預けていた荷物を受け取り会場から出るとゴン、レオリオ、クラピカの三人に囲まれた。
腹の傷についてしつこく心配するレオリオに適当な返事を返す。
うるさいので足の脛を蹴り黙らせるとゴンから一緒にキルアを連れ戻さないかと誘われた。
実家に帰るのはちょっと…
ゴンの勢いに引き気味でいると突然誰かからぐいっと手首が引っ張られた。
遠慮なく爪を手の甲に刺してくる人物なんて一人しかいない。
地味に痛いから手を離してくれないかな。

「駄目。アイはオレと帰る」
「お前には関係ないだろ。決めるのはアイさんだ」

ゴンも負けじと骨折してない腕で反対側の手首を掴んだ。
側から見ればド修羅場だろう。
どうでもいいから家に帰らせて……
猛反対するゴンにふっと口角を上げるイルミ。
全力で嫌な予感がして悪寒が背筋を走る。
まさか。

「関係なら大ありさ。こいつはゾルディック家の長女、つまりオレの姉だ」

「「「えええっ！！」」」

やっぱりバラすか。
うんざりとした顔でイルミを見るが彼はしてやったりの顔をしている。
気まぐれで人助けをした私が相当気に入らないんだろう。
大声で叫んだ三人は口をあんぐりと開け私から視線を逸らさない。
こうなったら表情を隠す意味がないのでつけていた面も外した。
ぽかんとしていたゴンから手首を離させてもらい、イルミと共に外に出る。

「ちょ、ちょっと待って！」

追いかけてきたゴンに再び手首を掴まれてしまった。
外で待っているから早くしてよねと訴えかけるイルミに分かったと告げて、改めて息を整えているゴンと向き合う。
追いついてきたゴンもだがクラピカとレオリオも走ってきた。
三人は何故か神妙な面持ちをしている。
怖い顔して一体どうしたんだろ。
謎の緊迫した空気の中口火を切ったのはゴンだった。

「アイさんって従姉妹じゃなくてキルアのお姉さんなんだよね」
「そうだね」
「お姉さんもイルミと同じ酷い言葉をキルアにぶつけたことがあるの？」

同じ事？
はてなんのことだろうと視線に圧を込めているゴンの意図を読み取る。
先ほどの会場でゴンがイルミの腕を折った理由。
イルミの腕を折るほどの怒りに駆られた原因は。
もしかして闇人形うんたらの話だろうか。

「口を酸っぱくするほどじゃないけど。そこそこ」
「なんで？キルアは闇人形じゃなくて普通の男の子なのに！！どうしてそんな言い方をするんだ！！！」

我を忘れて殴ってきたりはしないが悔しさが止まらないのだろう。
顔を俯き折れてない拳を出血するほど握り締めるゴン。
クラピカもレオリオも唇を悔しさからか噛みしめている。

一般人の彼らには暗殺一族が抱える闇なんぞ説明しても分からないだろう。
お通夜の空気となっているゴンたちをこのまま放置してもいい。

でも折角だから実家に来て住む次元が違うと直に知ったほうが三人も納得するだろう。
項垂れているゴンの肩を叩き一応イルミからキルアの居場所を聞いたか尋ねる。
しかしふるふると首を横に振られた。
どうしてこうもイルミは性格が悪いんだろうか。
冷たい弟の代わりに実家の所在地を教えてやるとゴンは僅かに顔を綻ばせた。

「ククルーマウンテンにキルアはいる。所在地は自分で調べなよ」
「そこにキルアが？」
「おいおい山って。山の中にポツンと家が建っている訳か？」
「行けばわかるよ。いっそのこと連れてってあげたいけどイルミは大反対するだろうし。君達だけで訪れてみなよ」

話が終わったので物言いたげな三人を無視して出口まで向かう。

「ねえ！アイさん！」

名前を呼ばれたが振り向かず前を歩いていく。
実家は教えた、行くべき道を示したのだからもう用はないだろう。
立ち止まらない私に律儀にゴンはお礼を言った。

「お家教えてくれてありがとう。それと…さっきは酷いこと言ってごめんなさい！！オレ…アイさんはキルアの味方だって信じてるから！！」

「アイちょっと酷くないか♢短い付き合いの彼らに君の実家を教えてあげるなんて♡ボクには一切教えてくれなかったのに♧」
「ヒソカは例外。別にバレてもあの程度の実力じゃ門前払いされるのが目に見えてる。というか伸縮自在の愛（バンジーガム）解除してよ」

出口に向かう途中の柱で引っ張られたと思ったらヒソカの腕の中で。
陰を纏っていたからすっかり油断した。
腰元を撫でいらんもんを太ももに押し当ててくる変態に頭突きをかますがびくともしない。
正々堂々セクハラしてくるのもヒソカを好きになれない一つだ。
むかついてきたので念を発動してやりたいけど。

ちらりと目線を下げれば両手は透明なガムに括り付けられているのか動かない。
私の能力は手のひらで相手に触れないと発動できない。
やろうと思えば強制的に解除できるが力使うのめんどいし。
仕方なく強制会話に付き合ってやるか。

「ねえアイ天空闘技場の話忘れないでよ♤電話するから出てくれないと…」
「わかった、わかったから伸縮自在の愛（バンジーガム）を解除してよ」

長いこと抵抗していたがまったく抜け出せず。
ようやく満足したヒソカからようやく解放された。
いやこれ試験の倍以上は疲れたんだけど。

重くなった身体を引きずり外に出ると、真っ先にイルミからネチネチと小言を浴びせられた。
ちょっと時間食っただけじゃん。
もう少し姉を尊敬するとかないのかこの弟は。

軽口を叩きつつも改めて辺りを見渡す。
目の前にはゾル家専用のジェット機、そして周囲には執事服を着た使用人が何人も恭しく頭を下げていた。
仰々しいこの感じ、いかにも実家に帰るっていう感じだ。
さてだるいけども家族に会うとしますかね。

「さて実家に帰るとしますか」