冬の木枯らし、吹きすさぶは『 』(全10話)
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「ううう……あったかいいいい」
さすがに初めましての人にコートを借りるのもとしていたがそこは幸村が「俺は部活をしていれば温まるから」笑顔の裏で着ろと促し、柳の横で絵美は小さく頷きコートの襟元をぎゅっと握り「借りるね」とつぶやいた。
幸村は細身に見せかけて、実はそれなりにがっしりとした体をしているため幸村のコートに着られた絵美はさらに小さく見える。
「放課後まで借りるのは悪いから」
後ですぐ返すねと少々申し訳なさそうなソレに幸村は「放課後まで貸してあげる」と笑顔を向け絵美は困りつつも頷いた。
別に幸村の圧にたじろいでいるわけではなく、彼女はただ単に初対面の人に物を借りることに困惑しているのだが幸村だけは少しも気にせず
「蓮二、行こうか」
と行ってしまい絵美はその背に向け「また後でね!部活頑張ってね!」と校舎に消える。
絵美は教室に着くとすぐブレザーを脱ぎロッカーに入っているセーターと持ってきた裏起毛の市販のジャージを纏いその上から幸村のコートを羽織り教室で縮まっている。
徐々に登校する生徒は、絵美と同じクラスの女子は椅子の上で縮まっている絵美を見て「風物詩だねえ」なんて言いつつコートの持ち主を問いかけてきた。
「柳君の?」
「今朝知り合った、えっと」
「初めての人から強奪したの?!すっごい……」
「違うよぉ~!柳の強奪しようとしたら同じ部活の人が貸してくれて、それで」
女子は「えー」なんて笑い絵美の手を包み「冷た」なんて言いホッカイロを渡し絵美は「あったけぇ~」と笑顔をこぼす。
生徒はどんどんと登校し、朝の鐘が鳴った。
朝の部活を終えた生徒も「さみぃー」なんて教室に戻ってきて賑わう廊下から柳も教室に来てちょうど一緒にいた幸村に声をかけた。
「柳お疲れー!えっと、幸村?クン?コートありがと」
「あはは、本当に雪だるまだね、可愛い」
幸村が女子にこんなことを言っているのを見るのは周囲の生徒は初めてで絵美の友達は驚いたように目を見開いて呟いた。
「幸村くんのコート借りたの 絵美ちゃん!?」と。
「そうだよ。幸村クン返すね、さすがに申し訳ない」
「柳はいいの?」
「席隣だし」
「いいよ、放課後テニスを見に来てくれればそれで貸し借りなしね」
「さ、寒いから断る!でも幸村クン、このコートあったかいね。どこで買ったの?」
「教えてあげようか?放課後テニス終わったら付き合ってくれる?」
クラスの女子も廊下の女子も驚いたように幸村と絵美を見て、柳はさすがぐいぐい行くなと横で見つめてしまう。
幸村が中等部からずっと絵美を知っていたのに気づいていたからで、さすがにちょうど運よく関われたからだと考えた。
彼がテニス以外でここまで積極的になるのは初めて見る姿であり絵美は幸村のコートを肩にかけ市販のジャージで「雪だるま」となっているそんな絵美に小さく笑ってしまう。
それに絵美は目敏く気付き軽く蹴りつけてきて、また笑ってしまい横で幸村がチラリと見てきて小さく咳払いをしてしまう。
幸村はそうしてまた笑顔を絵美に向け絵美は「じゃあ」と。
「放課後、かえしに」
「決まり、一緒に探しに行こうか」
「え、幸村クン……」
しかしそこで無情にもホームルームの予鈴が鳴り幸村は軽く手を振ると行ってしまい絵美は困ったように柳を見上げてきた。
「……いいのかな」
「本人がいいと言っているんだ。甘えておけ。寒いのだろう?」
「寒いけど」
「放課後まで着ることがないから気にするな」
「でも……」
柳は絵美の頭をポンと撫で席に行ってしまい驚愕している女子を見ることなく絵美も席につき膝を抱えてから丸まった。
それを教科書を取り出しながら見て絵美は困ったようにコートの襟ぐりをぎゅっと握り縮こまっている。
「風物詩だな」
「さっき同じこと言われた。いいや、お昼返しに行くから 幸村クンのクラスまで着いてきて」
「好意はありがたく受け取れ」
ここまで拒否するのも失礼だと言おうとするが、でも幸村は絵美を知っていても絵美は幸村を『立海の幸村』を知らない。
よくも悪くも在校生の人気や噂などをほんの少しも気にしない。
だからこそ付き合いやすいというのもあるし割りと他クラスの生徒との仲もいい。ある意味顔が広いが懐にいれる人間の数は限られている、自分はそのうちの1人だろうとは分かっている。でなければコートを強奪しようとしない。
その辺りの線引きは驚くほどしっかりとしている。
「精市は前途多難だな」
「何か言った?」
柳は小さく笑い「独り言だ」と笑いかけた。