冬の木枯らし、吹きすさぶは『 』(全10話)
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最後の1限は自習となり、女子も男子も仲良しと集まり話し始め柳は読書をしながらセーターとお菓子を見て固まっている絵美に口角を上げてしまった。
「精市を意識した確率100%と言ったところか」
「い、意識っていうか、まあ、意識だけど……私まだ幸村のこと何も知らないのにこの距離感はまずいと言われて ……ちょっとはわかるけど友達増えたって意識で、異性としての意識とかじゃなくて……」
「気になるのか?」
黙ってセーターをたたみ小さく頷いた。
「無関心ってわけじゃないよ?でも、過去より今かなって思うから聞こうとはしない私と気になってきた私がいて」
不器用な隣の席の友人に柳は顔を向けると絵美は頬を染めることなく難しい表情をしておりどうしたものかと考えてしまう。そこに絵美は言葉を重ねてくる。
「人ってさ、聞かれたくないことって話せないけどどこかで聞いて欲しいとさりげなくねじ込むじゃん?でも幸村は私のことばかり聞いてきて自分のことを話さないから私も聞かれたくないんだろうって話していないの。でも聞いた方がいいのかな?知った方がいいのかな?って思ってる、今」
「少なくとも精市は糸井に聞かれたくないことはないだろう」
「何パーセントの確率?」
「なかなか言うじゃないか糸井」
確かに彼女は人の話を聞くだけで同じく自分の話を自分からしないし、だが聞けば特に迷いなく答えるため隠したいことがあまりないのだろう。珍しいと思う。
人は1つでも2つでも隠し事はあるはずだろうが彼女に限ってそれが少しもない。そこまで深く話すことはないが少なくとも柳の印象としては真っ白な人間であった。
「今、糸井は幸村の過去を知りたいと思っている。どうだ?」
「他の人から他の人を勝手に話されるのっていうのはちょっと罰が悪いし、だったら直接聞くけど聞きたい気持ちがあんまりわからない」
「恋愛下手だな」
「初恋したことないし、私って他人に関心薄いのかな……」
初恋、という言葉に柳はデータを更新しつつ、しっかりと絵美に向き合い2人して話し込む。自分で言った通り罰が悪そうな顔をしており柳はもしやと考えた。
「精市が入院していたことを聞いたのか?」
「うん…女の子から。でも幸村クンそのことは話してこなかったし私も無理に聞きたくない」
呼び方が「幸村クン」に戻ったことに若干焦りを持ちつつ絵美を見て、絵美は顔を上げると まっすぐ見つめてきた。
その瞳には様々な感情が入り混じっており柳はこれでは確かに男子や己が如何に話しやすいのかが分かり、絵美の今までの言動や行動は実は他人を気遣うものだと初めて知る。
中等部からの仲なのにとれていないデータであった。
「だがもう一度言うが、精市は糸井になら話すだろう」
「何の根拠があってそう言えるの?」
「糸井と精市より付き合いの長さはあるからな」
「なるほど」
いや、簡単に言いくるめられるなと思いつつ絵美は視線をそらし空を見上げ「もし、」と。
「もし柳から聞いたってなったら嫌に思われないかな?」
「それはないだろう」
「なんで?」
このままじゃ堂々巡りだし、面倒というわけではないがこれぐらいは言ってしまうかと柳は考えていた。
「精市は中等部の頃から糸井を知っていたぞ」
「あ、それは話してた。私の絵を見てくれたって言ってた」
「何だ、ちゃんと話してるじゃないか」
「…確かに…でも私からは何も聞いてない」
そもそも幸村からの片想いで 昨日今日のゴリ押しでも話す時間というのも薄いのだから仕方ないだろう。
このクラスの中で一番交遊のある男子として、そして幸村を部長と置く前に1人の友人として助言をしても許されるだろう。その確率は極めて低いのだが。
「今、糸井は精市をどう思ってる?好きか、嫌いか」
「……って聞かれたら好きだけど、異性と見てどうかって聞かれたら全然わかんない」
「全然か?本当に?」
絵美は腕を膝の上に乗せ、またうーんと両手を見下ろしてから柳に差し出した。
「握って」
「……は?」
「ほら、握って」
「後ろから刺されたくないのだが……」
「早く」
柳は「精市に知られたら全責任は糸井に任せる」と言い置いてからその両手を握りクラスメートが視線を向けてきている。
「大変だ柳、大変なことに気づいてしまった」
2人で手を離し絵美は己の両手を見つめてから小さく小さく呟いた。
「幸村クンと手を繋いだ方が嬉しい」
その次の言葉は授業終了の鐘の音に消えてしまうほど小さかったのだが、その唇は確かに2つの文字を表しており柳は笑う。
「本人に伝えてあげるといい。恋に時間は関係ない」
「あー、柳が友達でよかった 。すっごい嬉しい」
「それは精市に言わないでくれ、シメられる」
「幸村クンそんなことすんの?」
教室も廊下も騒がしくなり絵美は最後にポツリと口にしたのは本当に1つのこと。
「会いづらいなぁ……恋かぁ……うわぁ……」
柳は小さく笑ってから教室の出入口を見てまた笑った。
「1つ、いい知らせをしよう 」
「何?」
「精市が来たぞ」
絵美は固まった。