【短編】ハリーポッター成り代わり!
アズカバンの囚人ーシリウス・ブラックは無罪放免
「さあ、どかせてやる、どけポッター!!」
まずい……スネイプが怒り狂っている。
このままじゃ事実も分からないまま、シリウス・ブラックは殺される所かルーピンはスネイプにねじ伏せられいなくなる。ブラックはおろか、ルーピンが罪に問われるにはあまりに現実味にかける。
スネイプの怒りは殺人鬼を前にしているからでないと、リジーは読み取った。
リジーはスネイプを見て自分が冷静になるべきだと、スっと深呼吸をした。
「いつもは、あなたが冷静だ、スネイプ先生。」
「この状況で誰が落ち着ける?殺人鬼だ、貴様の両親を殺した男だポッター!!!本当になら今すぐにでもこの場で息を絶やしその面を見たい所を、我輩は……」
「だから、スネイプ!わたしは殺していない!
すべて、あのネズミが!!」
「黙れ!この期に及んで、混乱を招きあの薄汚いネズミに罪まで押し付けるとはな。しかし、我輩は見抜いていた貴様がそうであろう人間であることを。あんな場所に何年もぶち込まれてもとより低俗で下劣な頭がもっとイカれた様だな!」
「ああ、変わっていない!その汚い口も話を聞かない小さな脳みそも!」
あぁ、もっとヒートアップしてしまった。
「インカーセラス!!」
「エクスペリアームス!!」
とうとうスネイプが杖を振りあげようとしたところを、リジーが制止すべくインカーセラスを唱え、なんとロンとハーマイオニーが同時にスネイプの武装解除をした。そのおかげでスネイプは、床に尻もちをつき動けなくなり武装解除され、いわばリーマスと同じ状態だった。
悔しみと憎悪に満ちた目でシリウス・ブラックを見つめるスネイプに向かってリジーは静かに話し始めた。
「今のスネイプ先生はあなたじゃない。私が知っているスネイプ先生はもっと冷静で静かな人。」
リジーの穏やかな口調に、スネイプの眉間のシワはほんの僅かにだが薄くなった。
しかしまた吠えた。
「貴様に何が分かる!!」
スリザリン贔屓が激しく、親の名だけでグリフィンドールを減点してしまう公正には程遠いスネイプが、冷静で賢いだなんて本当はそんな事ミリも思ってはいないリジー。
だけど、ここは一つスネイプに話を聞いてもらわなくてはならない。あまりにも、スネイプは過去に縛り付けられて普段の冷徹さを失ってしまっている。
それが何故なのかは分からない。
だって、なぜ私の父を憎んでいながら、私の父を殺したシリウス・ブラックをそんなになって怒鳴るのかが分からなかった。
いまは嘘に方便でもいい。
とにかくスネイプを落ち着けて最悪の事態を避けないと。
「現にピータぺティグリューは地図上にいて、このネズミは怪しい。私はそんな事実を前にしてる。ルーピン先生が犯人と言うにはあまりにも不十分すぎる。
それは、賢いあなたになら十分にわかるでしょ?」
「疑わしきは罰せずか?いや、反対だ。貴様はまだ子供達だからそんなことが言える。何も知らないからだ。」
「そうです。わたしは何も分からない、子供だから。両親がなんでヴォルデモートに殺されたのか、なんで私が生き残ったのか、なにもかも。」
リジーのその言葉に皆が静かになった。
「ここに来て、私は人から聞いた話でヴォルデモートを憎んだ。酷いやつだと思った。
そして今度は、シリウス・ブラックがパパとママを裏切ったその話だけが何も知らない私の耳に飛び込んで来た。そしてなにもしらない私をみんなが守ろうとした。」
「そうだ、奴はそのみんなが言う通り貴様の両親を裏切り人を殺した。」
「でもそれは、誰が見たの?あなたが見たの?」
そう言うとスネイプは、キリッと歯を食いしばり押し黙った。
「ヴォルデモートが親を殺したことは私はここに来て自分の目で分かった。事実だった。あいつはそれに自分の口でそう言った。最低だった、この手でいつか絶対に殺したい。」
ロンは先程から、容赦ないリジーのヴォルデモート連発に目をギュッと瞑っている。
「だから、ちゃんと恨めるようにわたしはこの目で今から新しい事実を見たいと思う。
だって、決められた真実に取り憑かれるのはあまりに……怖い……私はやっても無い事に何度も去年疑われたの。」
リジーのその言葉にスネイプはようやく睨むのを辞めた。
「わたしはわたしだけの事実が知りたい。何通りもあるの真実よりもずっと。
だから、一緒に見て聞いて欲しい、スネイプ先生。私が知らない真実を知ってるあなたにだからこそ。」
「もういい、面倒だ。だが、杖は返せ。」
「え?」
「もし話の途中少しでも奴らが不審な動きをし逃げ出しようものなら、その時は吾輩が容赦なく抑えディメンターに引渡す。」
スネイプは、わざとらしく不服そうにそう投げかけた。
「はい!!」
リジーは、満面の笑みで返事をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「リジー、君は聡明だね。」
シリウスは、スネイプの体を宙吊りにしながらリジーに話しかけた。しかしその表情は複雑そうだ。
何故、スネイプが宙を浮かび、シリウスは複雑な顔をしているのか。
スネイプは、事実を知った。ピーター・ペティグリューは事件の関与を認めシリウス・ブラックが免罪だったと言うことも。それがたとえどうしようもなく信じたくない真実だったとしてもそれが惑うことなき事実だったので認めざるを得なかった。
なのに、どうしてスネイプはこうなってしまったのか……。
答えは簡単。スネイプがシリウスに嫌味を言いスネイプにシリウスが嫌味を言ってしまったからだ。
またしてもヒートアップしたスネイプを、今度はハーマイオニーがあっさりノックアウトしてしまったのだ。
「わたしも君見たく冷静になれたらどれだけ良かっただろうか。」
「はは……」
そう自嘲するシリウスをリジーは力なく笑った。
「君の冷静さが本当に幸をそうした。
これがどういうことか分かるかい?」
リジーは、シリウスの言うこれがなんの事かさっぱり分からず首を傾げた。
それよりも、宙吊りにされるスネイプがあまりに滑稽なのでついそちらに気が取られる。
「ぺティグリューを引き渡すということが」
そしてシリウスのこの言葉でリジーは要約ハッとした。
「あなたが自由の身になる。」
「そうだ。しかし、それだけでは無い。
誰かに聞いたかも知れないが……わたしは君の…リジーの……。」
シリウスは、途端にまごつきだす。
そしてルースの顔を見ようとしなかった。
リジーはその先を何故か言おうとしないシリウスを不審がり、代わりに呟いた。
「後見人でしょ?聞いたよ。」
リジーがあまりにも、なんて事ないように言ったので少しシリウスは拍子抜けした。
「えっ、あぁ、そうだ。そうなんだ。だから、もしジェームズ達の身に何かあればと……だから……」
シリウスがこの先言おうとしていることは、自分には数え切れないほど待ち望んだことだ。家族同然の人と暮らせる、それも父の1番の親友と。
今はあくまで予想にしか過ぎないが、リジーは胸の高鳴りを抑えるのに精一杯だった。
「……だから……。何か困ったことがあったらいつでも駆けつける……。
リジーの予想は外れた。
今までの自分なら、こんな言葉も飛び跳ねるほど心強かっただろうが、予想していた分落胆は大きい。
困った時に駆けつける……そんな言葉はおまじないに過ぎないことぐらい今までの辛い幼少期の中で幾度も味わってきた。
そんな、リジーの落胆になんてちっとも気づいてない様子でシリウスは妙に流暢に今度は語った。
「その……君は今までそうだ、マグルの親戚たちとかとその人たちと一緒に暮らして……困る事なんてわたしが出来ることなんて、あるかどうか分からない。けれどわたしは君の後見人だから。君に何かあれば、僕はいつでも味方になる。いや俺は死んでもいい。」
シリウスは最後は妙に自信の着いた口調で言い放ち、リジーを見た。けれどリジーの反応は妙に冷めきっており、先程のキラキラした瞳はどこか沈んでいる。
もしや……死んでもいいだなんて、年頃のこの前で気持ち悪いことを言っただろうか、いや本心なのだが。シリウスはそう内心で焦りながらも、必死でリジーがこうなってしまった理由を探す。
「……死んでもいいだなんて。
残された身にもなって欲しい。」
「……え?」
リジーはシリウスを追い越す。
その表情は見えなかったが、声は芯があるようでどこか震えている。
「困った時に駆けつけて死ぬくらいなら、いつでも私から逃げていいから、いつでも私のそばにいてほしい。」
シリウスは、リジーの小さな背中から目が離せなかった。その背中は小さいけどちゃんと意思も葛藤もある人であるということをシリウスはこの時初めて気がついたのだった。
そばにいてほしい。
その言葉が自分に向けられたものなのか分からないが、シリウスはリジーから出るその言葉だけで自分の心が暖かくなるのが分かった。
「ああ本当にすまない。死ぬなんて君に言うとは本当に無神経だった。いつでも君を見守ってるよ。そうだ手紙も送って欲しい。わたしも送る、月に……いや週に一度は必ず。」
「週に1回でも足りない。だってシリウス・ブラックさんはリジー・ポッターの後見人だから。」
リジーは無邪気にそう言って笑った。
あまりに久々の感覚に動揺のせいで、シリウスは、宙に舞うスネイプの頭を、ゴッッッ!!とものすごい音を立てて天井にぶち当てた。しかし、シリウスはそんな事、気に求めなかった、いや気がついていなかった。
しかしその後は、リジーは期待が破れた事への落胆も、シリウスのそんないじらしい動揺も、抱えている暇は無くなってしまった。
「どうしましょう!先生、今夜はあの薬を飲んでいないわ!!」
ハーマイオニーが高らかに叫んだ。
リジーはハッとしてリーマスの方を振り向くと、彼は月との狭間でワナワナと震えている。
不味いことになった。
「やめて!!!リーマス!!!」
リジーは喉が着れそうな程に大きな声でそう叫んだ。
しかし、そんな声は彼にはもう遅い。
代わりにと言ってはなんだが、その甲高い声に目を覚ましたのは宙ずりのスネイプだった。
彼は要約長い眠りから目を覚ました。
「なんだこれは!!」
例え目が覚めて宙吊りな状態になっていても、今は誰も説明などしてはくれない。
「逃げろ!!!」
シリウスはそう叫んだが、リジーはロンがぺティグリューとリーマスに繋がれたままなのを見つけた。リジーはどうにかロンを助け出そうと思わず前に飛び出すのを、シリウスが方手でリジーの腹を抱え込み静止した。
「わたしに任せて!いいから逃げるんだ!!!」
リーマスは、恐ろしい唸り声を上げあれよと言わんばかりに獰猛な狼人間に変化した。
シリウスはそれに対峙すべく、黒いグリムに返信した。ハーマイオニーもロンも皆がそちらの恐怖に気が取られる中、リジーはロンの横で明らかに目線を泳がせるぺティグリューに気がついたのだ。
「エクスペリアームス!!!!!」
しかし、遅かった。ぺティグリューは自ら出した先行を浴びたあと、あっという間に彼の服の抜け殻が草っ原に落ちた。最悪なことが起きたとリジーは思った。
「ぺティグリューが!逃げた!!!」
リジーはそう叫ぶ。
犬のシリウスの背は血だらけだが、リジーのその声に反応してまた校庭の方に去っていってしまった。
「だれか、吾輩を降ろせ!!」
もう本当は幾分前から目を覚ましたであろう彼が少し遠くでそう叫んでいるのが聞こえた。
ハーマイオニーは、負傷して立てないロン元に駆け寄る。
リジーはスネイプにかかっている浮遊呪文を解き、地面に下ろした。
そして、懇願するような目でスネイプを見た。
「アイツ……ピーター・ペティグリューが逃げた……シリウスは血だらけで、ルーピン先生は人狼になっちゃって……」
「ああ、見ていた。ルーピンが人狼になる所からしっかりとだ!」
混乱するリジーを、怒っているのかなだめているのか分からない口調でスネイプは言った。
すると、暗闇の方からキャンキャンと苦痛を訴える犬の鳴き声が聞こえてきた。シリウスだ。
「お願い!スネイプ先生!ピーター・ペティグリュー……あのネズミを探して!奴が逃げたら全てが台無しになるの!」
「知らんな……吾輩には関係が無い。第一ブラックがあんなことを言わなければ……「お願い!貴方しか頼れる人がいないの!!」」
必死なリジーの懇願の瞳にスネイプは思わず方を強ばらせた。泣きを見るような目で訴えてくるリジーの声が一つ一つギュッと心臓を握り潰すかのように胸に響いた。
「あんなネズミなんて小さくてとてもじゃないが「先生ならできます!!!!」」
そう言いリジーはスネイプの手をギュッと握った。
「……みんなの未来がかかってる。
過去の因縁も……。奴はまだそう遠くはない。
だから、お願いします。」
今はスネイプに望みをたくそう。
とにかく今は…シリウスを助けなきゃ。
リジーはまだ何かを言いかけるスネイプの声を遮るように手を離し暗闇にかけていった。
「煩わしい!」
スネイプもまた、苦虫を噛み潰したような顔をして暗闇の方に消えていったのだった。
✱
「やったぜ!!!」
朝からロンの高らかな歓喜の声が大広間に響き渡る。
:シリウス・ブラック無罪放免か 釈放
魔法大臣コーネリアス・ファッジはコメントせず:
ハーマイオニーが握り締めて持ってきた日刊予言者新聞にはこう綴られていた。
リジーはその文字を見た瞬間全身の力が抜けていくのがわかった。ハーマイオニーはそんなリジーに抱きついて喜び彼女の安堵に満ちた表情を見て少し感極まっていた。
「……もう一度同じことをしろって言われても上手くやる自信が無いわ、私。」
「わたしもだよ、ハーマイオニー。」
ロンはなんの事だろうか?と思ったが、ようやく良くなった自分の足をシェーマスに叩かれてその事を忘れてしまったようだ。
シリウス・ブラックの釈放。それはとても長い道のりだった。
一言で言うと、最初は上手くいかなかった。
あの後、大量のディメンターがリジーとシリウスを襲った。そして、謎の1匹の牝鹿に助けられたかと思うと、リジーは意識を手放した。
そして目が覚めるとリジーは医務室。
シリウスは、フリットフィック先生の事務室に囚われているらしかった。ここまで来れば、シリウスにディメンターの接吻が施されるか否かは全てはスネイプにかかっていた。
しかし、彼は帰ってこなかった。
ピーター・ペティグリューを捕まえ損ねてなのかは分からない。
リジー達は魔法大臣のファッジ達に、証言者にスネイプがいること、そしてピーター・ペティグリューを連れて戻ることを必死に弁明したのだが、たかが13の子供の意見は魔法省に聴き貰えず、なんの証拠も残せなかったからだ。
マダムポンプリーに抑えられるほどファッジに牙を剥くリジーの耳に届いたのは、スネイプが気絶して見つかったとの連絡だった。
彼が目を覚ますまで待てばいい、そう述べても魔法省はそれまでにあの凶悪犯を生かしてはおけない、それにスネイプの証言を聞いても証拠が無いので意味が無いと言い、結局全てが無駄じまいになむてしまったというわけだ。
絶望するリジーとハーマイオニーにダンブルドアは、タイムターナーを使うよう間接的に仕向けてきた。
時間を巻き戻すことが出来、ハーマイオニーが全単位を取るべく使用していたものらしい。
それがあるなら……。
せめて、シリウスブラックを逃がすことができたら彼は死ななくて済む。8回の上空から彼を逃がすことが出来るのは現時点、ハグリッドが手懐ける処刑予定のバックビークのみだろう。
目標は魔法省が来る処刑時刻より前に、バックビークを解き放ちその後にバックビークでシリウスを逃がす。
誰にも見つからないように、それが条件であることを飲んだ上、ハーマイオニーとリジーはもう一度やり直シリウスを救うべく時空の旅に出た。
もう、てんてこ舞いだった。
バックビークを逃がすのには、相当な頭を使った。
しかしその後バックビークが人狼になったリーマスからリジー達を救ってくれた。
そして、何より予想だにしていなかった収穫が起きた。なんと、スネイプはピーター・ペティグリューのしっぽをつかんでいた……すなわちネズミ姿のピーター・ペティグリューを見つけ出しアニメーガスを解いたのだ。
この姿を木の影から目撃した時は、ハーマイオニーとリジーは思わず2人から姿をバレそうになるほど歓喜で大声を出してしまいそうだった。
しかし喜ぶ間ではない。ピーターは逃走しスネイプは気絶して発見されたのだ。この後きっとそれが致命的となる何かが起こる。
つかの間、ピーター・ペティグリューは人間の姿のまま再び逃げ出そうとした。しかし彼は足を踏み外し山の斜面から滑り落ちそうになる。
スネイプも焦っていたのだろうか…思わず振りかざした杖をピーターは滑り落ちそうになる体制のまま掴み取った。
ピーター・ペティグリューがその隙にニヤリと笑ったのでデジャブかと思った程だった。
なるほど、再度動物もどきを。
さっきはエクスペリアームスで失敗した。
となると……ハーマイオニーも考えることは同じだったようだ。
「「インカーセラス!!!」
間一髪でピーター・ペティグリューがアニメーガスを唱えたが、2人の呪文の力の方がはるかに上だった。
ピーター・ペティグリューの動きはネズミのまま固まり、そのまま宙を舞っている。
スネイプは、目の前で起こったことが一体どうしたことか分からず2度3度目をぱちくりさせる。
しかし、深く考える間はないと思ったのかその後気を引き締めピーター・ペティグリューを拘束した。
リジーとハーマイオニーは静かにハイタッチをした。そしてその後、空に舞うディメンターの集団を見つけ出しそちらに駆けていった。
魂を吸い取られるシリウスとリジー。
決心を決めたリジーは事の終結かのように、大きな牡鹿のパトローナスをディメンターの方に送り込んだのだった。
リジーとハーマイオニーは上空から、校庭からスネイプとダンブルドアそしてファッジが、死刑執行のためにディメンターを送り届けようと門に向かうマクネアを止めるのが見えた。
マクネアの仕事はどうやらまたもやお預け……無くなってしまったらしい。彼らはマクネアを連れて再度城に戻ったようだった。
「死刑……取り辞めになった!」
思わずリジーとハーマイオニーは安心の声を漏らした。その後、ダンブルドアは上空を見上げた気がした。
そしてダンブルドアはバックビークに乗るリジー達を数秒見上げ歩き出した後に、大きく手を振ったのだった。
「何度やっても無理だねこれ!!」
リジーはまたもやハーマイオニーと顔をニヤつかせて、手を握りあった。
「いい加減怒るぞ!!何の話だ!!」
またもや怒り出す何も知らないロンをさすがに可哀想に思ってなのか、ハーマイオニーは笑うのを辞めた。
「何にもないわ。本当に良かった。
シリウスが釈放になって。」
「………ロン……。ハーマイオニー。
本っ当にありがとう。」
リジーはハーマイオニーとロンの手をギュッと握った。2人は優しい目でジッとリジーを見た。
「2人がいたから、できた。
大好きだよ。」
そしてリジーはロンとハーマイオニーをめいっぱい抱きしめた。ハーマイオニーはギュッとリジーとロンを強く抱き締めた。ロンは照れくさそうにリジーの背中をポンポンと叩いたのだった。
「スネイプ先生はいますか。」
暗い地下室の廊下のスネイプの準備教室に、リジーはそう言ってノックをした。
「入りたまえ。」
中からねっとりとした声が聞こえてきたので、リジーはそうっと扉を開いた。
スネイプは、入ってきたのがリジーだと分かるとあからさまに嫌そうな顔をし深いため息を付いた。
「……お礼に来ました、スネイプ先生。」
「さて、なんの事。」
スネイプは、さも何も無かったかのように魔法薬の整理をする手をとめなかった。
「ピーター・ペティグリューのことです。」
リジーがそうはっきり断言するとスネイプはようやく手を止めた。
「……もう忘れましたな。あれほど時間が経つと。」
まだ1週間なのに。リジーはそうツッコミたくなるのをグッと堪えてスネイプの方に近づいた。
「だって、スネイプ先生ずっと学校にいないし……。」
「さて?」
この一週間、ずっとシリウス・ブラックの話題、バックビークの話題で学校は持ち切りだった。
そのおかげでスネイプの部屋に行く手は阻まれるし、そもそも最初の3日ぐらいはスネイプ学校に居ないわでそれはもう本当に、礼を言う暇はなかった。
いや、少しはあったかもしれないがスネイプに改まって礼を言うことはたとえリジーでも勇気がいる事だった。
「まさか……本当に捕まえてくれたとは思いませんでした。あんな状況で、わたしはあんなに無茶なお願いをしてしまったのに。」
「ほう……分かってお願いしたと?」
「はい。言ったじゃないですか、貴方にしか頼めない、あなたしか出来ないって。」
リジーは、真っ直ぐにスネイプの目を捉えてそう言った。この目にスネイプは弱い。
スネイプは黙った。
「恨んでいたのにそれを一旦置いといて、事実を知るのはとても勇気がいることだと思います。それに、昨日の敵陣に船を出すことも。先生はそれを全部してくれたました。」
「敵も君も別に吾輩に関係したことではない。吾輩の意思で動いたまでだ。分かったような口を聞くでない。」
スネイプは、機嫌が悪そうに言った。
「でも、あなたがいなければダメだった。
あなたがいたから、今があります。」
「…煩わしい…。勘違いするようだが吾輩は貴様の味方でもなけれぞ今でもあの元殺人鬼が憎い程に嫌いだ。新聞で名前も見るのもうんざりする。いい加減そう言い方をするのは「礼を言わせてほしいんです」」
リジーはスネイプの言葉を遮った。
そして、スネイプが座っている椅子の真ん前に出た。
先程からスネイプがあまりにもリジーから目を逸らそうとするので、リジーはそれをさせんばかりの距離に出たのだ。
「お願いだから。」
「……全くだ。」
「ありがとうございました、本当に。」
そして、2人の間には沈黙が流れた。
リジーはとうとう、話を切り上げその場を去ろうとした。
すると、スネイプはその足を止めた。
「そういや……あの時妙な事が」
それだけでリジーはなんのことか分かった。
スネイプは思わず口走ったのであろう、一瞬考えた後に「なんでもない」と直ぐに言うのをやめた。
それを見て、リジーは小さく笑った。
「今度は、私が力になります。」
リジーはそう礼を言った後、スネイプのいる教室から去っていった。リジーの足音が遠ざかって行くのを感じながら、スネイプはため息を着いた。
先程までいた少女は、あれほど慈しみ懺悔したかつての人でもなければ、眠れぬほど恨んだあの人でもない。混乱する彼がリジーがリジーである事を受け入れるにはあとどれ位の時間がいるのだろうか。
でも、スネイプが歩み出していることは明らかであった。
「さあ、どかせてやる、どけポッター!!」
まずい……スネイプが怒り狂っている。
このままじゃ事実も分からないまま、シリウス・ブラックは殺される所かルーピンはスネイプにねじ伏せられいなくなる。ブラックはおろか、ルーピンが罪に問われるにはあまりに現実味にかける。
スネイプの怒りは殺人鬼を前にしているからでないと、リジーは読み取った。
リジーはスネイプを見て自分が冷静になるべきだと、スっと深呼吸をした。
「いつもは、あなたが冷静だ、スネイプ先生。」
「この状況で誰が落ち着ける?殺人鬼だ、貴様の両親を殺した男だポッター!!!本当になら今すぐにでもこの場で息を絶やしその面を見たい所を、我輩は……」
「だから、スネイプ!わたしは殺していない!
すべて、あのネズミが!!」
「黙れ!この期に及んで、混乱を招きあの薄汚いネズミに罪まで押し付けるとはな。しかし、我輩は見抜いていた貴様がそうであろう人間であることを。あんな場所に何年もぶち込まれてもとより低俗で下劣な頭がもっとイカれた様だな!」
「ああ、変わっていない!その汚い口も話を聞かない小さな脳みそも!」
あぁ、もっとヒートアップしてしまった。
「インカーセラス!!」
「エクスペリアームス!!」
とうとうスネイプが杖を振りあげようとしたところを、リジーが制止すべくインカーセラスを唱え、なんとロンとハーマイオニーが同時にスネイプの武装解除をした。そのおかげでスネイプは、床に尻もちをつき動けなくなり武装解除され、いわばリーマスと同じ状態だった。
悔しみと憎悪に満ちた目でシリウス・ブラックを見つめるスネイプに向かってリジーは静かに話し始めた。
「今のスネイプ先生はあなたじゃない。私が知っているスネイプ先生はもっと冷静で静かな人。」
リジーの穏やかな口調に、スネイプの眉間のシワはほんの僅かにだが薄くなった。
しかしまた吠えた。
「貴様に何が分かる!!」
スリザリン贔屓が激しく、親の名だけでグリフィンドールを減点してしまう公正には程遠いスネイプが、冷静で賢いだなんて本当はそんな事ミリも思ってはいないリジー。
だけど、ここは一つスネイプに話を聞いてもらわなくてはならない。あまりにも、スネイプは過去に縛り付けられて普段の冷徹さを失ってしまっている。
それが何故なのかは分からない。
だって、なぜ私の父を憎んでいながら、私の父を殺したシリウス・ブラックをそんなになって怒鳴るのかが分からなかった。
いまは嘘に方便でもいい。
とにかくスネイプを落ち着けて最悪の事態を避けないと。
「現にピータぺティグリューは地図上にいて、このネズミは怪しい。私はそんな事実を前にしてる。ルーピン先生が犯人と言うにはあまりにも不十分すぎる。
それは、賢いあなたになら十分にわかるでしょ?」
「疑わしきは罰せずか?いや、反対だ。貴様はまだ子供達だからそんなことが言える。何も知らないからだ。」
「そうです。わたしは何も分からない、子供だから。両親がなんでヴォルデモートに殺されたのか、なんで私が生き残ったのか、なにもかも。」
リジーのその言葉に皆が静かになった。
「ここに来て、私は人から聞いた話でヴォルデモートを憎んだ。酷いやつだと思った。
そして今度は、シリウス・ブラックがパパとママを裏切ったその話だけが何も知らない私の耳に飛び込んで来た。そしてなにもしらない私をみんなが守ろうとした。」
「そうだ、奴はそのみんなが言う通り貴様の両親を裏切り人を殺した。」
「でもそれは、誰が見たの?あなたが見たの?」
そう言うとスネイプは、キリッと歯を食いしばり押し黙った。
「ヴォルデモートが親を殺したことは私はここに来て自分の目で分かった。事実だった。あいつはそれに自分の口でそう言った。最低だった、この手でいつか絶対に殺したい。」
ロンは先程から、容赦ないリジーのヴォルデモート連発に目をギュッと瞑っている。
「だから、ちゃんと恨めるようにわたしはこの目で今から新しい事実を見たいと思う。
だって、決められた真実に取り憑かれるのはあまりに……怖い……私はやっても無い事に何度も去年疑われたの。」
リジーのその言葉にスネイプはようやく睨むのを辞めた。
「わたしはわたしだけの事実が知りたい。何通りもあるの真実よりもずっと。
だから、一緒に見て聞いて欲しい、スネイプ先生。私が知らない真実を知ってるあなたにだからこそ。」
「もういい、面倒だ。だが、杖は返せ。」
「え?」
「もし話の途中少しでも奴らが不審な動きをし逃げ出しようものなら、その時は吾輩が容赦なく抑えディメンターに引渡す。」
スネイプは、わざとらしく不服そうにそう投げかけた。
「はい!!」
リジーは、満面の笑みで返事をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「リジー、君は聡明だね。」
シリウスは、スネイプの体を宙吊りにしながらリジーに話しかけた。しかしその表情は複雑そうだ。
何故、スネイプが宙を浮かび、シリウスは複雑な顔をしているのか。
スネイプは、事実を知った。ピーター・ペティグリューは事件の関与を認めシリウス・ブラックが免罪だったと言うことも。それがたとえどうしようもなく信じたくない真実だったとしてもそれが惑うことなき事実だったので認めざるを得なかった。
なのに、どうしてスネイプはこうなってしまったのか……。
答えは簡単。スネイプがシリウスに嫌味を言いスネイプにシリウスが嫌味を言ってしまったからだ。
またしてもヒートアップしたスネイプを、今度はハーマイオニーがあっさりノックアウトしてしまったのだ。
「わたしも君見たく冷静になれたらどれだけ良かっただろうか。」
「はは……」
そう自嘲するシリウスをリジーは力なく笑った。
「君の冷静さが本当に幸をそうした。
これがどういうことか分かるかい?」
リジーは、シリウスの言うこれがなんの事かさっぱり分からず首を傾げた。
それよりも、宙吊りにされるスネイプがあまりに滑稽なのでついそちらに気が取られる。
「ぺティグリューを引き渡すということが」
そしてシリウスのこの言葉でリジーは要約ハッとした。
「あなたが自由の身になる。」
「そうだ。しかし、それだけでは無い。
誰かに聞いたかも知れないが……わたしは君の…リジーの……。」
シリウスは、途端にまごつきだす。
そしてルースの顔を見ようとしなかった。
リジーはその先を何故か言おうとしないシリウスを不審がり、代わりに呟いた。
「後見人でしょ?聞いたよ。」
リジーがあまりにも、なんて事ないように言ったので少しシリウスは拍子抜けした。
「えっ、あぁ、そうだ。そうなんだ。だから、もしジェームズ達の身に何かあればと……だから……」
シリウスがこの先言おうとしていることは、自分には数え切れないほど待ち望んだことだ。家族同然の人と暮らせる、それも父の1番の親友と。
今はあくまで予想にしか過ぎないが、リジーは胸の高鳴りを抑えるのに精一杯だった。
「……だから……。何か困ったことがあったらいつでも駆けつける……。
リジーの予想は外れた。
今までの自分なら、こんな言葉も飛び跳ねるほど心強かっただろうが、予想していた分落胆は大きい。
困った時に駆けつける……そんな言葉はおまじないに過ぎないことぐらい今までの辛い幼少期の中で幾度も味わってきた。
そんな、リジーの落胆になんてちっとも気づいてない様子でシリウスは妙に流暢に今度は語った。
「その……君は今までそうだ、マグルの親戚たちとかとその人たちと一緒に暮らして……困る事なんてわたしが出来ることなんて、あるかどうか分からない。けれどわたしは君の後見人だから。君に何かあれば、僕はいつでも味方になる。いや俺は死んでもいい。」
シリウスは最後は妙に自信の着いた口調で言い放ち、リジーを見た。けれどリジーの反応は妙に冷めきっており、先程のキラキラした瞳はどこか沈んでいる。
もしや……死んでもいいだなんて、年頃のこの前で気持ち悪いことを言っただろうか、いや本心なのだが。シリウスはそう内心で焦りながらも、必死でリジーがこうなってしまった理由を探す。
「……死んでもいいだなんて。
残された身にもなって欲しい。」
「……え?」
リジーはシリウスを追い越す。
その表情は見えなかったが、声は芯があるようでどこか震えている。
「困った時に駆けつけて死ぬくらいなら、いつでも私から逃げていいから、いつでも私のそばにいてほしい。」
シリウスは、リジーの小さな背中から目が離せなかった。その背中は小さいけどちゃんと意思も葛藤もある人であるということをシリウスはこの時初めて気がついたのだった。
そばにいてほしい。
その言葉が自分に向けられたものなのか分からないが、シリウスはリジーから出るその言葉だけで自分の心が暖かくなるのが分かった。
「ああ本当にすまない。死ぬなんて君に言うとは本当に無神経だった。いつでも君を見守ってるよ。そうだ手紙も送って欲しい。わたしも送る、月に……いや週に一度は必ず。」
「週に1回でも足りない。だってシリウス・ブラックさんはリジー・ポッターの後見人だから。」
リジーは無邪気にそう言って笑った。
あまりに久々の感覚に動揺のせいで、シリウスは、宙に舞うスネイプの頭を、ゴッッッ!!とものすごい音を立てて天井にぶち当てた。しかし、シリウスはそんな事、気に求めなかった、いや気がついていなかった。
しかしその後は、リジーは期待が破れた事への落胆も、シリウスのそんないじらしい動揺も、抱えている暇は無くなってしまった。
「どうしましょう!先生、今夜はあの薬を飲んでいないわ!!」
ハーマイオニーが高らかに叫んだ。
リジーはハッとしてリーマスの方を振り向くと、彼は月との狭間でワナワナと震えている。
不味いことになった。
「やめて!!!リーマス!!!」
リジーは喉が着れそうな程に大きな声でそう叫んだ。
しかし、そんな声は彼にはもう遅い。
代わりにと言ってはなんだが、その甲高い声に目を覚ましたのは宙ずりのスネイプだった。
彼は要約長い眠りから目を覚ました。
「なんだこれは!!」
例え目が覚めて宙吊りな状態になっていても、今は誰も説明などしてはくれない。
「逃げろ!!!」
シリウスはそう叫んだが、リジーはロンがぺティグリューとリーマスに繋がれたままなのを見つけた。リジーはどうにかロンを助け出そうと思わず前に飛び出すのを、シリウスが方手でリジーの腹を抱え込み静止した。
「わたしに任せて!いいから逃げるんだ!!!」
リーマスは、恐ろしい唸り声を上げあれよと言わんばかりに獰猛な狼人間に変化した。
シリウスはそれに対峙すべく、黒いグリムに返信した。ハーマイオニーもロンも皆がそちらの恐怖に気が取られる中、リジーはロンの横で明らかに目線を泳がせるぺティグリューに気がついたのだ。
「エクスペリアームス!!!!!」
しかし、遅かった。ぺティグリューは自ら出した先行を浴びたあと、あっという間に彼の服の抜け殻が草っ原に落ちた。最悪なことが起きたとリジーは思った。
「ぺティグリューが!逃げた!!!」
リジーはそう叫ぶ。
犬のシリウスの背は血だらけだが、リジーのその声に反応してまた校庭の方に去っていってしまった。
「だれか、吾輩を降ろせ!!」
もう本当は幾分前から目を覚ましたであろう彼が少し遠くでそう叫んでいるのが聞こえた。
ハーマイオニーは、負傷して立てないロン元に駆け寄る。
リジーはスネイプにかかっている浮遊呪文を解き、地面に下ろした。
そして、懇願するような目でスネイプを見た。
「アイツ……ピーター・ペティグリューが逃げた……シリウスは血だらけで、ルーピン先生は人狼になっちゃって……」
「ああ、見ていた。ルーピンが人狼になる所からしっかりとだ!」
混乱するリジーを、怒っているのかなだめているのか分からない口調でスネイプは言った。
すると、暗闇の方からキャンキャンと苦痛を訴える犬の鳴き声が聞こえてきた。シリウスだ。
「お願い!スネイプ先生!ピーター・ペティグリュー……あのネズミを探して!奴が逃げたら全てが台無しになるの!」
「知らんな……吾輩には関係が無い。第一ブラックがあんなことを言わなければ……「お願い!貴方しか頼れる人がいないの!!」」
必死なリジーの懇願の瞳にスネイプは思わず方を強ばらせた。泣きを見るような目で訴えてくるリジーの声が一つ一つギュッと心臓を握り潰すかのように胸に響いた。
「あんなネズミなんて小さくてとてもじゃないが「先生ならできます!!!!」」
そう言いリジーはスネイプの手をギュッと握った。
「……みんなの未来がかかってる。
過去の因縁も……。奴はまだそう遠くはない。
だから、お願いします。」
今はスネイプに望みをたくそう。
とにかく今は…シリウスを助けなきゃ。
リジーはまだ何かを言いかけるスネイプの声を遮るように手を離し暗闇にかけていった。
「煩わしい!」
スネイプもまた、苦虫を噛み潰したような顔をして暗闇の方に消えていったのだった。
✱
「やったぜ!!!」
朝からロンの高らかな歓喜の声が大広間に響き渡る。
:シリウス・ブラック無罪放免か 釈放
魔法大臣コーネリアス・ファッジはコメントせず:
ハーマイオニーが握り締めて持ってきた日刊予言者新聞にはこう綴られていた。
リジーはその文字を見た瞬間全身の力が抜けていくのがわかった。ハーマイオニーはそんなリジーに抱きついて喜び彼女の安堵に満ちた表情を見て少し感極まっていた。
「……もう一度同じことをしろって言われても上手くやる自信が無いわ、私。」
「わたしもだよ、ハーマイオニー。」
ロンはなんの事だろうか?と思ったが、ようやく良くなった自分の足をシェーマスに叩かれてその事を忘れてしまったようだ。
シリウス・ブラックの釈放。それはとても長い道のりだった。
一言で言うと、最初は上手くいかなかった。
あの後、大量のディメンターがリジーとシリウスを襲った。そして、謎の1匹の牝鹿に助けられたかと思うと、リジーは意識を手放した。
そして目が覚めるとリジーは医務室。
シリウスは、フリットフィック先生の事務室に囚われているらしかった。ここまで来れば、シリウスにディメンターの接吻が施されるか否かは全てはスネイプにかかっていた。
しかし、彼は帰ってこなかった。
ピーター・ペティグリューを捕まえ損ねてなのかは分からない。
リジー達は魔法大臣のファッジ達に、証言者にスネイプがいること、そしてピーター・ペティグリューを連れて戻ることを必死に弁明したのだが、たかが13の子供の意見は魔法省に聴き貰えず、なんの証拠も残せなかったからだ。
マダムポンプリーに抑えられるほどファッジに牙を剥くリジーの耳に届いたのは、スネイプが気絶して見つかったとの連絡だった。
彼が目を覚ますまで待てばいい、そう述べても魔法省はそれまでにあの凶悪犯を生かしてはおけない、それにスネイプの証言を聞いても証拠が無いので意味が無いと言い、結局全てが無駄じまいになむてしまったというわけだ。
絶望するリジーとハーマイオニーにダンブルドアは、タイムターナーを使うよう間接的に仕向けてきた。
時間を巻き戻すことが出来、ハーマイオニーが全単位を取るべく使用していたものらしい。
それがあるなら……。
せめて、シリウスブラックを逃がすことができたら彼は死ななくて済む。8回の上空から彼を逃がすことが出来るのは現時点、ハグリッドが手懐ける処刑予定のバックビークのみだろう。
目標は魔法省が来る処刑時刻より前に、バックビークを解き放ちその後にバックビークでシリウスを逃がす。
誰にも見つからないように、それが条件であることを飲んだ上、ハーマイオニーとリジーはもう一度やり直シリウスを救うべく時空の旅に出た。
もう、てんてこ舞いだった。
バックビークを逃がすのには、相当な頭を使った。
しかしその後バックビークが人狼になったリーマスからリジー達を救ってくれた。
そして、何より予想だにしていなかった収穫が起きた。なんと、スネイプはピーター・ペティグリューのしっぽをつかんでいた……すなわちネズミ姿のピーター・ペティグリューを見つけ出しアニメーガスを解いたのだ。
この姿を木の影から目撃した時は、ハーマイオニーとリジーは思わず2人から姿をバレそうになるほど歓喜で大声を出してしまいそうだった。
しかし喜ぶ間ではない。ピーターは逃走しスネイプは気絶して発見されたのだ。この後きっとそれが致命的となる何かが起こる。
つかの間、ピーター・ペティグリューは人間の姿のまま再び逃げ出そうとした。しかし彼は足を踏み外し山の斜面から滑り落ちそうになる。
スネイプも焦っていたのだろうか…思わず振りかざした杖をピーターは滑り落ちそうになる体制のまま掴み取った。
ピーター・ペティグリューがその隙にニヤリと笑ったのでデジャブかと思った程だった。
なるほど、再度動物もどきを。
さっきはエクスペリアームスで失敗した。
となると……ハーマイオニーも考えることは同じだったようだ。
「「インカーセラス!!!」
間一髪でピーター・ペティグリューがアニメーガスを唱えたが、2人の呪文の力の方がはるかに上だった。
ピーター・ペティグリューの動きはネズミのまま固まり、そのまま宙を舞っている。
スネイプは、目の前で起こったことが一体どうしたことか分からず2度3度目をぱちくりさせる。
しかし、深く考える間はないと思ったのかその後気を引き締めピーター・ペティグリューを拘束した。
リジーとハーマイオニーは静かにハイタッチをした。そしてその後、空に舞うディメンターの集団を見つけ出しそちらに駆けていった。
魂を吸い取られるシリウスとリジー。
決心を決めたリジーは事の終結かのように、大きな牡鹿のパトローナスをディメンターの方に送り込んだのだった。
リジーとハーマイオニーは上空から、校庭からスネイプとダンブルドアそしてファッジが、死刑執行のためにディメンターを送り届けようと門に向かうマクネアを止めるのが見えた。
マクネアの仕事はどうやらまたもやお預け……無くなってしまったらしい。彼らはマクネアを連れて再度城に戻ったようだった。
「死刑……取り辞めになった!」
思わずリジーとハーマイオニーは安心の声を漏らした。その後、ダンブルドアは上空を見上げた気がした。
そしてダンブルドアはバックビークに乗るリジー達を数秒見上げ歩き出した後に、大きく手を振ったのだった。
「何度やっても無理だねこれ!!」
リジーはまたもやハーマイオニーと顔をニヤつかせて、手を握りあった。
「いい加減怒るぞ!!何の話だ!!」
またもや怒り出す何も知らないロンをさすがに可哀想に思ってなのか、ハーマイオニーは笑うのを辞めた。
「何にもないわ。本当に良かった。
シリウスが釈放になって。」
「………ロン……。ハーマイオニー。
本っ当にありがとう。」
リジーはハーマイオニーとロンの手をギュッと握った。2人は優しい目でジッとリジーを見た。
「2人がいたから、できた。
大好きだよ。」
そしてリジーはロンとハーマイオニーをめいっぱい抱きしめた。ハーマイオニーはギュッとリジーとロンを強く抱き締めた。ロンは照れくさそうにリジーの背中をポンポンと叩いたのだった。
「スネイプ先生はいますか。」
暗い地下室の廊下のスネイプの準備教室に、リジーはそう言ってノックをした。
「入りたまえ。」
中からねっとりとした声が聞こえてきたので、リジーはそうっと扉を開いた。
スネイプは、入ってきたのがリジーだと分かるとあからさまに嫌そうな顔をし深いため息を付いた。
「……お礼に来ました、スネイプ先生。」
「さて、なんの事。」
スネイプは、さも何も無かったかのように魔法薬の整理をする手をとめなかった。
「ピーター・ペティグリューのことです。」
リジーがそうはっきり断言するとスネイプはようやく手を止めた。
「……もう忘れましたな。あれほど時間が経つと。」
まだ1週間なのに。リジーはそうツッコミたくなるのをグッと堪えてスネイプの方に近づいた。
「だって、スネイプ先生ずっと学校にいないし……。」
「さて?」
この一週間、ずっとシリウス・ブラックの話題、バックビークの話題で学校は持ち切りだった。
そのおかげでスネイプの部屋に行く手は阻まれるし、そもそも最初の3日ぐらいはスネイプ学校に居ないわでそれはもう本当に、礼を言う暇はなかった。
いや、少しはあったかもしれないがスネイプに改まって礼を言うことはたとえリジーでも勇気がいる事だった。
「まさか……本当に捕まえてくれたとは思いませんでした。あんな状況で、わたしはあんなに無茶なお願いをしてしまったのに。」
「ほう……分かってお願いしたと?」
「はい。言ったじゃないですか、貴方にしか頼めない、あなたしか出来ないって。」
リジーは、真っ直ぐにスネイプの目を捉えてそう言った。この目にスネイプは弱い。
スネイプは黙った。
「恨んでいたのにそれを一旦置いといて、事実を知るのはとても勇気がいることだと思います。それに、昨日の敵陣に船を出すことも。先生はそれを全部してくれたました。」
「敵も君も別に吾輩に関係したことではない。吾輩の意思で動いたまでだ。分かったような口を聞くでない。」
スネイプは、機嫌が悪そうに言った。
「でも、あなたがいなければダメだった。
あなたがいたから、今があります。」
「…煩わしい…。勘違いするようだが吾輩は貴様の味方でもなけれぞ今でもあの元殺人鬼が憎い程に嫌いだ。新聞で名前も見るのもうんざりする。いい加減そう言い方をするのは「礼を言わせてほしいんです」」
リジーはスネイプの言葉を遮った。
そして、スネイプが座っている椅子の真ん前に出た。
先程からスネイプがあまりにもリジーから目を逸らそうとするので、リジーはそれをさせんばかりの距離に出たのだ。
「お願いだから。」
「……全くだ。」
「ありがとうございました、本当に。」
そして、2人の間には沈黙が流れた。
リジーはとうとう、話を切り上げその場を去ろうとした。
すると、スネイプはその足を止めた。
「そういや……あの時妙な事が」
それだけでリジーはなんのことか分かった。
スネイプは思わず口走ったのであろう、一瞬考えた後に「なんでもない」と直ぐに言うのをやめた。
それを見て、リジーは小さく笑った。
「今度は、私が力になります。」
リジーはそう礼を言った後、スネイプのいる教室から去っていった。リジーの足音が遠ざかって行くのを感じながら、スネイプはため息を着いた。
先程までいた少女は、あれほど慈しみ懺悔したかつての人でもなければ、眠れぬほど恨んだあの人でもない。混乱する彼がリジーがリジーである事を受け入れるにはあとどれ位の時間がいるのだろうか。
でも、スネイプが歩み出していることは明らかであった。