冬の木枯らし、吹きすさぶは『 』(全10話)
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朝は糸井さん。ホームルーム前で絵美さん。そしてお昼には呼び捨て。
ここまで気がつかないのは絵美だけであり、二人で昼食をとってから放課後は6時頃に部活が終わるから図書館で待ってて、終わったらそのコートと同じものを売ってるお店に行こうか、と話したと昼休憩から戻ってきた 絵美は女子に詰めよられて報告をしていた。させられていた。
「他の女子ならムカつくけど絵美ちゃんならしょうがないかぁ~」
まあそんな彼女の本命は幸村ではないらしいが。そんなことをもらし絵美は まだ困惑の姿勢を崩さない。が、幸村のコートは相変わらず羽織っているので確実にゴリ押しされたのだろうことはよく理解できた。
「新しいデータだな」
「何、柳、怖い何のデート?違う。データ?」
「秘密だ」
絵美は「ええ~」と言いつつお弁当箱をしまい予鈴の中、柳に話しかけてくる。
「テニス部の部長って言ってたじゃん?コートで待つって言ったら寒いからって、断られちゃった」
「それはそうだろう。そんなにも寒がっていたら尚更だ」
「よく迷惑って思わないね、幸村やっさしい~」
「……クン付けはやめたのか?」
「え?ああ」
絵美は手を擦り合わせながら何でもないように話す。
「柳が呼び捨てなら俺も呼び捨てにしてって。何でだろうね」
「お前は本当に……いや、何でもない」
「教えろ~!?なあー!」
柳は己の肩を揺らす絵美を見て、肩のコートとコートの一番上のボタンをとめられたそれに笑ってしまう。
外さないようにという牽制がが見て取れる。
「なる程な。中々に見せつけるタイプだったか」
「見せつける?」
幸村は中等部から絵美を見ていた。
美術部の絵美は何度もコンクールで金賞を取っていた。そのたび幸村は絵美の作品を見ており、それだけの距離だった。
そもそも病に倒れ入院していたため新聞か病室に備え付けられていたテレビのニュースで見ていた、それだけの距離であったため幸村を知らないのは当然であった。
それが中学最後の試合、青学の1年に優勝を取られたが絵美はそれを“なんとなく”知っていただけである。
そう絵美は幸村について何も知らない。校内の噂や各部について興味は少しもないのだ。そのため『神の子』と称され公式戦負けなしも知らないでいて、幸村の心は可哀想なくらい届いていなかった。
そもそも顔を合わせたことがないので。
「柳、幸村に伝言お願いしていい?」
6限目終了、清掃当番の絵美は柳に声をかけ 「美術室にいるから」テニス部の部活が終わったら行くから待ってて、と。
「精市なら来ると思うが」
「私、美術室の掃除あるからもう行くの」
「わかった、伝えよう」
「ラブ~!」
絵美は笑って着替え行ってしまい、その後すぐにやはり幸村が姿を見せそのまま伝言を告げると幸村は「そっか」と呟きスマホを見下ろした。
「何だ、交換したのか」
「一応ね」
「無理やりだろう」
「あ、わかる?」
「糸井は優しいから頼み込むと弱い」
幸村は怯みそうになるくらいの笑顔で「そうみたい」と言い放ちその背後に真田が立った。
「精市、蓮二に用事でもあるのか?」
「絵美って女の子にね」
「おん……?珍しいな。お前が女子と戯れるとは」
幸村はまたにっこり笑いさっさと行ってしまい柳は苦笑し、真田は心底不思議そうにしつつも2人で幸村の後に続いて歩きテニス部の部室に向かった。
「交換したんだからメッセージくれればいいのに」
「糸井はあまりスマホを弄らないらしいから伝言を受け取ったんだ」
「そうなんだ。でも直接行って欲しかったなぁ」
「ご愁傷様だな、糸井は」
その限りなく小さな言葉は嬉しいことに誰にも届かず幸村は着替えてしまい他のレギュラー陣が不思議そうに柳に視線を向けてきた。
「冬だが、春が来たんだ」
という言葉に、頷く者とさらに疑問に思う者に別れ、柳もラケット片手に部室を後にした。
そのままアップに入ると幸村が腕を組みをチラリと校舎を見上げるとちょうど美術室から絵美がこちらを向いたようで窓越しに手を振り笑っている。
「可愛いなぁ……早く部活終わらないかな」
まだ始まったばかりなのに、そのセリフと笑顔に真田も何も言えなかった。普通に怖かったからだ。