木枯らし落ち葉、残るは『 』(全9話)
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「糸井、精市と喧嘩したのか?」
柳は最近ここ1週間疑問に思い続けていたことを絵美に問い掛け絵美は絵美でどんよりとしながら「わかんない」と呟いた。
幸村は雨で休みとなった翌日から絵美の元へと訪れなくなり絵美も絵美で幸村の話題に 触れようとしない。
もともと本人でさえ己のことを「他人に無関心なのでは」と考察していたのだが、この1週間、二人は互いに互いを無視している。それが顕著に出たのは赤也が
「最近糸井先輩といませんね」
という発言に何の反応もせず まるで「誰その人」という態度をとっていた上で、赤也たちは絵美の話題を避け怯えている。
それでも長年仲良くしている身として他人的視点で見ると これはおそらく「喧嘩」なのだ。
「何をしたんだ」
「幸村が告られているところに居合わせて……邪魔してごめんって言って……優先順位を聞かれた。意味わかんないって言ったら、もういいよ、バイバイって……」
そう呟いた絵美はお弁当箱の中身をモソモソと食べ始めは柳は重いため息を吐き出してしまった。
「精市も精市だが糸井も糸井だ」
「どゆ意味?」
「お前は本当に精市が好きなのか?」
「好きだよ」
驚くほど軽く「好き」と告げるがこういう姿を見ると確かに精市が考える「優先順位」というものがわからないし、あいつも不安に思うだろうが それもちゃんと話さず己の籠の中に入れて閉じ込める幸村の接し方にも問題があると柳は思う。
そしてその籠に何も言わず閉じ込められた糸井にも問題がある。
だが絵美はお昼を食べながら柳を見て呟いた。
「優先順位ってのがわかんないんだけど、私以外を取らないって信じてるのに順位って必要なの?」
「成る程そうきたか」
これは精市が悪いかもしれないが、当人たちとで話し合う必要があるのは確かで、このままじゃ精市の機嫌は永遠に戻らない。
「精市にメールを送ったりしないのか?」
「なんて送ればいいのさ」
「会って話がしたい、最悪、会いたい、だけでもいいだろう」
絵美はお弁当箱を空にして柳に向かって手を差し出した。柳はその手をとらず 首を傾げると
「柳から精市どこにいるって送って」
と。
多少の気まずさはあるらしい、いいことだ。そのため2人の共通の友人として手を貸す位はしてやろうとメールを送りすぐ返事が来た。
それに柳は笑ってしまった。
「いつもの所、だそうだ」
柳に幸村の「いつもの所」なんて知るはずもなく絵美からのコンタクトだと本人はしっかり気付いているのだ。
しかもこの返信の速さは恐らくずっと待っていただろう、絵美はスマホ片手に教室から出て行ってしまいその背中を見送った。
絵美は幸村と付き合い始めた時から2人で昼食をとっていた教室の扉の前で固まり、心臓を抑えてしまう。
本当にここであってるよね、私、きていいんだよね、と。
「し…失礼します」
と一応小さくつぶやき扉を開けると幸村が無言でこちらを向き無表情で自身の横を指差し絵美はほっとして 扉を閉めそこに座った。
「あの、ね、幸村クン……」
そういった瞬間、絵美は幸村に押し倒され口付けを受けゆっくりと舌が絡み合う。
1週間前とは違う、優しいソレに絵美は甘受し、幸村が顔を上げ離れたため慌てて抱きつき肩口に額を押し当て力を込め背中に手を回す 。
「あの、あの、あのね、幸村クン、私っ、」
そしてまた口付けられ話しが進まない理由にプチパニック起こしている絵美は気付かず、幸村はちゅ、と音を立てて唇を離しジッと絵美を見つめた。
一般人には圧があると思える 無表情で。
「あの、私、ゆきむーー」
「それ、わざと?」
「え?んっ……」
3度目の口付けを受けほんの少し笑った幸村に絵美はホッとしつつ 何がわざとなのかを考え巡らしてハッとした。
「精市!」と。
「その、っ私、人に順番つけたことないからわかんないけど、でもね?精市のことはすごい好きで、邪魔してごめん、は、女の子の頑張りを邪魔してごめんってことで、精市を信用していないってことじゃなくて、精市は私を好きでいてくれるって分かってるから、でもあの驚いて逃げちゃったのはごめんね……精市は大切だから、私生活も大切にして欲しくて……!あれっ、何の話ししてるんだろう?!あのね、あのね!」
プチパニックで説明する絵美に幸村は耐えきれず吹き出してしまい絵美は「何で!」と怒っているが幸村は幸村で1週間我慢していてよかったな と思っていた。
ようやく絵美から会いに来てくれたのだ。
柳を介しては少し面白くないけど彼女が気付いていないところで己の優先順位はとっくに高いのだ。
「キスしてくれたら許してあげる。深いのがいいなあ」
絵美は真っ赤に頬を染めしどろもどろになっているがちょっとだけ引っ付いてくると唇を重ね合わせ舌がそっと忍び込み、幸村はそのまままた押し倒しゆっくりと舌を絡ませあった。
そしてまた、ちゅ、と音を立て離れ笑う。
「もっと深いのできるよね?」
「……精市が、してるじゃん……」
絵美は涙を浮かべ、瞳を反らし囁いた。赤い顔をして。 女の顔で。
木枯らし落ち葉、残るは『愛』(完)
2026/03/01
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