テニスの王子様
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「……やばっ……ガッサガサ……」
朝起きて顔洗ってなどの諸々の作業を済ませてから登校し唇に触れて呟いた。
それを耳にした友人が「うん?」と首をかしげてきたので端的に
「唇が荒れてる」
と伝えた。
「リップは?」
「キュレル売り切れてて買えなかった~」
「はは、ウケる。でも問題ないんじゃな……あったか」
「あったよ」
起き抜けはまあいい。朝食後もまあいい。学校に来て幸村と会うことがやばい。クラス公認(何で他人に認められなければいけないんだろう)で 幸村と付き合っている、いわゆる恋人枠にいるのだがその幸村の過度のスキンシップのせいで唇が荒れた。
簡単に言うとキスのされすぎてお手入れが間に合わずこのような結果に。
「贅沢な悩みですこと」
「他人ごとめ……!」
「だって私がキスされてるわけじゃないもん」
「ゔっ…それは、そう…だけど……」
幸村が他の女の子に(するはずないだろうが)キスをしたらベコベコに凹むだろう。それすなわち別れるなので。
「うー……治るまでキスさせんとこ」
「えっ」
「ん?」
友人を見るとさっきまでスマホをいじっていたのに、今は私を見ている。
「さすがにそれは幸村くんが……」
「俺が、何?」
「っ、幸村くん!おはよう」
「精市、おはよ」
「おはよう」
そして近づいてきた顔にパチンと手を当てて朝ちゅーを拒んだ。幸村はびっくりしていたが友人は「あちゃー」と頭を抱え私は荒れた唇が治るまでキスさせまいと誓った。
「俺、何かしたかな…」
愛しの彼女にキスを拒まれて5日。幸村は盛大に落ち込んでいた。
朝おはようのちゅー、お昼ご飯食べようとごちそうさまのちゅー、テニス頑張ってのちゅーとお疲れ様、そしてまた明日のちゅー。
それをこの5日全てさせてもらえなかったが故に幸村の落ち込む具合は半端じゃなかった。
キスを拒む以外はいつも通りなのにキスをしようとするとパチンと手で塞がれ明らかに嫌がっている。その理由がわからなくてイライラとしてしまう。
はあ、とため息を吐いて部室の椅子に座って項垂れている幸村に柳は面白いものを見つけた目で観察しデータを取る。
「蓮二、何か碧井に関する噂なんて無いよね?」
そう参謀に聞くくらいには堪えている。だが碧井は友人に「絶対誰にも言うな」と箝口令を敷いているわけで 柳にもその理由がわからない。ただ一つ、幸村に教え辛い噂ならあった。
「サッカー部の村井が重影さんに言い寄ってい、まて精市、“らしい”だ。確実ではない」
「村井って同じクラスの村井だよね」
「落ち着け」
今にもサッカー部に乗り込みそうな幸村を制し「噂だ」と話し幸村は膨れ面になってしまう。
「もしそれが本当なら碧井は……」
どんよりと目から光をなくした幸村を見て柳は「まずった」と思う。
だがそれでも噂は噂で柳も現場を見たわけではないし、もしそうならキスは拒めど部活終了するまで待ったりはしないだろう。
「碧井に好かれない俺なんていらないよ…」
想像以上に落ち込んでいる幸村を見て仁王はこっそりメッセージを送った。己の恋人であり碧井の親友である子に。
その子は碧井に「他人ごと」と言った子で仁王はあまり(人前では)イチャイチャしない質なので恋人がそうしたらやはり聞くのは女の友人だ。
メッセージを送るとすぐ返ってきた。「秘密」。なるほどの。つまり
「なに、幸村悪いことじゃないきに、安心せい」
「仁王、何か知ってるのかい?」
「知らんぜよ」
「はあ~……俺、何かしたのかな……」
話は振り出しに戻り練習時間になったところで幸村は赤也を捕まえてみっちりストレスを叩きつけた。
その頃碧井はリップクリームで潤いを取り戻した唇にガッツポーズを決め幸村の練習が終わるのを待つ。
この5日、キスできなかったのが碧井にもストレスでありチャイムが鳴ったところで荷物を持ち、一応トイレの鏡で髪型などを整えてから下校のための待ち合わせまで幸村を待ち、どんよりとしている幸村に慌てて駆け寄った。
「どうしたの?」と問うと幸村は碧井の肩を掴みそのまま勢いづいてキスすると 碧井はびっくりしたがそのまま受け入れてくれた。
そしてこの5日間の苦行(唇の荒れ)を説明すると翌日にリップクリームを大量に用意し、碧井とキスする度に塗りつけるほどに幸村精市と言う男の愛の深さが増していったのは余談。
2026/07/20
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