロは扉を閉めた。
のんびりと服を脱ぎ捨て、浴室の扉を勢いよく開けた。
あったかい……
全身をお湯に浸っているだけなのに、どうしてこうも力が抜けるんだ…
少し温めの絶妙な湯加減に満足していたけど、忘れ去っていた疑問が徐々に浮かんでくる。
まってまって、さっきクロロがいなかったっけ?
外出する前にはきちんと鍵をかけた筈だけど……
過去の記憶を遡ろうとしたけど、のぼせそうなので止めていた。
後で問い詰めようと決意し風呂から出て、用意されていたパジャマに手を伸ばす。
「これ母さんが着せてくるネグリジェそっくりじゃん…」
ワンピースのような姫系ネグリジェなんて購入した覚えがない。
絶対クロロの好みでしょこんなん…
正直、スウェットの方が気が楽なのだが生憎着替えはこれしかない。
仕方なくパジャマに袖を通し、若干イライラしながらもリビングに向かう。
クロロは既にダイニングテーブルの席に着いており、いつものように本を読んでいた。
よくもまあ無断侵入の癖に我が物顔でいられるなあ。
神経の図太さに少しばかり感心しつつ、それとは別に文句を言ってやろうとしたけど。
テーブルの上に置いてある深皿に入っているビーフシチューを、視界に入れてしまってはもう駄目だ。
「どうした席に座らないのか」
「座る」
ぐうう、私が食欲に抗えないの知ってて質問してるな…!!
しょうがない、一旦ご飯食べてから尋ねるとしますか。
席に座り、早速ビーフシチューを早速一口。
うん、肉がほろほろと口の中で溶けて野菜の甘みが引き立つ美味しさ。
むむっ、クロロのやつ腕を上げたな。
メインを夢中で食べていると、途中でデザートのアイスワッフルが出てきた。
熱々のワッフルに冷たいアイスの調和とか神がかりすぎでは?
満足過ぎる昼食を終え、クロロが淹れてきたカフェオレに口をつける。
さて食事も終わったし、ようやく質問が出来る。
怒りをぶつけるようにクロロを睨むけど、あまり効果はなさそうな気がするな。
だって彼は、にんまりと何かを企んでいそうな笑みを浮かべているし。
「ご飯の支度をどうも。で?泥棒はどうやってここに?」
「人聞きが悪いぞ。アイの家に来たら鍵が開いていたから、泥棒が入らないよう家にいてやっただけだ。家事代行サービスの女性にはオレは彼氏だと説明しておいた」
さらっとした顔でとんでもない事を言い放つクロロに、思いっきり顔が引きつってしまう。
なんせ家事代行サービスで定期契約しているあの人……仕事が出来るけど中身は喋りすぎのおばちゃんだ。
ただでさえ普段から質問攻めにされているのに、次に来た時はクロロとの関係性を根掘り葉掘り突っ込んでくるに違いない。
余計な真似をしてくれたな!と文句をぶつけても、クロロには全く響いていない。
そもそも私が文句を述べている間ですら、彼は手に持っている本から顔をあげやしない。
む、カチンとくる態度だな。
そっちがその気なら強制追い出しさせてやっても良いんだよ?
強硬手段に出てやろうと念を込めた左手で、クロロのマグカップに触れてやる。
途端にマグカップが氷の置物になったのに、未だにクロロはこちらを見向きもしない。
喧嘩売っているのかなこの人……
「留守の間いてくれてありがとう。銀行教えてくれたらお金振り込むから、とっとと帰ってくれない?」
「オレのお願いを聞いてくれたら、素直にここから出ていくよ」
「なに?」
「契約の前に内容を語ろうか。オレ達はまだ対等なんだから」
「対等?契約?どういう意味」
「焦るなって。まず幾つか質問させてもらおう。大前提として毎年9月1日。ここ、ヨークシンで何が行われている?」
クロロは意味不明な質問をしつつ、ようやく読んでいた本を閉じて私と視線を合わせた。
信頼と慈愛が混じり合っているような不可思議な眼差しをクロロから感じる。
オールバックの時の“クロロ”が団員を命令するような雰囲気を醸しつつも、“団長”をしているクロロみたいに張り詰めた空気を纏ってないというか。
前髪を下しているだけでこうも印象が違うんだ。
意外だなと思いつつも、クロロの質問に糖分を得た頭をフル回転で動かす。
9月1日…1日?
「わかった。近所のワッフル店の新メニュー発表」
「オークションだ。毎年世界最大の骨董品やら貴重品がこぞってここヨークシンに集まる。本当アイはいつもオレの予想を上回る回答をくれるな」
はいはい、食い意地がはっててすいませんね。
呆れ顔のクロロに舌を出しつつ、すっかり緩くなったカフェオレを飲み干す。
「ふーん、オークションねぇ。古書でも狙うの?それとも曰く付きの骨董品?」
「いや全部だ」
「
「ああ
幻影旅団のメンバー全員が一堂にヨークシンなんて、類に稀を見ない大規模の盗みだ。
ああ、だからマチが天空闘技場に来ていたのか。
旅団メンバーであるヒソカに、招集をかける為のメッセンジャーとして足を運んだのだろう。
「へぇーそう、頑張ってね。私はオークションに参加しないから。君たちで勝手にやってて」
「いいや今回はアイもメンバー入りだ。だからオークションにも参加してもらう」
「はい?」
今この男はなんて言った?
耳を疑う発言に思わず間抜けな声が出てしまう。
そんな私の姿に、クロロはしてやったりとほくそ笑んできた。
「アイは他の団員からの言伝てだと絶対来ないからな。直々にオレが誘いに来た」
「いや待って。勝手に頭数に入れないでくれない?参加するなんて一言も」
「幻プリン」
「ぐうっ!」
「忘れたとは言わせないぞ。数年前そのレシピを手に入れる為にオレを散々こき使ったのを。言ったよな?一度だけお願いを聞くと」
くっそ、クロロめ覚えていたか。
どんなに舌打ちしても、地団駄を踏んでも過去の行いは変えられない。
涼しい顔をしたクロロにせめてもの怒りと一緒に、凍ったマグカップを投げたけど華麗に避けられてしまった。
ううっ、タイムスリップしたい…・・・・
そう、忘れもしない数年前。
ある日、ネットで知った幻プリンというデザートに心をすっかり奪われてしまい。
幻プリンが頭から離れなくて、夜も満足に眠れなくて食べたくて仕方なくて。
いっそのこと家族に頼ろうかと考えたほどだから、相当執着したのだと記憶している。
まあ結論を言うなら当時知り合いだったクロロに依頼をし、かなり苦労したうえで幻プリンをようやく手に入れたのだ。
幾多の困難を超えて、手に入れた幻プリンの美味しさは想像を絶する。
いや味の前に重要なのは口座に振り込もうとする私を止めたクロロの発言だ。
“今回の代金はまだ支払わなくていい。そのうち払ってもらう”
当時はいずれ勝手に振り込めばいいかって思っていたけど……
そのうち代金を支払うのすっかり忘れていたんだった。
そうか、クロロは私の忘れっぽい性格を逆手に取ったのだ。
他人にあまり借りを作りたくない私の性格上、昔の代金を支払ってない落ち度はかなり精神的に大きい。
なけなしの罪悪感がズキズキと痛むほどには。
それを見越してクロロは今回の幻影旅団の大仕事に私を誘ったのだ。
幻プリンの話を持ちだぜば、絶対に断らないだろうという確信をもって。
全てクロロの手のひらの上で踊らされていたのが悔しすぎる!!
屈辱にも近い気持ちから歯軋りをする私とは違い、ムカつくことにクロロはかなり上機嫌そうだ。
心底楽しそうに口元に手を当てて、くすくすと嫌味ったらしく笑っている。
ぎぃ~むっかつく!!
「うるさい!」
「そうカリカリしなくてもいいだろ。あいつらだってアイに会うのを待ち遠しくしてるはずだ。拒絶されてるわけじゃないのに何故そんなに怒る必要がある」
「おひとり様の邪魔をされるのが嫌なの!それに泥棒の手伝いとか、すんごいだるいじゃん」
「泥棒じゃなくて盗賊だ」
「盗みをするんだからどっちも変わらないじゃん!!」
沢山不満をぶつけてやりたいけど、どれだけ駄々を捏ねたって幻影旅団入りは変わらないのだ。
心理的ショックがあまりにも大きすぎて、ついテーブルに顔を埋めてしまう。
いやだ~家から出たくない。
じたばたとテーブルで暴れていたけど、クロロが厳かな声で顔を上げろと命令してきた。
あー、もう腹くくるしかないか。
覚悟を決めて顔を上げれば、目の前には服装が違えどいつもの髪型。
つまりオールバック姿のクロロがそこにはいた。
「さあ、幻影旅団のメンバー入りの儀式をしようか」
無表情ではないけれども、何の感情をも読み取れない不動のような顔つき。
物事を合理的に考えるがゆえに己の死すらあまり執着しない男。
「改めて名乗るがオレは幻影旅団団長のクロロ・ルシルフル。ゾルディック=アイ。今からお前を一時的に幻影旅団の一員としてオレが認めよう」
一方的に仲間入りさせてきたクロロは、友好を築くためか握手を求めてきた。
返事の代わりに、差し出してきたクロロの手を躊躇いなく引っ掻く。
痛みで顔を歪めるクロロの表情に少しだけ胸の苛立ちが収まる。
ふん、ちょっと満足。
「すんごい嫌だけど仕方ない。私、ゾルティック=アイはクロロ=ルシルフルに貸しを返す為、一時的に幻影旅団に加入しよう。手伝うけど、あんまりこき使わないでよ」
「ああ、わかっている」
プチおまけ
「あのさ聞きたくないけど。このパジャマクロロの趣味?」
「いや。服屋でアイに似合うパジャマがないかと探していたら、店員にこれを勧められた。女性の間ではこれが流行りなんだと」
「いい?覚えて。私こういうひらひらした服好きじゃない。次こんな服買ってきたら破り捨てるから」
「ああ分かった。(今着ているのは捨てないのか)」