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『ジンを1日好きにできるプレミア券』




その日、組織の末端たちはザワついてた。

1年に一度、ネームを持っていない末端がクジを引き、ネーム持ちを1日に限り好きにできる券を引けると。
勿論、末端に限り参加の有無を決める事ができるのだがネーム持ちは絶対参加であり、その当日、参加する末端たちは浮き足たっていた。

ネーム持ちは各自別室で待たされるもモニターで見ることができる。ジンは椅子に座って計らずしもため息を吐いてしまった。
ジンが組織に入った時にはこんなくだらない『ゲーム』はなかったが、ジンがネームをもらった頃にこれが始まり当然のように殺されるネーム持ちもいたのだが、末端たちは、特に女性陣はバーボンやスコッチ、ライを狙う中一人の末端だけは違った。

その末端は何年も、そのプレミア券を引き当てるために頑張っていたし同じ末端の女性たちも応援してくれていたのだが、このプレミアム券を引き当てられなかった者には「外れ」とだけ書かれており、そしてずっと狙い続けていたそれを、私は、


「っっくあーーっっ!!」


ゲットした。

その悲鳴はそこによく響き渡り、モニターを見ていたジンは次の画面で笑ってしまった。

末端のその女は拳を握りしめ その場に膝をつき天を仰ぐ。そして万感極まったように小さく涙を流しプレミア券、

『ジンを1日好きにできる券』

を握りしめ他の末端が駆け寄ってくる。


「い、生きててよかったって、初めて思った!」


よかったね!と言ってくれる同僚に「うんうん」と頷き、その数10分後、ジンのいる小部屋の扉がノックされモニターを見て笑ってしまっていたジンが

「開けろ」

といえば、随分と控え目に扉が開き、天を仰いで泣いていた女が姿を見せた。


「ジ……ジン様…お待たせいたしました」


酷く低姿勢で姿を見せた女は私服姿で現れジンはその言葉に笑ってしまい「行くぞ」と椅子から立ち上がる。


「何をしたい」


どうせ他の女みたいに「寝たい」なんて言ってくるだろうと思っていたのだがしかし、女はこう言った。


「ジン様がなされたいことをしたいです」と。
「俺を『1日好きにできる券』だろ?テメエが聞いてどうする」
「ヒエッ!そうでした……!すみません!あの、でも、何も思いつかなくて」
「どっか行くか」
「いっ、!いいんですか!?そんな、で、デートみたいな!?」
「しろ」


に、女は勢いよく首を縦に振った。もげるぞ。

いつもの黒いコートなどではきっとアレだからと言われていたので、ジンもしっかり私服だし(でも黒い)、並んで立つと意外にも女は上背があるようで、ジンの首辺りに顔がある。


「お前、身長はいくつだ」
「ヒッ!あ、えっと、175……だったような……?」


そして今はカカト高めなパンプスを履いているため余計ジンに近い。なるほどな。

建物を出てジンが目配せしても女は本当に何も思いついていないようで困惑したように緊張しており、ジンは女の手を引いて歩きだし、己の車に乗り込ませれば女はまた小さく悲鳴を上げていた。

面白いな、この女。


「何か飲みてぇもんはあるだろ?」
「ないです」
「……は?」


女はまた悲鳴を上げ

「すみません!本当に、ただ研究しかしてこなかったので Aランチしか食べたことしかありませんし、喉を潤すものも水だったもので!」


強いて言えば美味しい水。

に、とうとうジンも吹き出すように笑ってしまった。
それに対し女も驚いたように周囲を見渡し面白いものを探そうとしている。
己が「面白い女」なのだが理解はしていないようだ。


「ドライブだ」
「ジン様の負担ではありませんか?」
「『俺を』1日好きにできる券だ。好きに使え」


そのままジンは女の答えを聞かず車を走らせて2人分のコーヒーを買い、海沿いを走ったところで車を停める。
その間女はジンに買ってもらったコーヒーをずっと見つめているだけで飲もうともせず、ジンは煙草を取り出し紫煙を燻らせながら

「飲め」

と促すと女はようやく顔を上げジンを見つめながらコーヒーを飲み、むせた。


「に、苦い……!」
「っはっ!ははは!」


そう笑うジンを女は見つめながらフイと窓の外を見て
「世界って広いんですね」

なんて意味不明なことを呟きジンもふと色々と問いかけると女はどんどん答えていく。

根っからの研究員で休日なんて返上し、1人でブラック生活を送っている、と。
ジンは頷き道を戻っていく。

外は既に真っ暗で、時計を見ると20時を過ぎている。


「飯は?」
「?お腹空いてないので…ジン様のお好きなように…」


その言葉に、ジンは「そうか」と返し組織の所有する一つのマンションまで行き女の部屋に入ると時刻は 21時を大きく回っている。
ここまで来たらどうせと思いつつベッド以外何もない部屋を見てベッドに女を押し倒すと心底不思議そうに


「眠いんですか?」と。
「何だ、シネェのか?」
「???」
「俺と『寝ない』のか?」
「添い寝OKなんですか!?」
「……あ?」


ここまで無知で無欲だと逆に心配になってくる。ジンは内心(柄じゃない)と思いつつ女の横に入るとそのベッドは背の高い女に合わせているためジンがしっかり入れることに笑う。

どうせ週末なのでいいだろうと思って女を抱き寄せると、今日何度も聞いた悲鳴をあげ女は近くにあるジンを見つめ小さな声で

「夢みたい」

と呟き、ジン思わずその唇に噛み付くように口付けて、その後ジンは毎週末、女の部屋を訪れ共に眠りにつくようになったのは余談である。


この感情の答えに、女はいつ 気づくのだろうか。








ジン様大好きでございます!
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