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幼少期

「いいか、絶対にスリザリンに入れ。」
男、ヴォルデモートは朝からカイにこれか言っていない。
目が会う度にこのセリフを並べられるのでカイはあからさまにうんざりとした態度で朝食のパンにかじりついている。



昨晩の、優しいヴォルデモートはどこへ行ってしまったのだろうか。いくらヴォルデモートが悪者だとわかっていても、腹の中では決別し一線を貼るほど、カイは大人ではなかった。勿論9つの子供だったからだ。

もしヴォルデモートが、カイのことを四六時中軽蔑し奴隷扱いし、手を挙げるほどのクソ野郎だったら、カイは悪者であるヴォルデモートを間違いなく倒す方法を練るだろう。
しかし、ヴォルデモートはカイの親代わりになって見せたのだ。無論ヴォルデモート本人にそのつもりなんて微塵もない。その事について周りが追求でもすれば彼は怒りに狂うだろう。

ヴォルデモートがカイに対してクソ野郎にならずに済んだのは、理由としてはまずひとつ考えられる。
それは、カイがめちゃくちゃいい子だったからだ。
彼女には、転生前の記憶がある。死んだ年齢は9つ。
そしてハリーポッターの世界に転生してきて、ヴォルデモートに拾われたのは7つの時。
二つの世界を同じぐらい見てきたカイは、自分では気づいていない部分でものすごく優れている。例えば何に対しても落ち着いており物事を客観視でき視野が広かった。
カイは前世ではたくさんの愛情を受けて育ったため、前向きで心優しい。人への甘え方も知っている。自分の意見を持つことが何よりも大切だということも。
そしてこの世に生まれ変わってしまった事で叶わないことは諦め無ければならないことも知った。だからどうしようもないわがままは言わないし、人はみんな違うと知っている。

そう、まさにカイは人間のあるべき姿であった。

ヴォルデモートは今まで子供という存在が酷く煩わしがったのだが、カイはあまりにも特別だったので驚いた。
ヴォルデモートは、もしカイが自分の幼少期のような、頑固で捻くれ者だったら間違いなく殺していると珍しく自虐する程に、カイの人間性は丁度良かったのだ。

そう、丁度いい。

それは転生したといえど思春期という難しい期間をまたいだことの無いカイ自身の無垢さと純真さがそうさせてしまった。
少し、はみ出してはいるものの何とかヴォルデモートの思考に収まってくれる。カイの真っ直ぐすぎるところは自分の手を加えれば、曲がってくれる。子供は裏切らない。

紛れもなくそのやり口は制圧であっても、カイの主導権を握るのはヴォルデモート自身であるため問題は無い。
オマケにカイの魔力はすこぶる強く、将来は有望。



「有益無危害な子供って存在するんだな。」

と、血の通っていない目で死喰い人につい漏らしたこともあったくらいだった。そして、ヴォルデモートの背中に思いっきり飛びつくカイ。そんなカイは彼が言う無危害な子供なのだから、所詮ヴォルデモートも社会的欲求が0だと生きていけない人間だということがここで見てわかるだろう。
ほらヴォルデモートは、小言を言いながらも楽しそうにカイの頬を抓っている。

どうせなら社会的欲求が0のヴォルデモートだったら、カイはこの先苦労せずに済んだであろう。彼の前で能力さえ発揮すれば、あとは文句を言われなくて済んだであろう。

そしてヴォルデモート、彼もまたそんな自分の人間すぎる特性に気が付きカイの事を道具として最初から一線を張って置けば、彼にとってカイはそのまま"有益無危害な子供"のままであったのに。




話を戻そう。


そう、カイがなぜこんなにヴォルデモートに「スリザリンに入れ」と口うるさく言われているのか。
それは、カイが11になりホグワーツへの入学が決まったからである。一般の魔法使い、魔法省さえも知らないヴォルデモートの屋敷に住む彼女がどうして入学出来たかと言うと、ダンブルドアが直接ヴォルデモートの元を尋ねたからである。
流石のダンブルドアでもヴォルデモートの屋敷の場所は知らないにしろ接触ぐらいは図ることが出来る。
ダンブルドアは、カイの存在に目をつけていた。
なにせ、不可解に起こったマグルの空き家での未成年魔法使いの魔法足跡確認と、その後マグルには一切記憶に残らぬよう姿を消したカイ自身の存在をダンブルドアは認知していたからである。

そんな、カイがヴォルデモートの所に身を寄せていると知った時は、さすがのダンブルドアでも少し頭を抱えた。
魔法界の闇の部分と言ってもいいヴォルデモートが孤児を引き取ったとなると、子供の身の心配を案じて色々な不安が頭をよぎるのは当然の事だ。合わせてダンブルドアはもっと先のことを見ているだろうが。


だから、ダンブルドアは自分に身の危険が起ころうが何としてもカイをホグワーツに入学させて、そして魔法界の安全を守らなければならなかった。そして、カイも。

肝心の親権者であるヴォルデモートは、ホグワーツという学び舎がどれほど、子供に影響を与えるものなのか知っていたので、単純に首を縦には振らなかった。自分の元で従順に育ったカイが変な思考に染められしまいにはダンブルドアのような人間を崇拝でもすれば困るからだ。

しかしダンブルドアは、「マグルに不正に魔法利用をした疑い」「未成年誘拐の疑い」「その他もろもろ」など証拠と共にありとあらゆる脅しをかけてきたので、さすがのヴォルデモートは言い逃れができなかった。いつもダンブルドアの戦略が1枚上手なのは変わらずのことで、ヴォルデモートはさらにダンブルドアの事が嫌いになったのだった。
どさくさに紛れてヴォルデモートは、「自分が教職をとる」と言い始めたので、ダンブルドアは「身内がそうなるのはあまり良くないことなんじゃよ」と、売り言葉に買い言葉を並べて断った。

そしてまんまとカイをホグワーツ入学に持ち込んだダンブルドアが帰った後ヴォルデモートは「あのジジイさっさと野垂れ死ね」と怒りに身を任せ花瓶を割ってしまったのだった。
そんなヴォルデモートにカイは「ヴォルデモートもカイにとってはおじさんだよ〜」と思いっきり水を差したので、死喰い人のアブラクサスが急いで彼女の口を手で塞いだのだった。


「まあ……せめて、スリザリンにでも入れば大丈夫だろう?
私達もそこで育った訳だし、やはり一人前の魔法使いとして学ぶには間違いでは無い。」

アブラクサスが冷静にそう言うのを、ヴォルデモートは鋭い目付きで見る。

「そのスリザリンに簡単に入れるなら、俺は今こうして取り乱すこともないだろうな。」

その怒りに満ちた目線の先で、一心不乱に風船で遊ぶカイを見てアブラクサスは苦笑いをした。

「カイは……元気だからね。
でも彼女は賢いしなにより卿、君という存在にゾッコンなわけだから間違っても……うん。大丈夫さ。」

「アイツが男なら問答無用でダームストロングに入れれたのにな、面倒だ。おい、カイ。」

ヴォルデモートは、カイの風船を杖でバチンと割って見せた。


「ああ!!!!」



「いいか?ダンブルドア、さっきの奴の言うことは全てデタラメだ。陥れるための罠だ。アイツは俺の敵だから絶対に耳を傾けるな。」

「敵なの?なんで?」

ヴォルデモートは、諭すようにして一気にそう言葉を並べた。
カイは風船を割られたこともあってか少し納得のいかない表情を浮かべている。それが彼を余計に腹立たせた。

「アイツは、マグルがどれだけに野蛮なのかを分かっておらず、それどころか俺たちの生活にその野蛮人を侵食させようとしている。
ということはお前が、あのジジイを信じることはどういうことだか分かるか?」

カイは、黙ってしまった。ヴォルデモートの目が少し赤くなってきているのが分かったからだ。ヴォルデモートは、マグルが嫌いだ。マグルの話をするとき決まって彼は怒っているが、今のヴォルデモートはその時と比にならないほどに恐ろしかった。


「俺への裏切りだ。」

カイの背中がゾクッとした。

カイも実際のところマグルが自分の前世であり、大好きな両親であることを知っているからこのヴォルデモートの言葉を半ば流せているものの、ヴォルデモートのこの目と、自分を怪物だと言って去っていったかつての孤児院の仲間を思い出すと、この世界のマグルは害悪なのかもしれないと、どこかで考えている。
だから、ヴォルデモートも隣に立つ死喰い人のアブラクサスもカイにとっては正常のように思えてくるのだ。


だから、カイは純血主義のスリザリンに入ろうがそれがヴォルデモートの望みならば仕方がないと思っている。
それが、彼女の生きる道なのだから。
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