このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

【短編】ハリーポッター成り代わり!

やはり、落ち着かないらしい。
シリウスは先程から同じ場所を右往左往している。その度に、革靴がコツコツと音を立てていた。おまけに頭まで掻いてしまうので、せっかくセットしたシリウスの髪の毛は少し乱れて、前髪が目元に掛かってしまってる。

そんな時、ガランと重みのあるチャイムの音が鳴った。シリウスはその瞬間、待ってたという顔をして玄関に向かって足早に歩き出した。
シリウスはドアスコープから覗く事もせず勢いよく、重い扉を開けた。

「……やっと来たな!!」

客人は、案の定彼が待ち望んでいた人物だったようだ。

「どうしたんだい、シリウス。
そんなに私に早く会いたかったのかな?」

そう朗らかに言って笑って見せたのは、白髪混じりの髪の毛と顔の切り傷がトレードマークのリーマス・ルーピンだった。

「あぁ!それはもう早く会いたかった!
あまりの居た堪れなさでわたしは死ぬところだった。」

シリウスはそう言って差し迫った表情でリーマスを中に入るよう背中を押した。
なされるがままのリーマスが、それは少し見たかったといつもと同じく優しい笑顔でボソッと呟いた声すら、彼の耳には届いていない。

「で?何をそんなに慌ててるの?」
「ムーニー、分かってる顔して聞くのはやめろ!」
「さぁ、僕は何も知らないよ。」

かつての旧友ならば合えば1分で砕けた口調になるらしい。壮年のイギリス紳士2人が互いに押し問答をしながらキャピキャピと洋館の廊下を歩いていく姿はなににも例え難い。

「もう喧嘩でもしたのかい?」
「あぁ、それだったらどんなに良いだろうな。」
「今の君なら、どんなに自分が悪くなくてもあの子に慌てて謝り倒すだろうね。って、かつてのプレイボーイの名が傷付いちゃうか。」
「……お前はこういう時本当に嫌な奴になるのを忘れていたよ。腹黒狼なんていい歳こいてやめてくれ!」
「あ、そんなことを言うならわたしは帰るけど。」
「あー悪かった帰らないでくれ!!」

そんな2人は、正面からやってくる少女に全く気がついていないようだ。いや、リーマスは気が付いていたかもしれない。


「やっぱり仲良しなんだね、2人は。」
そう爽やかな笑顔を浮かべる少女は、リジー・ポッター。ヴォルデモートを倒した魔法界伝説の女の子だ。
冒頭から落ち着きのないシリウス・ブラックは何と彼女の後見人だ。だからシリウスとリジーは一緒に暮らしている。



「やぁ、リジー。」
リーマスは、余裕のある笑顔でリジーに手を振り挨拶をした。すると、先程まで少しすました顔をしていた彼女の表情は一気にお転婆になり、リーマスの方に足早に近づいた。

その時少しリジーが両手を広げた事をリーマスは見逃さなかった。
「まさか、ルーピン先生にこんなに早く会えるなんて思っても見ませんでした!」
リジーは後ろに手を組んでそう言った。

「そうだね、とても嬉しい。
だけどリジー。私はもう先生じゃないよ。」

そっかと呆気に取られような表情を浮かべるリジー。

「友人でいいんじゃないかな。
だから、再開のハグだってもちろんおかしくない。」

そう言ってリーマスは両手を広げた。リジーは、少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔になりリーマスの背中に手を回しハグをした。

「そっか、だからシリウスはずっとソワソワしていたんだね。ルーピン先生……じゃなかった、えっと。」
「リーマスでいいよ。」
「リーマスが来るから!」
「そうじゃないと思うよ、リジー。シリウスはね」
「おいリーマス!!!」
「そう怒らないで、シリウス。 リジーがびっくりしちゃうだろ?」

また始まりだしそうな2人の掛け合いを見てリジーはまた笑った。

「なんかモリーおばさんとアーサーおじさんを見てるみたい。よくやる夫婦喧嘩そんな感じだよ。」

リジーがふざけた風も無くあまりにも自然にそう言うので、リーマスは勢いよく吹き出してしまった。
「やめてくれあんな!ド・ラブラブ夫婦と一緒にするなんて!」と、シリウスはとても不服そうにそう言ったが。


リーマスが来るとシリウスは客室に案内し彼とリジーに紅茶を入れた。リーマスが、マグルのお気に入りの店で買ってきた、と言うチョコレートケーキはあまりにも甘く、シリウスはほんの少しだけ顔を顰めた。

「甘すぎる…もう私たちいつ禿げてもおかしくないんだから、砂糖の過剰摂取には気をつけたほうがいい。」
「そう?凄く美味しいけど。」
「だよね、リジー?
君の舌が老けてそう感じるのさ。」

3人は、そんなたわいもない会話を交わしながら午後のひとときを過ごす。リジーはシリウスと一緒に暮らし始めてから初めて見るシリウスの自然な笑顔を見て少し安心した。しかし、気付かないふりをしたいけどそこでネガティブな感情が生まれるのも事実だった。

しばらく立った後シリウスは、リーマスにディナーを振舞おうとキッチンの方に向かっていった。リジーとリーマスが手伝うと名乗り出たが、シリウスは強引に断った。リジーに至っては未だかつて、キッチンに立たせてもらったことは無い。ちなみにクリーチャーは、ほとんど納屋に籠りっぱなし。
いいから、座って待ってろというシリウスの言葉にねじ伏せられてしまうのだ。



だから、その間リジーはリーマスに自分のパトローナス、守護霊の呪文を見せるべく2階の空き部屋に入った。去年守護霊の呪文の特訓をリーマスからして貰っていたが、肝心の完成形をまだリーマスに見せられてていなかったからだ。


「まさか君もジェームズと同じだとは思わなかったよ。綺麗な牡鹿だ。」
「だから、父さんと一緒でとても嬉しかった。
だって、いつも守られてるみたいでしょ?」
「いや……本当に君を守ってるよ。
ジェームズは、そういう奴だったからね。」

リーマスは、優しいけど意志のある瞳でそう答えた。
こんなにもハッキリ言って貰えるとリジーはとても心強くなった。

「リーマスも一緒に暮らせたらいいのに。」
「え?」

リジー自身も自分の言った言葉に驚いているようだった。なんの思いもなしにポロリと出た言葉だったからだ。リジーは、少しあきらめるふうに説明を始める。

「だって……、リーマスが居た方がシリウスも楽しそうだもん。それに、心から頼りにしてる。」

リジーは自分が履いているサンダルのつま先を見つめながらそう言った。
その言葉を聞いてリーマスは、自分のためと言えど厨房にいるシリウスの元へ乗り込みたくなってしまった。ほら、きみのヘタレな態度がこんなにも可愛いリジーを悩ませてるでは無いか、と。

「どうして……そう思うんだい?」
リーマスは、理由がわかっているにも関わらず甘く優しい声でリジーに尋ねる。

「とにかく、シリウスは優しいの。家の事なんでもするし、やらせてくれない。それに、どれが欲しいとか困ったことはないかとか私を凄く気遣ってくれる。」

「....それは、いい事じゃないのかい?」

「良くないよ!これじゃあまるで私はワガママな家の子供じゃない!?」

「そんなこと言ったって君はちゃんと子供だし。」

「そうかもしれないけど、私は別に甘えたくて守って欲しくてシリウスと家族になった訳じゃない。……むしろ守りたいと思ってる。」

「……今、また子供なのに何か言ってるって思った?」

「思っていない。子供って言って悪かったね、さっきは。」

リーマスはそう言って、リジーの頭をぽんと撫でた。
そしてソファに肩を並べて座るようにリジーを誘導した。ソファは2人の重みで沈んでいるが、それと同時にリジーの心も沈んでしまった。


「シリウスは、どうして私を引き取ってくれたんだろう。荷物になるかもしれないのに。もしかしたらもうすでに…。」

悲観的なリジーの肩に触れたのはリーマスの手だった。

「リジー。シリウスは同情で引き取るやつでも一時の興味本位で引き取る奴でもないさ。彼は君に会うために脱獄したようなものなんだから。
……それに。君は荷物でもペットでもない。リジー・ポッターだ。必要とされるために誰かになろうとしなくてもいいし、それこそリジー・ポッターが誰かの真似事をすることなんてシリウスは求めてはいないよ。
頼られるために僕の真似事をすることも彼には論外なはずさ。君は君だから愛されるんだからね。」

リーマスはそう言ってにっこりと笑った。
その言葉だけでリジーの心がじんわりと暖かくなるのが分かった。

「ふふ、ありがとリーマス。……わたし、余計なこと考えてた気がする。家族って別に焦ってなるわけじゃないもんね。」

リジーは自分に言い聞かせるようにして少し声をはりあげた。彼女の顔はいま心無しかスッキリとしている。

「シリウスの態度があまりにもよそよそしいから不安になったんでしょ?リジー。」

「……リーマスってスパイか何か?」

リジーはあまりにも図星だったのだろうか、目を見開いている。一方のリーマスは少し悪巧無用な顔をして、自分の顎に手を置く。

「残念ながら、ただの人狼だよただ、何となくだよ。あぁ、可哀想なリジー。もういっそ僕ら2人で暮らすかい? 」

リーマスはそう言ってリジーの顔をのぞき込むが、彼女は全く分からないというような顔した。

「ただの人狼はノリでそんなこと言いませーん。」
「ハッハ!!!リジーはそうでなくっちゃ!!」

リーマスが、大爆笑をしているところに突然激昂した黒い犬が飛びついて行く。
そして、その犬はすぐに人間にもどった。

「俺がいない間に、好き勝手言ってくれるな!!!」











シリウスが振舞った夕飯を食べ終え、まったりと団欒しているところだ。
リーマスと沢山話した事が嬉しかったのか、リジーはそのままソファーで眠ってしまったので、シリウスはリジーを起こさないようにそっと毛布をかけた。
そんな様子を見ながら、リーマスはシリウスが出してくれたワインを呑む。

「リジーは、本当に面白い子だね。」
「……抜けてるのか賢いのかよく分からない。」

シリウスも、ワインのコルクを開けてグラスに注いだ。グラスの半分以上注がれたので、リーマスは少しだけシリウスを咎めた。

「わたしは、ジェームズよりも賢いと思ってる。」
「ジェームズの賢さは意地汚さもあるからな。」
シリウスはそんなことを言いながらもかつての故人を慈しむ。

「シリウス。」
「なんだ?」
「君はいつまで、リジーによそよそしい態度を取るつもりなんだ?」

リーマスの口元は笑っていながらも、その目はどこか冷たかった。

「リジーはね13とはいえまだ子供なんだよ。身近な大人がとる態度1つで、子供はすぐに不安になって自分が悪かったのかなんて考えてしまう。君も親友の子と、ましてや親代わりとなって暮らすなんて初めてのことで不安で上手く出来ないのも分かる。けど、リジーの気持ちを考え天秤にかけたらどちらが懸命か……分かるだろう?」

シリウスは、リーマスから目を逸らした。そして、少し長めの息を吐いた後ポソリと呟いた。

「……緊張するんだ……。」
「……は?」

目の前でいじらしそうな顔をする男を見てリーマスはは地声が出たあまり自分の喉がなるのが分かった。
無駄に顔が良いシリウスから、発せられる言葉のしょうもなさにリーマスは拍子抜けをした。

「俺がリジーの年頃時期、あの年の女の子とどう接していた?考えれば考えるほど分からない。ただ、あの子を守りたい一心で引き取るって、長年の夢が叶ったけど、その先のことなんてわたしには何一つ想像が着いていなかった。」

「……リジーほどタフで接しやすい思春期の女の子はいないと思うけど……。」

「……?リーマスはあの子の顔をちゃんと見れるのか?わたしには見れない!」

「いくらでも見れるさ。ジェームズの髪の毛でリリーの顔な女の子だ。何回見ても不思議な気持ちになる。……まさか君。」

リーマスはそう言って大きく仰け反るような仕草をする。シリウスはいっぺん言ってしまえばだがが外れたのかワインをグイッと飲んだ。

「可愛さに耐えられない!」
「リジー、逃げよう。」

リーマスは青い顔をしてスクッと立ち上がり眠るリジーを起こそうとした。
「まて!違う!」
「親友の子供をロリコンに預けていられるわけないだろう!!」
「違うんだって!!断じてこれは親心だ!!

シリウスは、必死な目でそれを訴えるので、リーマスはシリウスを心底蔑んで見る。

「あんなに、優しくて可愛くて賢くて可愛くて面白くて可愛い子が存在しても良いのだろうか?予想以上に可愛い。可愛すぎてもう、上手く話せない。思考が止まる。こんな子と暮らせる俺はもう幸せ者すぎてジェームズ達に罪悪感すら湧くんだ。」

「シリウス。……親心って解釈で……間違ってないよね?」

「ああ、これが親心なのか。
たった1週間でこうだとは俺は親としての素質半端なくないか?というか世の親ってよく心臓が持つな。」

「……無駄に心配して損したよ。何だがわたしは酷い思い違いをしていた。てっきり、わたしは子育ての方法がわからずによそよそしいのかと思ったよ。」

「子育てしてる感覚はないな。後見人って言ったってほら、リジーは俺の子供じゃないし、賢いし可愛いし。そうか、だから余計に接し方が難しいんだよ……!」

「……また雲行きが怪しいな。」

「ほら!寝ているだけでこんなにも可愛い!」

リーマスはヘタレながらも思ったより楽しく過ごす親友の様子に安心する一方、何かあるとまずいので定期的な訪問が必要だとリジーの寝顔を見ながら強く決心するのだった。
「リジーの結婚とか許可できる自信が無い」とワインのせいで真っ赤な顔をしたシリウスがボソッと呟くのを聞いて、リーマスはこれも親心だと言い聞かせるのであった。
4/5ページ
スキ