冬の木枯らし、吹きすさぶは『 』(全10話)
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廊下や教室から「幸村君」と聞こえ絵美は動けないでいるのだが幸村は気にする様子もなく「絵美」と声をかけてきている。嬉しそうに、幸せそうに。だが絵美は、やはり動けずというより動かず絵美と向き合っている柳は笑いそうになる。
絵美の顔がほんの少しだけ赤いから。
「幸村クンとどう顔を合わせればいい?放っとけって言うべき?」
「互いに好きで放っとけとはさすがに傷つくぞ」
「う…あ…!柳!まって!行かないで!」
荷物をまとめ立ち上がる柳に絵美は慌てて声をかけ柳は表情が引きつりそうになる。
辛うじて幸村には聞こえていなかったのだが聞かれていたらシメられていた。テニスで。しかし絵美の慌てた様は見て取れたであろうなので「責任をもってくれ」と絵美の肩を軽く叩きに荷物を持って行ってしまい絵美は10秒遅れて動き出した。
もちろん幸村を見てはいない 。
普通こうなるとチラリとでも相手を見るであろうが絵美は帰り支度をする間ほんの一瞬も幸村を視界に入れず柳は幸村の肩をポンと叩いてから部室に行ってしまう。下手なフォローはするだけ死が近くなる。だからしない。
教科書をロッカーに突っ込み課題分だけ鞄に入れセーターが目に入り柳に渡しそこねた分と幸村に渡そうかとしていたパウンドケーキが目に入る。
どういう顔で渡せって言うのだろうか。柳は鬼なのか。
もう少しゆっくりと自分の気持ちに気づきたかったのだがそれはそれで遅い気がするので今でちょうどいいのだろうか。
全ての帰り支度をしてから今度こそ教室の出口を見ると幸村が別のクラスの女生徒に話しかけられており己に向ける笑顔とは違う笑顔になぜか胸が苦しくなってしまう。
これが恋か?苦しいものだ。なら、しなくてよかったのかな。
着替えてから昨日は何も考えずに幸村とお揃いのコートを買ってしまっていたが今いざこうなると幸村は私とお揃いのコートを買った時、どう思っていたのかと考えてしまう。
たった1日半で随分と仲良くなってしまったのだがこんな飛び級に近い恋愛ってありなのかと考えてしまう。
幸村は私が編んだマフラーを巻いており揃いのコートを着ている。そして女子数名と話し終えてからこちらを見て笑いかけてきた。
あー、好きだなぁ
思わず唇だけで呟いてしまい、幸村がその音のない言葉に驚くように固まったかと思うと直ぐそこの生徒に「入るね」と言い「絵美」と教室内の私の元へと歩み寄ってきた。
「ねぇ、もう1回言って」
「私何も言ってないよ」
「言ったよ。今、俺のことを見て」
かつてない(と言っても2日の付き合いだ)、ほど真剣な表情にドキドキとしてしまい両手を握りしめられクラスメート全員が驚いたようにこちらを見ておりいたたまれなくなる。
幸村の手を離し、焦って教室を出ようとしたがそれよりも早く幸村は絵美の手を握り直し「仕方ないな」と言った後に、勢いよく、背後から、
抱き、しめられた。
音という音が消え、私の心臓が爆音を奏で一周回ってなんだか冷静になってきたが、いや嘘、現実逃避している場合じゃない。
「あの、幸村クン…」
と声が震えてしまい幸村の腕に力が入った。
「何で“幸村クン”に戻ってるの?幸村って、いや、そうだな……もういいよね?精市って、呼んでくれないかな?どう?」
と、とびっきり甘く絵美なんて耳元で囁かれ私はなんだ泣きたい気持ちになっていく。お願い、やめて、そんな優しく名前を呼ばないで。それでも掠れる声で小さく小さく「精市、」と呟くとさらに強く抱きしめられた 。
これじゃあ 逃げられないしワンちゃん心臓の音が聞こえてしまう。そんなの、恥ずかしすぎてどうにかなってしまう。
まだ会って話して2日なのに 幸村精市という男のことを好きになっている。恋に時間は関係ないって、本当かもしれない。
ものすごく、好きになっている。
「きて」
「え、あ、え」
「いいから」
もう一度ぎゅうと力を込められてから腕を引いてくる幸村について行き、というか引っぱられ周囲が驚いている。後ろからでは幸村の顔が見れないがどんな表情をすると周りはそんなに驚くのだろうか。何か怖い。
そのまま連れられたのは中庭だった。誰も来ない中庭。
そこで幸村は私を振り返ると真剣な表情を見せてまたドキドキと心臓が高鳴っていく。死にそう……。
「ねえ、俺のことどう思ってる?音にして教えて欲しい」
「あ……幸、村クンも……」
「精市」
「せ、せいいちも……」
幸村精市は信じられないほどに優しく笑いかけてくると私の両手を覆うように握りしめそっとつぶやいた。
「言っていいの?」
「う……うん……」
「知ってもらえるの?俺の告白?」
「う、ん……」
「ふふ……中等部の頃から、ずっと好きだよ。絵美が知らないところでずっと絵美のことを考えていた。」
だから
「俺を、絵美の側にに置いてほしい。一番に、置いて欲しい」
「……う、ん ……」
キャパオーバーを起こし瞳からボロボロと涙がこぼれていき、またもやぎゅうと抱きしめられふわりと花の香りがした。昨日からずっと香っていたそれに今更に気づくなんて。己はバカかと罵してしまいたいが
「精市…」
「うん」
「好き」
そう呟くと、そっと涙を拭われ優しく口付けられた。